第22話 王城にて。陰口を言う覚悟、あるんだろうな?
3日後、俺とカミラとルルは、伯爵夫人であるカレンのコネを使って、王城に訪問することができた。
改めて思ったが、権力や肩書というのは、何かと役に立つ。
カミラの異母姉カレンは、ローゼンミュラー伯爵家に嫁いでいる。
『伯爵夫人』という肩書の力は、めっちゃ大きい。
ここまで来れば、俺とカミラの仕事はほとんど終わったな。
北エルフの姫君であるルルは謎の勢力によって、北国ブルフィンからこのルークス王国にまで連れ去られた。
その勢力の狙いはわからないが、ルルをさらって、良からぬことを考えていたのはたしかだろう。
そんなルルを故郷のブルフィンまで無事に送り届けるためには、やはり国の力が必要不可欠だ。冒険者ギルドに属する俺とカミラの力じゃ、どこかで限界がくる。
……ルルを最後まで俺たちの手で守り切りたいという気持ちも、あるが。
「ウジザネとカミラお姉ちゃんは、ブルフィンまでついてきてくれないの?」
王城に馬車で向かう途中、車内でルルがそう尋ねた。
え、これはどうなんだ?
俺は転移者だし、ルークス王国生まれの国民ではない。
ルルとともに国外に移動することは可能なのか?
カミラはルークス王国民だろうし、何か規制がありそうだ。
だが、彼女もすでに騎士ではなく、自由業の冒険者だ。
となると、このままルルの帰郷を最後まで見守ることができるのか?
「できなくは、ないです」
俺が疑問符を浮かべていることを察して、カミラはそう答えた。
「国内外を移動することに、何か制限があるのか?」
「本来ならありません。出入国の手続きはありますが、冒険者は自由業なので、その国その国の法律さえ破っていなければ、何も制限されません。ただし……」
「ただし?」
「ただし今回の場合、私とウジザネさんには、何かしらの制限がかかると思います」
「なぜだ」
「今回のルルちゃんの誘拐事件に、私たち2人が『まったく無関係であった』と裏が取れるまで、出国許可は下りないと思います」
なるほど、俺たちにも容疑はかかるのか。
冤罪にまで発展しないだろうが、俺たちがルルをさらい、自作自演で王城に連れてきた可能性も……これまでの過程を知らぬ他人は、その可能性も捨てきれない。
だからこそ俺とカミラは、ルークス国王陛下にルルを引き渡した時点で、お役御免となってしまうのだ。
その後もしばらくは王国から監視の目がつくだろう。ルルと一緒に王国を出て北国ブルフィンまで付いていくなど、もってのほかだろう。
「……ヤダ」
そこでルルが、泣きそうな顔で首を振った。
「ルルは、ウジザネとも、カミラお姉ちゃんとも、離れたくない」
俺とカミラは何も言えなかった。
その代わり、2人でルルの事を思いっきり抱きしめた。
ルークス王城に着いた。
まず先にカレンを乗せたローゼンミュラー伯爵家の馬車、続いて、リュディガー男爵家の紋章が刻まれた馬車が、簡単な検問を済ませた。
それから2台とも城門をくぐって、城前の停車場で停まった。
馬車から降りると、石造りの巨大な城がそびえ立っていた。
こんな洋風な城をまじまじと見たのは初めてだな。
「さあ、行きましょう」
前に停まった馬車から、カレンとその夫のエドウィン・ローゼンミュラー伯爵が降りてきて、俺たちを城の中に案内してくれた。
なお、ローゼンミュラー伯爵は茶髪の
俺とカミラ、そしてルルが城の中を進んでいく。
荘厳な城の中をながめているだけでも中々悪くない。
どこに目を向けても、前世の日本にはなかった珍しい装飾ばかりなのだ。
「この広間で待っててもらうわ」
しばらく城内に進んでから、謁見の間の手前で待たされることになった。
周りには多くの貴族や官僚がいた。謁見を待っている者や、社交のために出てきている者など、さまざまらしい。
「まず、私たち夫婦が陛下に挨拶してから、あなたたちを通してもらう。それまで待っててもらえるかしら」
「ああ、問題ない」
俺はうなずく。カミラもルルも、承知していた。
それからカレンと伯爵は、先に謁見の間に入っていった。
しばらく待っていると、周囲からひそひそと声が聞こえてきた。
「聞きましたか。どうやらあの冒険者たちが、北エルフの姫君を保護したと」
