第4話 北エルフ王、ルドレス・アラドリエル
俺が弓の腕を示したことで、エルフたちは俺に対する評価を一変させた。
歓迎する雰囲気は全然生まれなかったが、少なくとも俺のことを侮らなくなった。
そして俺とカミラは、北エルフ王、ルドレス・アラドリエルと謁見することになった。
北エルフ族の王城は、巨大な樹木が丸ごと城になっている。
内部は広大で、いくつもの廊下と部屋がある。また樹木の外側に張り巡らされた枝一つ一つが階段になっていて、樹木の上の階へつながっている。
こんな馬鹿でかい樹があることにも驚きだが、それがそのまま城になっているのがもっと驚きだ。
「ようこそおいでくださった。私がルルの父、ルドレス・アラドリエルと申します」
謁見の間に現れた北エルフ王は、背の高い、壮年のエルフだ。
王冠をかぶり、手には白銀の錫杖を持っており、威厳とたたずまいが他のエルフとまるで違う。
「お初にお目にかかります。今川氏真と申します」
「カミラ・リュディガーと申します」
俺とカミラが挨拶すると、北エルフ王は微笑んだ。
その笑顔に他意はなく、俺たちのことを正当な客人として認めてくれている様子だ。
「魔王殺し殿とそのお仲間のカミラ嬢にあっては、ルルを救ってくれた一件の恩人です。私のことはどうか遠慮なくルドレスとお呼びください」
あの高慢なエルフたちの頭領というから、もっと傲慢でとっつきにくい人物かと思ったが、意外にも腰の低い方だった。
彼は深い緑の髪色をしていて、顔のしわは深いが、威厳のある若々しさを兼ね備えた顔立ちだ。
それからルドレス殿は、娘であるルルに目を向けた。
「ルルよ、この方が、君の想い人で間違いないんだね?」
え、ちょっ……それをいきなり聞いてくるか。
「そうです、お父様」
ルルははっきりとそう言って、俺のそばに近づき、抱きついてきた。
「ウジザネは、私の大切な人。そして、そこのカミラお姉ちゃんは、」
ルルは俺越しに、カミラの方を見た。
「私の友達で、手強い、らいばるだから」
カミラはそう言われて、少し驚いていたが、すぐにニコッと笑ってうなずいた。
「なるほど。ルルよ、良い人たちに出会えてよかったね。ウジザネ殿もカミラ嬢も、一人の父としてルルと仲良くしてくれて感謝している」
ルドレス殿は近づいてきて、俺とカミラの手を、順番に握った。
「それと、先ほどは部下のファラミンが無礼な態度を働いてすまなかった。彼には後ほど、相応の罰を与えておこう」
ルドレス殿は、謁見の間に控えていたエルフたちの中にいた、あのファラミンとかいう若いエルフに目を向けた。
ファラミンは体を縮ませて、頭を下げて震えていた。
なるほど、俺のことをルルに近づく悪い虫だと勝手に思い込み、ファラミンは暴走していただけのようだ。
「それにしても、ウジザネ殿の弓の腕には恐れ入った。自慢に聞こえたら申し訳ないが、我が北エルフ族はたしかに弓に秀でた者が多く、人間族よりも弓では負けぬぞと自負しているフシがある。だが、貴殿の弓の腕は、あまりにも破格だ」
ルドレス殿は、俺が持っている和弓を見た。
「少し、その弓を見せてくれないか」
「ええ、どうぞ」
俺は和弓を渡した。
「ほう、こういう造りの弓か……たしかに強力な矢を放てるが、使い手の熟練が不可欠……それに照準も定めづらく、弦の張りも強いため、並の力では引けない……いや、これは単なる腕力ではなく、矢を放つ姿勢や教えからして違うのか……?」
ルドレス殿は俺の和弓を観察して、俺の弓術について考察していた。
「ああ、すまない。少し熱中してしまった。返すよ」
「いえいえ、大丈夫です」
俺の手元に和弓が返ってきた。
「しかし、凄まじい弓だ。私も少々弓をたしなむのだが、いきなりこの弓を渡されて、貴殿のような強力な矢を放てと言われたら、まずできない」
