第30話 決着の一太刀、そしてお帰り、ルル

 


 俺は呼吸を整え、左文字を構える。


 今から俺が繰り出そうとしているのは、鹿島新当流の極意であり、今の俺が使える最高の一撃。


 それでいて剣の真理がつまった、至高の領域のわざ

 あらゆるものに囚われず、天衣てんい無縫むほうの心とともに放つ、一振り。




「鹿島新当流奥義、ひとつの太刀」




 全身全霊をこめて、俺は左文字を振り下ろした。

 これでもう終わっても良い、死んでも構わないという覚悟とともに。


 左文字さもんじが閃き、縦一文字に世界がひらける。


 魔王メルゴスが解き放った闇を、左文字が引き裂いたのだ。




『馬鹿な!! 我が闇はあらゆる物体、生物を滅ぼす禁術……それを、ただの剣で、魔力すら持たぬ人間ごときが!?』




 目の前にいた魔王は、俺が闇を切り裂いたことに驚いている。


 ただし俺も、原理は説明できない。

 俺ができることは尽くしたが、それはあくまで結果論だ。

 一の太刀が絶対に通用するとは言い切れなかったし、もしかしたら今頃、俺の体が消し飛んでいた未来もあったかもしれない。


 だが、結果は見ての通り。

 

 俺が卜伝ぼくでん殿から伝授された奥義は、魔王の闇を両断した。

 それは紛れもない事実だ。




『お、おのれっ、良い気になるなよ!! いくらその剣が我が闇を切り裂けるとはいえ、キサマが劣勢であることに違いはない!! あらゆる魔術を駆使して、追い詰めて殺してやる!!』




 さっきの闇が通じなかったことが、よっぽど悔しかったのだろう。

 魔王メルゴスは歯ぎしりして、俺に向かって手のひらを向けた。


 だが、俺はそこで、構えを解いた。




「なにっ!」


「ウジザネさん!?」



 

 俺が刀を構えなかったのを見て、エル・ドラドとカミラが驚いた。

 魔王はすでに次の攻撃態勢に入っているのに、俺が棒立ちになったからな。




『馬鹿め、勝負を捨てたか!! 死ねぇえええ!!』




 魔王メルゴスは手のひらに黒い炎をまとい、発射しようとした。


 しかし、


 そこで、いきなり動かなくなった。




『……なん、だ?』




 魔王メルゴスは目を見開き、俺を見つめている。

 ルルの肉体を操っているから、ルルの顔のまま呆然ぼうぜんとしている。




「言っておくが、俺の世界にも、不思議な現象はあった。あんたらみたいな魔力っていう力はないが、『たましい』という概念があった」




 不思議なことに、道をきわめた者にだけ見える境地があったんだ。

 剣、槍、弓などの武術、さらには芸術に至るまで……そういうのを極めた達人は、普通の人間よりも敏感になったり、不思議な感覚を得ることがあったんだ。


 そして、俺もそうだ。


 俺は魔王メルゴスの瞳を見つめる。

 魔王の瞳の色は邪悪で、ルルの優しい瞳とは全く違う。

 さらにそのも、見えている。



 

