第2話 北エルフ族からの挑戦状



 それから2日後。

 

 俺とカミラは、北国ブルフィンのさらに北方、森深い地にある北エルフの里に到着した。

 緑豊かな森林の奥、ほのかな花の香りと柔らかな木漏れ日が降り注ぐところに、エルフの里があった。

 鳥のさえずりと、小動物が木々を渡る音が聞こえる以外に、文明らしいざわついた喧噪けんそうはない。


 エルフは長命で、自然を愛し、物静かな、弓と魔術に長けた種族だったか。

 言われてみれば、こういう場所に住んでそうな種族だな。




「ウジザネ!!カミラお姉ちゃん!! 会いたかった!!」




 里に着くと、綺麗なトーガ服を着たルルが出迎えてくれた。

 最初に出会った時は髪も服もボロボロで、盗賊団に捕まっていたせいで、まともな食事も摂っていなかったから、痩せこけていた。

 しかし今は髪も肌ツヤも良く、前よりも表情豊かだ。




「おう、ルル! 元気だったか?」


「ルルちゃん、お久しぶり!」




 俺もカミラも、ルルを抱きしめた。

 ルルは俺とカミラの間に挟まって、しっかりと3人で抱き合った。


 だが、それからルルは、今度はなぜか俺の腰に抱きつき、腹に顔をうずめてきた。




「すぅー、はぁー」




 え? なにしてんだ、ルル。




「うん、ウジザネの匂い、すごく優しくて落ち着く……」




 匂い!? いやいやいや、そんな野郎の匂いなんて嗅いでも嬉しくないだろ!!


 


「え、ほんとですか? では、私も……!」


「って、おい、カミラも張り合うな!!」




 今度はカミラも俺に抱きつき、首とか耳元を嗅いでくる。

 甘えてくるルルの動きに乗じるとか、こいつも抜け目なくなったな!?


 俺はルルとカミラに前後から抱きつかれ、身動きがとれずにもがく。


 そんな場面で、里の奥から、若いエルフの男たちと老年のエルフが出てきた。

 全員、耳が長くてとがっているな。

 若いのは弓と剣を持ち、老いている方は杖をついている。




「ルル様、その方が魔王殺しですか」




 杖をついている老年のエルフが尋ねてきた。


 エルフらしく、めちゃくちゃ背が高いが、背は曲がり、杖をついている。

 ただ、よぼよぼした印象はない。

 長い白髪を後ろでまとめ、白いあごひげも胸あたりまで伸びているが、乱雑に伸ばした感じは一切なく、髪一本一本が透き通るほど艶めいている。



 

「そうよ、じいや」




 ルルはうなずき、微笑んだ。




「そうですか。あなたが姫様を救ってくださった魔王殺し、ウジザネ様ですな」


「ええ、まあ」




 老いたエルフの従者は、ニコリと微笑んだ。




「ようこそおいでくださりました。北エルフ王が奥にいらっしゃるので、案内いたしましょう」








 それから俺たちは北エルフの里の奥に案内された。

 白樺の木々は、前世で見たものよりも大きく、なおかつほのかに光っている。

 また木々の間を飛び回る蛍も、まるで俺たちを先導するように飛んでいる。


 なんとも幻想的な光景だ。

 見ているだけで楽しくなってくる。



 ただ、ひとつ難点がある。


 現在、俺はカミラとルルに両脇を固められている。

 右腕はカミラが、左腕はルルが、がっちりとつかんで離さない。

 別に歩きにくくはないんだが、周りのエルフの男たちの視線が痛い。



 ルルは北エルフ族の姫君だ。

 当然、他のエルフたちからも慕われ、愛されているのだろう。


 そんなルルが人間の俺にぞっこんで、なおかつ俺はカミラもはべらせている。

 俺たち3人の実際の関係性はどうであれ、見た目としては、俺がルルもカミラも同時に手を出している男に見えるだろう。


 


「あの、二人とも」


「なんですか?」


「どうしたの? ウジザネ」




 二人は俺にしがみついたまま、キョトンとしている。




「いや、ちょっと離れてほしいんだが」


「え、嫌です」「私もヤダ」




 なんでそこは息ピッタリなんだよ。


 


「あの人間の男……姫様というものがありながら、他の女にも手を出しているのか」


「魔王殺しの英雄らしいが、所詮は人間。なんと不道徳な」


「そもそもあのような若い人間の男が、魔王メルゴスを殺せたのか?」


「魂を斬ったと聞いたが、それもどこまで真実かわからんぞ。姫様が魔王の魂を追い出したところで、たまたまあの男が目の前にいただけかもしれない」


「姫様を虜にするだけでは飽き足らず、他の人間の女と同等に扱ってもてあそぶなど、許しがたいことだ。一刻も早く、姫様の目を覚まさせてあげなければ」





 ああ、もう、こうなるじゃねえか。

 エルフの女も周りにいるが、これらの非難の声のほとんどは、エルフの男たちから発されている。

 

 そこで、老年のエルフに付き従っていた若いエルフが、俺に話しかけてきた。




「時に、魔王殺し殿は、弓で狩りをされたことは?」




 弓か。まあ、それなりにあるな。

 前世でも自給自足をする旅はあったから、弓でウサギやイノシシを狩っていたし。




「ああ、それなりにやったことはあるぞ」




 俺が答えると、北エルフの青年はニヤリと笑った。




「ほう、そうですか。実はわたくしどもも、弓で狩りをすることが得意でして……せっかくエルフの里に来られたので、ひとつ余興として、私と勝負してみませんか?」




 なるほど、弓の腕を競って、ルルの前で俺に恥をかかせようってわけだな。

 勝っても負けても余興に過ぎないが、それでもエルフの男たちとしては、俺に敗北感を味合わせたいのだろう。



「ご都合が悪ければ、無理にとは言いませんが……」


「良いね、やろうか」


「っ……ふふ、そうこなくては」



 俺が二つ返事で受けると、周りのエルフたちが少し驚いた。

 だが、すぐに彼らはニンマリと笑い、ほくそ笑んでいた。

 エルフ族は全員が弓の達人らしいから、こいつはまんまと無謀な勝負を受けたと思われたのだろう。


 けど、俺に断る選択肢はそもそもない。


 俺が断ると「それみたことでしょう、やはり人間などこんなものですよ」とルルが言われて、彼女が嫌な思いをするだろう。


 ルルとカミラとは、まだ俺は男女の関係を持っていない。

 しかし、惚れてくれている女に恥をかかせるわけにはいかないからな。

 勝てるかどうかわからんが、カッコはつけさせてもらうぜ。








 というわけで、俺はエルフの青年と、弓勝負をすることになった。


 久しぶりに、一宮いちのみや流の弓術を披露するとしよう。

 戦国乱世の弓術を、エルフ族にも見せつけてやろうじゃないか。







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第2話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 カミラとルルのアプローチに戸惑う氏真が面白い!!


 氏真の弓の腕を早く披露してくれ!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

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 今後ともよろしくお願いします!!





 鈴ノ村より


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