「ふん、にわかには信じがたいな」
「だが、本当のことならば、本日この場で陛下に
「はっ、私は信じぬぞ。
場違いな俺たちが本日謁見するということに、貴族たちは不快感を示す。
「ですが、あの金髪の女性は平民ではなく、あのリュディガー男爵家の庶子らしいですぞ」
「噂には聞いている。武芸にかまけて花嫁修業で落ちこぼれて、社交界から消えていった出来損ないだと」
「たしか騎士になったのではないか?」
「ぷふっ、どう見ても騎士の格好ではなく冒険者だ。騎士になるというのも、所詮はお嬢様のオママゴトだったのやもしれませんな」
「いやいや、幸運なことではないでしょうか。オママゴトでしたら、年老いる前に早めに辞めることができたので」
今度はカミラに対する中傷の言葉が聞こえてくる。
「そもそも北国ブルフィンから、まだ何も捜索依頼も来ていません。もしかしたらあのエルフの小娘も、どこかで適当に拾ってきただけかもしれませんねえ」
「陛下に虚言を申せば、処刑されるのは間違いない。メッキが剝がれる前に、尻尾を巻いて逃げれば良いのだ……くくくっ」
おうおう、言いたい放題言ってくれるじゃねえか。
しかし、どの世界でも、上流階級の人間はネチネチしてるなあ。
俺が妻とともに京に移住した際も、京の貴族は俺たち夫婦に対して陰口を言っていたもんだ。
武士でありながら貴族の真似ごとをしている半端者、血の臭いが取れない野蛮人、所詮は家を守り切れなかった暗愚などなど……まあ、色んな角度からの悪口だな。
基本的に、俺はそういう悪口なんざ、どうでも良いと思っている。
喧嘩は買うが、明らかに自分より弱い人間に陰口を言われたぐらいでは、屁とも思わなかったからな。
「……大丈夫だよ、ルルちゃん」
「うん……」
カミラは難しい顔をしながら、ルルをそばに抱き寄せている。
彼女も中傷の言葉を受けているというのに、幼いルルの気持ちに寄り添い、守ろうとする姿勢を見せている。
ーーー重ねて言うが、俺は、悪口なんざ、どうでも良いと思っている。
だが、俺以外の人間に対する悪口は、
ひとかけらも許さねえよ。
「なあ」
俺は貴族たちの中で、最もガタイの良い男に近づいた。
「あんたさ、俺たちに文句あるのか」
「なっ、なんだと、口の利き方に気を付けよ!!」
「るせえよ。でけえ図体しているクセに、ウジウジしゃべってんなよ」
俺が詰め寄ると、その貴族の護衛騎士たちが前に出る。
なるほど、それなりに屈強そうな護衛を引き連れているな。
おそらくこの貴族、軍に属しているはずだ。
本人の体つきが日頃から鍛えているような様子だし、護衛も雇われの者ではなく、軍の部下といったところだろう。
「おら、下賤な者に言われ放題でおしまいか? やっぱり僕ちゃん怖いから、って影にコソコソ隠れるか?」
俺がさらに挑発すると、護衛も、護衛に守られた貴族も、怒り心頭といった顔つきになる。
周りにいた貴族のほとんども、自分のことも小馬鹿にされていると察して、俺に対して不快感をあらわにする。
すげえ空気になったな。
俺に対して、嫌悪と
だがな、先に礼を欠いたのはあんたらのほうだぜ。
「こ、この、無礼者が……かまわん、叩きのめしてやれ!!」
「ははっ!」
護衛騎士たちが、俺を取り囲む。
もちろん城内で
「そら」
「がっ……はぐぅ……!?」
一番先に殴りかかってきた護衛の拳をかわしてから、みぞおちに掌底を浴びせた。
護衛騎士は鎧を装備していたが、ごほっと血反吐を吐いて、のたうち回る。
一の型、
内部に衝撃を通すこの技は、多少の鎧なんて関係ないんだよ。
「な、なんだと!? い、一体何をしたんだ」
一発で護衛騎士が倒れたのを見て、貴族がわなわなと震える。
恐怖、不可解、混乱といった感情が、俺にも伝わってくる。
俺のことを侮っていた連中も、今の一撃で、コイツはヤバいと気づいたらしい。
残る4人の護衛たちも、俺のことを警戒して近づいてこない。
じゃあ、ここでダメ押しと行こうか。
「なんだ、ルークス王国の武人は大したことねえなあっ!! エルフのお姫様の護衛も、俺にやらせた方が良いんじゃねえかぁ!? なんせ陰口を叩くだけしかできない軟弱な愚か者ばかりらしいしなぁっ!!」
