第28話 魔王ルル vs 今川氏真



 俺は兼定を一刀両断してから、すぐさま大広間に戻った。


 大広間にいた魔物、魔術師たちは全滅していた。

 カミラやカイル、エル・ドラドといった者たちが奮戦したためだ。


 だが、魔王に肉体を乗っ取られたルルは、それ以上に強かったらしい。




「なんて、強さなの……」


「ちっ、魔王という呼び名は伊達じゃないな……!」


「はぁ……はぁ……ふふ、倒れる姿も美しく見せるべき、か」




 三人は膝をついていた。

 全員、服も鎧もボロボロで、彼らの周りには闇の残滓ざんしが散らばっていた。


 どうやら闇の魔術ってやつは、他の魔術でも防ぎきれないものらしい。

 

 だが、兼定かねさだを倒したこともそれなりに効果があったようだ。

 なんだかよくわからないが、空中に浮いている魔王も、肩で息している。

 兼定が死んだことで、魔王にも悪影響が生まれたってわけか。


 魔王は大広間に戻ってきた俺を見るなり、ギロリと睨んできた。




『ぬぅぅ……ドン・パウロめ、我を呼び出したまでは良いが、存外に使えぬやつだ』




 ルルの姿のまま、魔王メルゴスは忌々しげにつぶやく。




『まずは貴様から殺してやるぞ!! 死ね、転移者め!!』




 魔王は俺に手のひらを向けて、黒い炎を浴びせてきた。

 黒い炎は俺のことをしつこく追いかけてくる。避けても避けても、まるで生きているかのように追ってくる。




「風遁奥義、乱波らっぱうずっ!!」




 避けきれないと判断した俺は、左文字を構えて、高速回転斬りを行う。


 しかし黒い炎は弱まることなく、俺に向かってきた。

 くそ、さすがにタダの炎じゃねえってわけか。




『無駄だ、それは我が闇を帯びた魔界の炎よ!! 人間ごときの手品で対抗できるものか!!』




 魔王は邪悪な笑みを浮かべ、高々と叫ぶ。

 ルルの顔のまま、悪辣あくらつな笑みを浮かべるなよ。腹立たしいったらありゃしない。


 だが、厄介なことには変わりない。

 黒い炎の弾丸は、俺のことを正確無比に追いかけてくる。

 当然ながら当たったらマズいことになるだろう。俺は魔術を使えないから、カミラたちのように防ぐこともできないしな。




『これで終わりだ……ふんっ!!』




 魔王は腕を薙ぎ払い、横一列の黒炎の壁を生み出した。

 黒い炎が壁となって迫り、逃げ場所がなくなる。



 

「風魔忍術、たたみ返しっ!」




 倒れていた魔物の死体を蹴り上げて、それを盾代わりにした。

 元々は部屋の畳をはね上げて防御する術だが、まあ、魔物でも同じことだ。


 しかし、状況は依然として悪いまま。

 俺はルルを傷つけたくないのに、ルルを乗っ取った魔王は、そんなことお構いなしに魔術を使ってきやがる。


 なら、やるべき攻め手は一つしかないな。

 多少、ルルの肉体を傷つけることになるが、最もマシな手はあれしかない。




『しぶといやつめ!! 消し飛べ、邪神の豪炎ボルカノンッ!!』




 魔王は両手を組み合わせてから、どす黒い炎の火柱を落としてきた。

 俺が魔物の死体を盾にしたのを見て、真上から一気に焼き殺そうとしたのだ。

 その範囲は広く、天井が溶け、床が落ち、辺り一面が火の海になる。


 なんてことをしやがるんだ。カミラたちは避難できたようだが、逃げ遅れた貴族や衛兵もいて、そいつらは一瞬で消し炭になっちまった。

 

 しかし、好都合だ。

 大技を放ったことで、俺は魔王メルゴスの視界から消えることができた。


 あとは一瞬。一瞬の好機さえあれば、この魔王をぶっ倒せる。


 


『ぬぅっ、そこだな!!』



 

