魔界の門、発生編

第1話 開いてしまった魔界の門



 大陸北東、山国レジラント。




「緊急事態です!!我が国でも中規模の魔界の門が開かれました!! 次々と強力な魔物が現れ、各町村で被害が拡大しております!!」


「隣国トベブルクにも応援要請しましたが、向こうには大規模の魔界の門が発生したとのこと!! 援軍はすべて断られました!!」


 


 おびただしい敗戦の報、凶報の数々。


 レジラントは大陸北東の小国で、山深い地にある。

 大陸最大勢力のウォンドラス帝国に従属している小国であるが、国の歴史は長く、山育ちの兵士たちは精強で、侮れない武力を有していた。


 しかし、そんな歴戦の雄である小国も、絶体絶命の危機に陥っていた。




「……帝国に援軍を要請せよ。あの皇帝に借りを作ることは避けたかったが、背に腹は代えられない」




 小国の王は、苦い顔を浮かべつつも、決断した。




「しかし、魔界の門が同時多発的に開くなど、未だかつてなかったこと……数十年に一度しか開かぬはずだというのに、いったいなぜ……」



 

 王はひたいに手を当てて、ため息をついた。

 そして、ぬぐい切れぬ疑問と不安に、頭を抱えた。










 一方、その頃。

 今川氏真とカミラは。


 ーーー俺とカミラは、そんなことは露知らず、北国ブルフィンに訪れていた。


 北国ブルフィンは涼しい気候が特徴的で、冬季は雪景色が広がるが、夏季は避暑地として人気である。

 

 ルルは魔王復活の一件の後、北国ブルフィンにある北エルフの里に帰郷した。

 だから俺とカミラは、王都のリュディガー家で休息を取った後、一週間も経たないうちにルルに会いに行くことにした。


 ちなみに出発する前に、カミラの異母兄カイルが「妹を傷つけたら許さんぞ」と俺に釘を刺してきた。

 逆に異母姉のカレンは、カミラに何かを吹き込んでいたようだ。一体何を吹き込んだのか気になるが、聞くのも怖い。


 で、今は北国ブルフィンの王都の酒場で、カミラと呑んでいる。

 北国の酒だから、かなり度数が強いが……これもこれでけっこう美味いな。




「北エルフの里って、もっと北なんだよな。あとどれくらいかかるんだ?」


「そうですね、馬なら2日といったところでしょうか」




 俺の問いに、カミラが答えた。


 俺たちは2人とも馬に乗れるし、ルークス国王からいただいた金貨1万枚で、馬でもなんでも簡単に買える。

 お互い無駄遣いはしない主義だが、せっかく潤沢に資金があるんだから、旅が快適になるモノは遠慮なく買いそろえている。

 あ、1万枚全部は持っていけないから、カレンとカイルに預けてもらっている。カミラの兄姉なら信用できるし。




「あ、ただ、北エルフの里の周辺は、強力な魔物も出現するそうですよ。ウジザネさんなら大丈夫かと思いますが、よく出現する魔物の特性は把握しておきましょう!」




 そう言って、カミラは本を出してきた。

 なお彼女も度数の強い酒を呑んでいて、顔が赤くなり始めている。けっこう飲める方なんだな。




「この本は?」


「先ほど書店で買ってきた図鑑です! 北国ブルフィンに生息する魔物について書かれているので、これを読めばバッチリですよ」


「おう、いつもすまんな。準備が良くて助かる」



 

 俺がカミラに礼を言うと、後ろの席にいた男たちが大きな笑い声をあげた。

 



「がはははっ、まさかあんたら2人で北エルフの里まで行くってか!?」




 いきなり笑い声が上がったので、振り返ってみると、いかにも荒っぽそうな男たち3人組が席から立ち上がっていた。




「ずいぶんな別嬪さんだなあ。どうだ、俺たちと一緒に飲まないか?」


「そんなひょろい兄ちゃんにくっついていたら、早死にしちまうぜ。北エルフの里まで行きたいんなら、俺たちを護衛として雇った方が良いと思うがなあ」




 あー、やっぱりこうなるか。

 カミラは人目を惹くほどの美人だし、少し天然なところも、黙っていればわからないからなあ。


 あと、俺がひょろいのもいけないのかな。

 肉体は20代前半だから、威厳とか貫禄とかないし、あと自分で言うのもなんだが、顔立ちが少し女っぽいんだよな。

 そのせいでハッタリが効かないし、こうやって色んな輩に絡まれてしまう。




「なんですか、いきなり。消えてください」




 やばい、カミラの目が据わっている。お前らなんかが声をかけてくるな、という表情だ。

 しかも酔いが回っているから、いつもより殺気立ってる。




「っほほ、気の強いお姉ちゃんだな。ますます気に入ったぜ」


「おら、そこの兄ちゃん、もうお前は邪魔なんだから消えろよ」


「今なら怪我をさせずに帰してやるから、空気読んでくれや、なあ」




 男たちはカミラが一筋縄ではなびかないと思ったのか、邪魔な俺を排除しようとしてきた。

 まあ、そんなに凄んでも、全然怖くない。

 前世の戦国期は、もっともっと怪物がいたからな。こんな荒くれ者なんか、鼻くそみたいなもんだ。




「おい、何を黙って見てるんだよ」




 俺が動かないのを見て、男の一人が肩に手を置いた。

 

 そこで俺はその手を取り、




「ほいっ」




 と、荒くれ者の巨体を一回転させた。



 

「ぐべぁっ!??」




 顔から床にたたきつけられて、男は気絶する。




「なっ!?」


「てめえ、やりやがったなっ!!」




 男たちが激怒して襲いかかる。

 