「あんたのクソみたいな汚ねえ魂も、俺は。あんたが俺の掌底と蹴りを喰らって怒り始めてから、よりはっきりと見えるようになったがな」




 俺は最初から、魔王メルゴスの魂が見えていた。

 おかしなことを言っているかもしれないが、本当のことだ。

 剣を究めた人間にしか見えないから、言葉では説明しづらいけどな。


 とにもかくにも、その魔王の魂に、俺は狙いを定めた。

 格闘で攻撃を積み重ねたのも、感情を引き出し、もっと魂をはっきりさせるため。




ひとつの太刀は、ただの技じゃない。さとりの境地だ。あらゆるものを感じ取り、己と剣を一体として、斬りたいものを斬る」




 俺は左文字を納刀した。


 次の瞬間、魔王メルゴスに乗っ取られたルルの体が震えだす。




「もう、分かるよな? お前の魂を叩き斬ったんだよ」




 魂が切断されたことで、魔王メルゴスの支配が解ける。

 ルルの体をおおっていた黒いもやが薄れ、かき消えていく。




『魂を斬っただと、馬鹿な、馬鹿なぁあああっ!!! おのれ、おのれ、ウジザネぇええええええっ!!!』




 魔王の断末魔が、城中に響き渡る。

 魂が壊れたら二度と復活できないと、コイツ自身が言っていたな。


 ということは、こいつは永遠に消滅することになる。




『そんな馬鹿な、キサマ、キサマは一体、なんなんだぁああ!?』


「なんでもねえよ。ただの暗愚な男さ」




 俺にそう言われて、メルゴスの顔が憤怒に染まる。

 弱い人間、それも暗愚と呼ばれる人間に殺されるなんて、魔王からしたら赤っ恥だろうな。




「てめえはルルをもてあそんだ。ざまあやがれ」


『……ッ!!!』




 俺の言葉に対して、魔王メルゴスは何も言い返せなかった。

 消滅する寸前は、何も声を発せなくなり、斬られた魂がグチャグチャに溶解して、最後は煙のように消え去った。


 魔王の魂が消えて、ルルの体から力が抜ける。



 

「おっと」




 倒れそうになったルルの体を、俺はそっと抱き止めた。




「……ウジ、ザネ?」




 ルルがまぶたを開けた。

 表情は疲れているが、その他は大丈夫そうだ。


 けっこう強めに叩いたり蹴ったりしたから心配だったが、まあ、後遺症は残らないだろう。




「もう大丈夫だぞ。あいつは死んだ」


「……ごめんなさい、ウジザネ」


「なんで謝るんだ」


「私はあなたも、みんなも、傷つけた。死んだ人だっている。私のせいで、こんなことになって」




 ルルの瞳には涙が浮かんでいた。

 魔王に操られていたということは、ルルにとっては言い訳にならないのだろう。

 自分のせいでこんな大惨事が起こったのだと、彼女は思っているんだ。




「お前のせいじゃない。悪いのは、全部あいつらだ」


「でも……ウジザネを、私は、殺してしまうところだった」


「良いんだ。俺は死ななかったし、何も問題ない。それに、何度でも言うぞ。お前は絶対に悪くない」




 俺はルルの涙を、指で拭いた。




「心配するな。お前のことは、これからも俺が守る。そして今度は、お前に誰も傷つけさせない」


「ウジザネ……うぅ……」




 ルルは俺の胸に飛びこみ、泣き続けた。


 自分はこんなことしたくないのに、魔王や一条いちじょう兼定かねさだのせいで、多くの人を傷つけてしまった。

 怖くて、悔しくて、悲しくて、辛かったはずだ。

 そして自分という存在を、恐れ、憎んでしまう気持ちも生まれたはずだ。


 だからこそ、俺は何度も「違う」と言うんだ。

 そして、何度でもなぐさめて、勇気づけてやるんだ。




「ありがとう……ウジザネ、ウジザネ……」




 泣いているルルの頭を、俺はずっと撫でていた。











 こうして、ルークス王城での戦いは終わった。


 一条兼定という転移者が起こした、王城での大事件。

 エルフの姫君の肉体を魔王が乗っ取り、多くの死傷者が出た。

 

 それでも勝ったのは俺たちだ。

 カミラのことも守り切れたし、ルルを魔王の手から取り戻すこともできた。

 犠牲は出たが、どうやら魔王メルゴスを相手にしてこの程度の被害で済んだのは、奇跡的なことらしい。


 だが、俺はいまいちピンとこないし、そこんところは割とどうでも良い。


 自分の周りにいる人間を守れるような力があれば良いんだ。

 そう思って前世で鍛え続けた武術が、すべて無駄じゃなかったのだ。

 この日に勝つために、俺は己を高め続けたのだと言い切っても良い。


 前世で俺にエグい修行をさせた師匠たちに、感謝だな。


 ……しかし、とんでもない戦いだった。


 奥義を放つ瞬間は、さすがの俺も死を覚悟したよ、ほんと。

 







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第30話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 ついに出た奥義の炸裂シーン、最高だった!!


 魔王メルゴスを消滅させてスッキリした!!


 ルルを元気づける氏真がかっこよくて良いぞ!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

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 追伸。


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 鈴ノ村より

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