 俺はガレキの中をかいくぐり、魔王の背後から接近したのだが、魔王はぐるりと背後に向き直った。




『残念だったな……消え失せろ!』




 魔王は俺に手のひらを向けて、黒い炎の球を放った。

 俺の目の前に、邪悪な炎が迫る。


 そしてーーー爆発が起こった。




『ふははははっ!! 所詮は魔力も使えぬ矮小わいしょうな男よ!!』




 魔王メルゴスは大口を開けて笑う。

 敵の死を確信し、己の勝利を疑わない。


 たしかに魔王の魔力は圧倒的だ。

 ほとんど魂が現世から消えかかっているというのに、辺り一帯を焼き尽くすほどの魔術を操るのだから。


 しかし、騙し合いは、この俺の方が一枚上手だ。




「風魔忍術、変わり身の術……我ながら上手くいったぜ」




 魔王が焼いたのは、俺が用意した魔術師の死体。

 俺はあの一瞬で、自分と死体をすり替えた。

 その勘違いにより、一瞬のスキが生まれ、本物の俺は魔王の背後に回った。



 

『なっ、いつの間にっ!?』




 完全に背後を取られた魔王は、目を見開く。




「喰らえ、菩薩ぼさつしょうッ!!」


 


 俺が放ったのは、禅定拳法の一の型。

 内部に衝撃を通すこの技は、余計な場所を破壊しない。

 ルルの肉体を極力傷つけず、意識だけを刈り取るための技だ。




『がはぁあっ!?』



 

 肉体を共有しているせいか、魔王メルゴスも苦しむ。

 これでルルの肉体が完全に動かなくなれば、俺の勝ちだ。




『おのれぇぇ……よくもやってくれたなっ!!』




 だが、そう簡単にはいかなかった。

 

 ルルは完全に意識を失い、そのまま気絶するような動きを見せた。

 しかし魔王メルゴスが、魔力で強引にルルの肉体を再び動かして、俺を思いきり殴りつけてきたのだ。




「ぐぁっ!!」



 

 俺はわき腹に拳を喰らって、思いきり壁に叩きつけられる。

 あんな小さなルルの体なのに、まるで馬車と正面衝突したかのような威力だ。

 つうか、今のであばらがいくつか折れた。呼吸するたびに激痛が走りやがる。




『かくなるうえは、我の魔力で手足を動かして、全員殺してやる……この小娘の意識を乗っ取れば、もっと簡単だったというのに……!!』




 なるほど、な。


 俺の一撃で、ルルの意識はすっ飛んだ。

 宿主であるルルの意識を乗っ取って、ルルの心を邪悪に染め上げようとしたのだろうが、それはもうできないわけだ。

 

 今のメルゴスは自分の残った魔力で、ルルの肉体をいちいち細かく操作しなければならないってことだ。




『キサマだけは確実に殺してやる。覚悟しろ、氏真とやらっ!!』




 魔王はルルの両手から、黒い剣を生み出した。

 確実に俺を仕留めるために、魔術の剣で直接斬るつもりだな。




「かは、はっ……上等、上等……!!」




 俺は血まじりのたんを吐きつつ、左文字を構える。

 斬り合いならこっちのもんだ。怪我は負ったが、敗ける気がしない。


 それにさっきから観察していたが、ルルの肉体を覆う黒いもやが薄くなっている。

 もしかしたら、魔王の方にも時間の猶予ゆうよがなさそうだな。




『魔王メルゴスの剣にて、キサマを処刑してやる!!』




 メルゴスは黒い双剣をたずさえ、猛攻を仕掛けてくる。

 弱っているといえど、すごい速度だ。

 気を抜いていたら、一瞬でズタズタにされちまう。


 だが、俺も防戦一方ではない。

 剣の腕だけなら、師匠の方がもっとヤバかった。


 いくら魔王とはいえ、斬り合いで負けやしねえ!!




