第23話 A級冒険者、黄金のエル・ドラド
ここで氏真視点に戻る。
俺が一人の貴族を威圧したことで、その貴族は小便をもらして気絶した。
それからも周りにいた貴族たちは
なんていうか、すげえキラキラしてる。
格好もそうだが、笑顔も、所作も、すごく美しく見せている。
俺もまあまあ顔は悪くないと思うんだが、現れた若者はかなりの美形で、異性どころか同性すらも魅了してしまうのでは、と思うほどだ。
「え、エル・ドラド様だ!!」
「お、おおっ……王国唯一のA級冒険者の、エル・ドラド殿か」
「なぜ、ここに現れたんだろう?」
「たしか陛下や大将軍とも深い仲らしいですぞ。冒険者でありながら、有事には
へえ、ずいぶんと有名人らしい。
しかもA級冒険者と来たか。
冒険者である俺とカミラにとっては、はるか格上の存在だ。
また、貴族たちの中には、このエル・ドラドという男が、俺のことを
同じ冒険者のはずなのに、こんなに待遇が違うのか。
「ふ、ふう、助かりましたな。いくらあの暴漢も、エル・ドラド殿の手にかかれば、無事では済まないでしょう」
「くふふっ、少々の力はあっても、所詮は下級冒険者。エル・ドラド殿に打ちのめされてしまえば良いんだ……」
これらの言葉を聞いて、俺はげんなりした。
こいつら、仮にも国を代表する上流階級だっていうのに、そんなことを言って恥ずかしくないのか?
虎の威を借りる狐、って言葉がここまで似合うヤツらも珍しいぞ。
と、そんな声を聞いているのかわからないが、エル・ドラドという青年は、俺に近づいてきた。
そして目の前に立ち、お互いに向かい合う。
「僕はエル・ドラド。世の人々は黄金のエル・ドラド、輝かしきエル・ドラド、美しき黄金卿エル・ドラド……という。僕を称える呼び名であれば、何と言っても構わないよ……おっと、すまないね。君の名前は?」
な、なんだその口上は。
「う、氏真だ」
「ウジザネ、か。不思議な響きだけど、悪くない心地の名前だね!」
エル・ドラドは握手を求めた。
俺は握手に馴染みがない。
だが、カミラが以前教えてくれたから、その手の意味を理解して、握手に応じることができた。
そして、エル・ドラドは白い歯を見せる。
なんだろう、笑顔が爽やかすぎるというか、逆に嘘くさい。
いや、これは素なのか?
自分をかっこよく見せることに、全神経を集中させているような。
「あんたも冒険者なんだな。A級ってことは、かなり強いんだろう」
「ふふ、まあね」
否定しないのか。かなりの自信家らしい。
「あんたも、謁見のためか?」
「そうだね。いつもは各地を飛び回っているんだけど、たまに用事があってここに来たりするのさ。今日も陛下とお話しする旨があってこの城に来たんだけど、何やら面白いことになっているなって思ってね」
エル・ドラドは握手を終えてから、
「そうだ。君と手合わせしたいな」
と、提案してきた。
「それはあれか? この国の貴族に対して
俺が問うと、エル・ドラドは高らかに笑った。
「あはははっ!! そんな無粋な理由じゃないよ」
「では、なんのために?」
俺が重ねて問うと、エル・ドラドは優雅な仕草でポーズを決めた。
「僕はルークス王国の客将でもあるけど、心は常に自由な冒険者さ。君に対していだいているのは、純粋な興味だけだよ。それに、君と武を高め合うことができれば、僕の魅力がこの世界をさらに輝かせるだろうから!!」
世界を輝かせるって……すごいこと言うな、コイツ。
でも、その言葉に、俺は嘘を感じなかった。
最初、笑顔や態度が嘘くさいと思ったが、逆にこれがエル・ドラドの
彼の仕草や表情には、邪念が一切感じられない。
彼はどこまでも自分が好きで、自分の興味おもむくままに生きているのだろう。
「ははっ、それなら悪くない。こんなヤツらをイジメるより、あんたと手合わせする方が楽しそうだ」
「ふふ、楽しみに思ってくれて嬉しいよ。僕や君の謁見の順番まで、まだ時間は有り余ってるから、心置きなく手合わせしようじゃないか!」
貴族たちは歯ぎしりするが、俺はそれを無視する。
「では、僕とともに中庭に行こうか!! そこなら存分に動けるだろうしね!」
