第25話 古代の魔王、ルル



「お久しぶりですねえ、エルフの姫君よ」




 西洋の聖職者のような恰好をした、その男。

 俺はその男の顔を、知っていた。


 だが、考えるよりも先に、俺は走りだした。




「はぁっ!!」


「ぬうんっ!!」

 



 聖職者の男に対し、A級冒険者エル・ドラドと将軍ザルツが、同時に斬りかかる。

 当然だ。ルルのそばには、国王がいたのだから。

 ルルももちろん大事だが、彼らにとって一番守るべき人間は国王だ。


 しかし、聖職者の男は難なく2人の剣をかわして、素早く距離を取った。




「侵入者だ!! 衛兵、集まれっ!!」




 将軍ザルツが怒鳴る。

 野太い声が轟き、衛兵、騎士がぞろぞろと駆けつける。


 周りの貴族たちも状況を把握しきれていない。

 だが、自分たちが連れてきた護衛をそばに控えさせて、自分の身を守っている。




「無駄ですよ……さあ、目覚めなさい、古代の魔王よ」




 その男の言葉とともに、ルルが倒れる。




「ルル!!」


「ルルちゃん!!」




 俺とカミラがルルのもとに駆け寄ろうとしたが、




「っ……待て! みんな、!!」




 と、エル・ドラドが叫んだ。


 その剣幕に驚き、俺も、カミラも、急停止する。

 

 直後、ルルの体が起き上がる。

 いや、起き上がるといった表現は少し違う。


 起き上がるのと同時に、ふわり、と空中に浮きあがったのだ。


 そして、ルルの瞳は紫色に染まり、ひたいには真っ赤な刺青のような紋様が浮かび上がっていた。




『ーーー我を呼び起こしたのは、誰ぞ』




 その声は、いつものルルの声ではなかった。

 自分の心臓に指を這わされているような、ゾッとするほど邪悪な声だ。




「私でございます。魔王様」




 そう語るのは、聖職者の男。

 胸に手を当てて、うやうやしく頭を下げる。




『大儀である。名はなんという』


「私は、この世界では、ドン・パウロと呼ばれています」


『なるほど、転移の業を得た者だったか。道理でこの世界の禁術に触れ、我が存在を復活させたわけだ』


「その通りでございます」




 ドン・パウロと名乗った男は、ルルに向かって頭を下げる。




『しかし、ここは騒がしいな……ふんっ!!』




 ルルは空中に浮かび上がったまま、腕を無造作に振るった。

 その直後、真っ黒な波動が放たれる。

 駆けつけた衛兵たちが一斉に吹き飛び、さらには大広間のすべてを闇の波動が薙ぎ払っていく。


 



「ウジザネさん、私の後ろに!!」


「陛下、僕のそばに!!」




 カミラの風が俺を守り、エル・ドラドの黄金の光が王様を守った。

 どうやらあれも魔力に関係する攻撃らしい。

 とっさにカミラが守ってくれなければ、俺も吹っ飛ばされていたわけか。




『ほう、少しは骨のある者がいるようだな』




 ルルは歯を見せ、残虐な笑みを浮かべる。


 いや、あれは断じてルルじゃない。

 アイツは、ルルの肉体を乗っ取って、好き放題に使っているんだ。

 異世界について詳しくない俺でも、なんとなくわかる。




「古代の魔王、メルゴス……エルフでありながら、魔に染まり、血塗られた覇道を突き進み、悪逆非道の『魔王』の名を冠した存在か!!」




 そう叫んだのは、王様だった。




『我を知っているのなら話が早いぞ、人間の王よ』




 ルル、いや、メルゴスは、王様を見下ろす。




『この国の支配権を我に譲れ。さすれば命は取らん。また我に付き従うと誓う者たちは、すべからく、人ならざる存在へと変えてやろう』


「たわけたことを……貴様のような邪悪な魔王に従えば、人としての破滅だ!! 余の目が黒いうちは、絶対に貴様なぞに従わん!!」




 国王は気丈に叫んだ。

 年老いているといえど、その威厳と覇気は力強い。




『そうか。ならば、滅びよ』




 魔王メルゴスは、手のひらを国王に向けた。

 そして巨大な闇の波動が放たれ、エル・ドラドと国王に襲いかかる。




「させないよ!! 『ナザレの天蓋てんがい』!!」


 