「買いかぶり過ぎですよ。使い慣れていない道具を渡されたら、誰だって最初は苦戦するでしょう」
「いいや、違う。使い慣れていないという次元の話ではなく、練り上げた技量の度合いが違うと思うがな……つまりそれだけ、貴殿は血のにじむような努力を積み上げてきたというわけだ。違うか?」
血のにじむ努力、か。
それは、まあ、そうだ。
一宮流の師匠、随波斎殿から受けた稽古は、まさに修羅場だった。
剣術の稽古は自分の身のこなしや工夫で、体力が消耗しにくいやり方を編み出せるが、弓の稽古はそうもいかない。
矢をつがえ、引き絞り、放つ。
その動作が完全に固定されているため、マジでどうにもならない。
当然、手を抜くこともできないし、腕が疲れても他の筋肉を使って補助することができない。
そして随波斎殿のシゴキも鬼のようなシゴキだったから、まあ、もう、泣きそうになったね。ていうか稽古が終わったら、腕がピクリとも動かなくなるし。
「やはり貴殿の力は本物だ。魔王殺しという称号に負けぬ、豪傑である」
「ありがとうございます」
「うむ。さて、娘を救ってくれたお二方に、何の返礼もしないというのは礼儀に欠けるな……じいやよ、用意していたものを」
ルドレス殿に指示された老いたエルフが、お盆に三つの指輪を乗せて持ってきた。
「これは破毒の指輪という、エルフ族の鍛冶師の中でも限られた造り手しか造れぬ宝具だ。その名の通り、身に着けた者が毒物や瘴気に冒されることを防ぐ。毒の程度によるが、よほど毒に長期間さらされない限り、死ぬことはない」
毒を防ぐ!?
おいおい、それは凄すぎるだろ。
戦国の世では毒殺なんて当たり前だったし、そうでなくても、戦場で予期せぬ汚染にさらされて熱病にかかる者もたくさんいた。
毒殺といったら美濃のマムシ殿が有名だが、その他にも多くの戦国武将が毒殺を目論見つつ、自分自身も毒殺されることを警戒していた。そんな時代だ。
そういう時代を生きてきた俺にとって、毒を防ぐ指輪ってだけで、とんでもない性能の宝に思える。
「あ、ありがとうございます」
俺が驚きつつ受け取ると、ルドレス殿がクスッと笑った。
「ふふっ、貴殿のような英雄でも取り乱すことはあるのだな」
「英雄ではないですよ。少なくとも、俺はそんな器じゃありません」
英雄と呼ばれたことを否定した俺を見て、ルドレス殿は目を丸くした。
「謙遜ではない素直な否定……それほどの武を持っているというのに、自分を英雄とは欠片も思っていない……不思議な方だが、この方ならルルを任せても……」
ぶつぶつとつぶやくルドレス殿だったが、そこで若いエルフの戦士が、謁見の間に飛びこんできた。
「アラドリエル陛下!! 緊急事態です!!」
若いエルフは息を切らしており、顔は青ざめ、体中が血だらけだ。
ただならぬ出来事が起こったと、その場にいた誰もが理解した。
「何事だ」
「はぁ……はぁ……さ、里の北西に、大規模の魔界の門が発生しました!!」
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第2章、第4話を読んでいただき、ありがとうございます!!
今回はゆったり&プレゼント回だったので、次回はド派手な戦闘シーンを書きたいと思っております!!
エルフ王に認められた氏真や、ルルやカミラのシーンが良かった!!!
魔物たちと戦う氏真やカミラを早く見てみたい!!
次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
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今後ともよろしくお願いします!!
鈴ノ村より
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