エル・ドラドは颯爽と踵を返して、俺を中庭にまで案内した。
俺とエル・ドラドは、王城の中庭に移動した。
カミラやルルも当然ついてきてくれた。
また、広間にいた何割かの貴族たちも、気になってついてきた。
俺がエル・ドラドに倒される瞬間を見たいというヤツらが大半だろう。実際、そういう目線で俺を見ている。
だが、純粋に俺とエル・ドラドの勝負が気になるというヤツもいるようだ。
「さて、武器を使った手合わせをしたいところだけど、ここは国王陛下のお膝元だしね。あくまでも素手と魔術のみで勝負しようか」
エル・ドラドはそう言った。
たしかに、いくら外に出たとはいえ、ここはまだ王城の敷地内だ。
刃物を使って戦うことは厳禁だろう。
「ちなみに君は魔術を使えるのかい?」
「いや、使えん。だが、あんたは遠慮せず使ってくれ」
俺はそう言って、構えた。
名刀、
けど、それで問題ない。
「ふふ、なかなか粋な男だね。顔も良し、口調は少し乱暴だけど、性格も良し……僕の輝きには及ばないけど、僕とはまた違った系統で美しい男じゃないか!」
それは褒めているのか?
いや、多分、これでも素直に褒めているんだろうな。
「では、行くよ!!」
そう言いながら、エル・ドラドはいきなり接近してきた。
その接近速度は、凄まじかった。
俺でさえ、気を抜いていたら反応できないほど。
「はぁっ!!」
エル・ドラドが放ってきたのは、手刀だ。
しかしただの手刀ではなく、黄金の魔力をまとっていた。
なんとか避けたが、俺はすぐに「喰らったらヤバかった」と理解した。
「さあさあ、まだまだ行くよ!!」
さらにエル・ドラドは手刀を振るいつつ、華麗な足さばきとともに蹴りを繰り出してきた。
俺の蹴り技とは違った蹴り方だ。
俺は蹴鞠を応用した蹴り技だから、毬を蹴り上げるという競技特性上、相手を連続で蹴り上げる方が得意だ。
だが、エル・ドラドの蹴りは違う。
その長い足を上手く使って、前蹴り、回し蹴り、などを多用してくる。
すくい上げる蹴りよりも、打ち下ろすような蹴りが得意らしい。
つうか、かなり体力もありそうだ。
あんな
なら、こっちも蹴り技で応酬してやる。
「裏・
エル・ドラドの蹴りに、俺の蹴り上げが激突する。
空中で足と足が交差し、凄まじい衝突音が響いた。
「なんて
エル・ドラドが笑う。
彼の笑顔は純粋で、まるで子どものようだった。
その無邪気な笑顔に、俺も
さっきまで貴族のヤツらに対する怒りを抱いていたが、今はそんなことも忘れて、このエル・ドラドとの戦いを楽しんでいる。
「あんたも中々やるな!! ここまでやり合えたヤツは今までいなかった!!」
俺も賞賛の言葉をかけながら、蹴りも浴びせる。
正直、ここまで強いヤツと存分にやり合うのは初めてだ。
前世では実際に武術を使う場面がほとんどなかった。色んな大名に監視されて、その保護下で生活させてもらっていたからな。
だからこそ、俺は存分に楽しんでいる。
今まで
もちろん、すべて本気で蹴っている。
カイルやユルゲンにやったような、手加減した蹴りじゃない。
下手したら勢い余って殺してしまうかもしれない。
俺の蹴りは、当たり所が悪ければ人を殺してしまうからだ。
だが、逆に、エル・ドラドなら死なないだろうという信頼もある。
「裏・飛鳥井流、奥義……
そしてついに俺は、全力を出した。
激しく舞い踊りながら、怒涛のごとき連続蹴りを仕掛ける大技だ。
「うおっ……!!」
さすがのエル・ドラドも防戦一方になる。
俺の独特な動きを読めず、後手後手に回って追い詰められていく。
だが、その時。
俺の視界のすみに、カミラとルルが映った。
しかも2人の周囲を、貴族の護衛騎士たちが固めていた。
まるで、俺に見せつけるように。
「っ、はあ!!」
それを知らぬエル・ドラドは、俺にできた一瞬のスキを見逃さない。
彼の鋭い前蹴りが、俺の腹部を捉えた。
「ぐ、ううっ……!」
俺は後方へよろめき、片膝をついた。
とっさに腹筋を固めて、なんとか臓腑を守ったが、さすがに今のは効いた。
そして俺は、エル・ドラドの後方を睨む。
あいつら、マジか。
カミラやルルを囲めば俺が戦いづらくなると思って、こんな人質まがいな真似を。