 エル・ドラドは光のドームを生み出し、闇の波動を防いだ。

 2人は無事だったが、波動の余波を受けた床や円卓は、ぐじゅぐじゅと泡立つ闇に覆われて、物体そのものが崩れ落ちる。




『ほう、人間でありながら光の魔術を使うか。エルフ以外には使えぬと思ったが』


「ふふ、お生憎あいにくだね、魔王。僕の黄金の輝きは、世界の誰よりも美しい。君の醜い闇なんかに負ける道理がないのさ」




 こんな時だというのに、エル・ドラドは相変わらず自分の美しさを誇示する。

 しかし、異常事態であっても心が乱れないというのは、本物の英雄である証だ。




「ふふふ、さすがはA級冒険者。復活したばかりとはいえ、魔王様の闇魔術を防ぐとは、なかなか侮れませんねえ」




 ドン・パウロはそう言うと、パチンと指を鳴らした。


 すると、大広間の至る所から虎や獅子のような魔物たちが現れ、さらには入り口の方から、黒いローブを着た男たちが乱入してくる。

 魔物は爪と牙で、黒いローブの男たちは魔術で、大広間にいる貴族や騎士たちに襲いかかる。貴族や騎士も応戦するが、分が悪く、押されていく。




「さあ、戦力はこちらが圧倒的に上ですよ。死人が増える前に、投降すべきではありませんか?」




 ドン・パウロはいやらしい笑みを浮かべる。


 さすがのエル・ドラドも、眉間にしわを寄せる。

 僕なら魔物や魔術師たちを一掃できるが、そうなると王を守る者がいなくなってしまう、と考えていた。


 だが、ここにいるのはエル・ドラドだけではない。

 



「禅定拳法、二の型……明王みょうおうしょう!!」


風の連続矢ウィンド・アロウズ!!」





 氏真の掌底が巨大な魔物を吹き飛ばし、カミラの風魔術が魔術師を蜂の巣にする。

 



「まだまだ……裏・飛鳥井あすかい流、猛禽烈舞もうきんれつぶ!!」




 さらに氏真は激しく舞い踊り、魔物たちを次々と蹴り飛ばしていく。

 魔物も、魔術師も、圧倒的な脅威である氏真を真っ先に狙ったが、どの攻撃もヒラリとかわされ、逆に派手に蹴り飛ばされていく。


 


「お、おお、なんという武術だ!!」


「助かりましたぞ、その、ウジザネ殿!」


「ありがとうございます、カミラ嬢!!」




 貴族たちも手のひらを返して、氏真とカミラに感謝を示す。




「やはり厄介な男ですねえ、氏真殿」




 ドン・パウロは氏真の方を睨み、人差し指を向けた。



 

「この世界の異物には、さっさと退場してもらいましょう……灼熱光波ヒート・レイ




 ドン・パウロの指先から、灼熱の光線が放たれる。

 その速度は、常人の目では追えないほどだった。




「っ、危ない、ウジザネさん!!」




 カミラが叫ぶ。




「ちっ!!」




 氏真も反応しきれなかった。

 顔面に迫る光線は速く、もう避けられない。




氷瀑の帳アイス・シールド!!」



 

 その瞬間、氏真の前方を氷の壁が覆った。

 熱光線は氷の壁を溶かして進もうとしたが、分厚い氷によって熱が吸収され、阻まれてしまった。


 そして、一人の若者が現れる。

 顔は腫れているが、それでもなお堂々とした振る舞いを見せる、金髪の美男。




「か、カイル兄上!!」




 現れたのは、カイル・リュディガー。

 カミラの異母兄であり、3日前、氏真にボコボコにされた貴公子だ。




「すまない、助かった」




 氏真は素直に礼を言った。

 だが、カイルは冷ややかな目を向ける。




「ふん、ずいぶん脇が甘いんじゃないか。俺が守ってやらなければ、今頃、お前はあの世行きだったはずだ」


「そうかもな。だが、どうして俺を守った? 自分で言うのもなんだが、カミラに近づく馬の骨が消えてくれる、良い機会だったじゃないか」




 氏真が問うと、カイルは答えた。




「勘違いするなよ。俺はお前が嫌いだ。当然、お前には今すぐにでも消えてもらいたいが、あくまでもそれは、カミラと縁を切れという意味だ」




 そして、カイルはさらに続けた。




「それに……お前みたいな素性の知れぬ不審な男でも、今ここで死んだら、カミラが悲しむからな。可愛い妹が悲しむことは、絶対にしない」




 それからカイルは、氏真に刀を、カミラに長剣を渡した。




「これはお前の武器だろう。緊急事態だから、城の使用人から返してもらった」


「……恩に着る」


「気色悪いことを言うな。ほら、とっとと戦え」




 氏真はうなずく。


 この城に来てから、氏真は素手で戦っていた。

 もちろんそれでも氏真は強かったが、今度はさらに一味違う。




「ルル、絶対に助けるぞ……そして、お前は俺が斬ってやるからな、ドン・パウロ」




 氏真はルルとドン・パウロの方を見て、腰に刀を差した。


 彼の刀は、天下取りの刀。

 戦国を代表する名刀であり、無類の切れ味を誇る大業物。


 そして、偉大なる今川義元公から受け継いだ、形見の一振りである。




「行くぞ、左文字さもんじ



 氏真の瞳には、かつてないほどの殺気が宿っていた。







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第25話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 ルルが魔王になってしまった急展開、ドキドキする!!


 カイルみたいなキャラも個性的で好きだ!!


 左文字を使った氏真の本気、早く見てみたい!!


 次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 今後ともよろしくお願いします!!


 


 追伸。


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 鈴ノ村より


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