「鹿島新当流……やなぎノ太刀っ!!」




 激しい攻めを見切って、返しの太刀を振るう。

 さすがは天下の名刀、左文字さもんじだ。

 どす黒い魔力の双剣を、真っ向から叩き斬ることができた。




『なん、だと!?』




 ただの刀に、自分の闇の剣がへし折られた。

 いくら魔王といえど、その光景には衝撃を受けたらしい。


 そして、俺が扱うのは刀だけではない。




「まだまだあっ!! 裏・飛鳥井あすかい流、八鶴やかくきゃく!!」


『がっ……!?』


 


 斬った勢いを殺さずに体を回転させて、回し蹴りを魔王の首に叩きこむ。

 なるべくルルの肉体を傷つけたくないが、そうも言っていられない。

 せめて傷が残らぬように、格闘で追いこむのが精一杯だ。 




『うぬぅあああああっ!!』




 魔王は叫び、その場で床を踏みしめた。

 直後、地面から衝撃波が走り、闇の火柱がいくつも噴き出す。


 至近距離にいた俺は、その衝撃に押されて、またしても吹っ飛んだ。

 

 ただし今度は、少々まずいことになった。

 俺はフッ飛ばされて地面に転がったんだが、その場所が悪く、地面から噴き出た闇の火柱をまともに浴びてしまった。


 すぐに地面を転げまわり、自分の体についた火は消したが、それだけでは解決しなかった。




「ご、ほっ……体が、熱、い……!?」




 俺の全身に痛みが走り、なおかつ体が熱い。

 闇の魔力が、俺の体の奥まで燃やしたのだろう。とんでもなく体が重だるくなり、全身が痛くて痛くて仕方がない。


 直感だが、自分の肉体どころか魂も汚染されている、とわかる。

 どんな毒物よりもヤバすぎる、と一瞬で理解した。

 これが闇の魔力なのか。

 下手な炎魔術を浴びるよりも、何倍も苦しくて、痛くて、熱すぎる。




「ウジザネさん!!」




 カミラが俺のもとに駆け寄り、かばおうとしてくる。


 


「ごほ、ごほっ……ダメだ、来るんじゃ、ねえ」


「っ……いいえ! それは聞けません!!」




 カミラは俺の言うことを聞かず、魔王に対して剣を構える。

 たしかにカミラなら、風魔術で多少は対抗できるかもしれないが、それでも危険すぎる。




嵐の槍ストーム・ランスッ!!」




 カミラは剣を構え、風魔力をまっすぐ突き出す。

 風の刃がいくつも重なって一本の鋭い槍となり、魔王に向かって飛んでいく。




『ふん、雑魚め』




 しかし、魔王メルゴスには通じなかった。

 闇をまとった手で風の槍を受け止め、槍自体を消滅させる。


 カミラにとって最大威力の一撃だったが、メルゴスの力は圧倒的だ。


 


『終わらせてやろう、氏真とやら』




 そこで魔王は指先から、黒い渦を生み出した。

 今までの闇よりはるかに暗い、漆黒の渦だ。


 


『これは深遠の闇を内包した、うずだ。人間が触れたら、肉体どころか魂までも消滅する禁術よ。転移者らしいが、二度と現世に湧かぬよう、魂ごと消し去ってやろうぞ』




 その漆黒の渦が、みるみるうちにふくれあがる。

 そして、人間をすっぽりと呑みこんでしまうほどの大きさになった。




『永劫の消滅をくれてやろう……深遠の渦ロミゴスッ!!』




 魔王が指先を向け、闇の渦を発射する。

 螺旋を描く漆黒の渦は、俺とカミラに迫る。


 カミラは俺の目の前に立ち、避けようとしない。

 本気で俺をかばって、死ぬつもりか。




「もう良い。ありがとうな、カミラ」




 俺はカミラを突き飛ばして、自分が前に立つ。

 倒れたカミラは目を見開き、俺を見ていた。


 悪いが、お前を死なせるつもりはない。

 かばってくれる気持ちはありがたいが、俺は、愛する人間を犠牲にすることが大嫌いなんだ。







 ……ただし、俺もタダで死ぬつもりはないがな









 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第28話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 魔王とほぼ互角に戦える氏真が凄すぎる!!


 緊迫した勝負、アクションシーンが良かった!!


 次回で氏真がどうなるのか気になる!! ワクワクすっぞ!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)


 皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!


 今後ともよろしくお願いします!!


 


 追伸。


 なお、仕事や体調の都合により、毎朝の投稿ができない場合がございます!!


 地道に書き続けますので、応援よろしくお願いします!! そして、待たせてしまってゴメンなさい!!



 鈴ノ村より

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