その時、何かを察したエル・ドラドが振り返り、
「無粋なマネはやめたまえっ!!!」
と、吼えた。
その
「……おお、すげえな」
声一つで、はるか遠くにいた騎士たちをふっ飛ばしやがった。
魔術が便利だというのは知っていたが、声だけであれほどの効果が出るとは思わなかった。
それに、発動までが異常に速すぎる。
魔術というのは、高度になればなるほど『タメ』や『スキ』ができるもんだ。
しかし、黄金の咆哮を放ったエル・ドラドには、それらが一瞬もなかった。
バーバラの炎魔術も凄まじかったが、エル・ドラドの魔術は底が見えない。
「え、エル・ドラド殿、私たちは、何も」
騎士たちは何も意図していないと弁明しようとしたが、エル・ドラドには通じなかった。
「黙れ。気高く麗しい僕にはわかるんだ。お前たちみたいな汚物以下の腐臭を発する者の行動なんて、見ずともわかるに決まってる」
「そんな、言いがかりです! 私どもは、ただ、」
「黙るんだ」
それからエル・ドラドは、倒れた騎士たちに手のひらを向けた。
向けた手のひらに、まばゆい黄金の光が集まっていく。
「君たちは、僕の輝かしい魔術の素晴らしさを知っているはずだ。もしこれ以上、醜い言い訳をしようものなら……せめてその
「う、うわわわっ!! も、もも、申し訳ございません!!」
騎士たちはおびえながら逃げていく。
その場に残った貴族たちの中に、騎士たちに命じた者がいるのだろう。
誰なのかはわからないが、全員がどことなく居心地悪そうにしている。
カミラとルルはすぐにその場から離れ、俺のもとに駆け寄ってくる。
「すみません、ウジザネさん!! 私が不甲斐ないせいで……」
「良いんだ。悪いのはお前さんじゃなくて、あいつらの方だ」
俺はそう言った。
「すまなかったね。余計な邪魔が入ったせいで、君に不意の一撃を与えてしまった」
そこで、エル・ドラドが手を差し伸べてくる。
「気にしないでくれ。俺が気を取られたのは一瞬だったし、むしろ、あの一瞬に反撃を差しこむあんたが凄いんだ」
俺はエル・ドラドの手をつかみ、立ち上がった。
「それに、あんた、魔術を使わなかっただろう。魔術を知らぬ俺に、気を遣っていたはずだ」
「たしかに気は遣ったけど、格闘は本気だったよ。君の蹴り技は超人的だ。今のような勝負を10回やっても、君の格闘術には勝てる気がしないね」
そう賞賛するエル・ドラドは、きらりと白い歯を見せた。
会話の節々に自分のカッコよさを見せつけるの、ほんとになんなんだ。
「ずいぶんと楽しんだようではないか、わが友、エル・ドラド殿」
そこで現れたのは、深紅のローブを羽織った
頭には宝冠。老いているといえど、背筋は伸びており、その眼光は威厳と自信が満ち溢れていた。
そして彼のそばには、ローゼンミュラー伯爵と妻のカレンが立っている。
この世界に来て間もない俺でも、この人がどういう人間なのか、すぐに気づいた。
「お久しぶりです、陛下」
エル・ドラドが微笑み、片膝をついた。
ーーーやべ、謁見しに行く話だったのに、国王自らこっちに来ちまった。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第23話を読んでいただき、ありがとうございます!!
氏真とエル・ドラドの手合わせ、すごく見ごたえがあった!!
エル・ドラドのキャラが面白くて好きだ!!!
もっと色んなキャラの戦いを見てみたい!!
次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
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また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)
皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!
今後ともよろしくお願いします!!
鈴ノ村より
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