 だが、その前に、グシャリという音が鳴った。




「あが、がが……っ!?」




 カミラの蹴りが、一人の男の股間にめり込んだ。

 すごい音が鳴ったから、男のアレはお陀仏だろう。




「消えてください、と私は言ったんですよ」




 カミラがゆらりと椅子から立ち上がり、残った男一人を睨みつける。




「な、ななっ、このアマっ……」




 男はわなわなと震えている。

 怒り、いや恐怖だな。喧嘩腰は崩さないが、もう限界のようだ。




「あ、そうだ」




 俺は胸に付けていた徽章を見せた。

 黒い徽章に、深紅の宝石。

 わかる人間には、その徽章の意味が分かる。




「あ、あんた、もしや、魔王殺し……!?」




 男は震えて、涙声になる。

 その男だけではなく、他の客たちも、魔王殺しと聞いて一斉に距離を取る。




「知っていたか」


「し、しし、知っていたら、あんたに喧嘩なんて売るかよ!?」


「いやいや、そもそも喧嘩自体売るなよ」




 俺は椅子から立ち上がった。

 それだけで、男は小さい悲鳴を上げて、尻もちをついた。


 いや、会計に向かおうとしただけなんだが。




「カミラ、酒代払って、部屋に戻るか」


「そうですね」




 俺とカミラは席から立ち、あらかじめ用意していた部屋に戻ることにした。

 この酒場は二階に宿泊施設があるところだからな。


 ちなみにちゃんと別室を取ったぞ。

 部屋を取った時、カミラは少し不満そうだったが。











「ーーーへえ、けっこう可愛い子を連れてるじゃない。けど、まだどこか2人とも初々しい感じね。多分だけど、あの人もまだ手を出していないようね」




 北国ブルフィンの都の街はずれ。

 そこで、一人の女性が片目を閉じてつぶやいていた。


 彼女の名は、ハル・レ・ウォンドラス。

 ウォンドラス帝国の第7皇女でありながら、帝国歴代でも指折りの大魔術師。


 彼女の魔術は万能で、かつ手札も多い。

 その中の一つに、小さな動物と視覚を共有する、という魔術がある。


 先ほど、彼女はブルフィンの酒場にいたネズミと、視覚を共有していた。

 つまりその酒場で起きたことは全て筒抜けで、当然ながら、氏真とカミラが男たちに絡まれていた場面も見ていた。




「けど、どうしようかしら。いきなりあの人にあったらビックリするだろうし、そもそも、あんなにカッコよかったかしら? いやまあ、カッコよかったのは当然だけど、久しぶりに若い姿を見たからドキドキしちゃうってもんだし、ああもう、今すぐに会ってみたいけどあの若い金髪の女の子と部屋でいい感じになってたら色々と心が壊れそうだし、なんならあの女の子ごとあの人のことを物理的に壊してしまいそうになりそうだから自重しないと、いやでも指をくわえて黙って見過ごしていたら、あの人もいずれ金髪の子に靡くかもしれないから……」




 と、ハルは街はずれの山で、一人で煩悶としていた。


 彼女は帝国屈指の魔術師だが、それと同時に、帝国でも随一の奇人・変人と言われていた。彼女の大魔力と不思議な魅力に惹きつけられて、彼女に従う勢力も多いが、帝国内には「あんな変な皇女なんか担ぎ上げてどうする」という派閥も多い。


 なお、当のハル皇女殿下本人は、そのような評判など気にしてない。

 派閥争い、根回し、政争……そんなことなど、心底どうでも良い。

 それよりも魔術の知見を深めることの方が重要で、この世界に転移してから、むしろそれだけが、彼女の生活の拠りどころだった。




「よ、よし、ビビっても仕方ないし……あ、会いに行こうかしら!!」




 ハルは茂みから出て、服に着いた葉っぱを払って、街の方へ行こうとした。


 その時、彼女の背後で、バチバチッ……という音が鳴った。




「ん?」




 彼女が振り返ると、そこには黒い円が、空中に浮かんでいた。

 その円はバチバチと音を発して、次第に大きくなっていく。




「え、魔界の門? なんでいきなり」




 ハルは目を丸くした。




「ーーー氷獄砲」




 だが、次の瞬間には魔界の門に対して、強力な氷魔術を発射した。

 あと数秒遅れていれば、大量の魔物が門から飛び出してくるはずだった。


 しかし、ハルが放った氷魔術は、魔界の門そのものを瞬間凍結させた。

 門から飛び出そうとした魔物も、その門の近くに群がっていた魔物も、すべて凍りついて全滅していた。


 そして門の機能が破壊されたことで、空中に発生した門は、消滅した。




「いや、今のはちゃんとした門じゃないわね。この国のどこかで生まれた魔界の門の余波で生まれた、小規模の『ひずみ』みたいなものかしら」



 

 ハルはそう言った。


 魔界の門だったら、もっと面倒なことになっていた。

 いくらハルの魔術でも、一発で破壊できるほど門は甘くない。




「……他にもいくつか、ひずみができたようね」




 ハルは森の奥に目を向けてから、ため息をついた。




「しょうがないわね。この国に義理はないけど、全部壊しておこうかしら」



 


 



 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第2章、第1話を読んでいただき、ありがとうございます!!


 これから第2章が始まります!!!!

 この章では魔物成分とラブコメ成分マシマシで行きますので、応援よろしくお願いします!!



 氏真とカミラの冒険、どんどん続きが読みたい!!


 魔界の門とか、いったいどうなるのかワクワクする!!


 新キャラのハルがどういう行動をするのかすごく気になる!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)


 皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!


 今後ともよろしくお願いします!!





 鈴ノ村より

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