あくまでも武人、に絞って挑発した。
国自体を侮辱したわけじゃないから、この言葉一つで処刑はされないはずだ。
しかしこの挑発は、絶大な効果を発揮した。
俺を囲んだ護衛たちはもちろん、周りにいた貴族やその護衛たちも、それどころかこの広間の警護についていた屈強そうな王城騎士たちも、まさにブチ切れる寸前だ。
「この、無礼者があっ!!!」
護衛たちが
なりふり構わず俺を叩きのめすつもりらしい。
だが、こういう勢い任せなヤツらは、ある意味隙だらけだ。
「三の型、
俺が続いて繰り出したのは、禅定拳法の三の型。
流れる水のごとき受け流しから、反撃の掌底を打ち込む技だ。
相手が思いきり攻めてくるほど、こっちも威力が上がるってワケだ。
「ぐふっ!?」
「が、はっ……!」
「おごっ! ごほっごほっ……」
全員が俺に攻撃を受け流されて、反撃をモロに受けた。
床にのたうち回り、苦しそうに反吐を吐く。
「馬鹿な……こんな、こんなヤツに……!!」
大柄な貴族は顔をゆがませ、震えている。
そんな貴族に、俺は近づく。
「ひっ」
「さて、やっと本番だ。準備は良いよな?」
ーーー大柄な貴族は、恐怖していた。
良くない。準備なんてできているはずがない。
なんで、なんで下賤の者が、私に陰口を叩かれたぐらいで、こんな暴挙に出たのか。
間違っている。向こうが自分に手を出そうだなんて、間違っている。
私は生まれながらにして選ばれた者なのに、どうしてこんな恐怖にさらされなければならない。
そう言いたいのに、言えない。
言葉一つで平民を支配できるのが、上流階級の特権だというのに。
「た、ただで、済むと……」
「あ!? 全然聞こえねえよ」
「っ!……こ、こここ、こんな真似をして、ただで済むと、」
「思ってねえよ」
「は……はぁっ?」
「わかってるよ。城の中で暴れたんだ。そりゃタダじゃ済まねえだろう。だが、俺たちは命を賭けて仕事をして、ひょんなことから、そこのエルフの姫様を助けた。今も命を賭けて姫様を守っているんだよ。とっくに命を張っているんだよ、こちとら」
氏真の覚悟が伝わり、大柄な貴族はその場で尻もちをついた。
「命を賭けている人間を馬鹿にしたんだ。あんたも命を賭けている……そういうことで良いんだよな?」
良くない、まったく良くない。
自分は選ばれた人間なのだ。特権階級なんだ。
こんな、なんでもない日に、なんでもない場所で、命を賭けたくない。
ちょっと、ちょっとだけ馬鹿にしただけじゃないか。
なのに命を賭けさせられるなんて、全然釣り合わない。
「ほ、ほんの、冗談で……」
「聞いたこっちは冗談じゃないんだよ。全部、本気に捉えたからな」
氏真は拳をバキバキと鳴らす。
「ほら、立てよ。最初の一発はアンタから殴らせてやる。なんなら魔術をぶっ
「ひ、ひいいいいいいいいっ!!」
ーーー殺される。相手は武器を持っていないのに、自分は殴り殺される。
大柄な貴族は尻もちをついたまま、ついにその場で気絶した。
彼の股の間から、濡れたシミが広がっていく。
あまりの恐怖に耐えかね、王城の広間で失禁したのだ。
氏真はやれやれと首を振った。
「殺される覚悟もないくせに陰口なんて言うなよ……あんたがたも、そう思うだろう?」
氏真は周りにいた貴族たちに問いかける。
その問いかけは当てつけではなく、本気だった。
本来、武士にとって舐められることは『死』を意味する。
陰口を聞かれたら、そこで殺し合いになってもおかしくないのだ。
それが戦国の、武家の習わしだ。
それに比べたら。
自分に対する中傷を無視できる氏真は、これでもまだ、圧倒的に甘い人間なのだ。
そんな氏真も、身内を侮辱されたら到底許すことはできないが。
そして、
貴族たちは目線を下げて、氏真と目を合わせないようにしている。
完全に
ルークス王国の貴族、重鎮たちが、一人の男に威圧されて動けなくなっている。
と、その時。
「はーーはっはっ!! なにやら面白い男が現れたようだねえ!!」
冷え切った空気にまったく似合わない、明朗快活な男の声が響いた。
氏真が振り返ると、
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第22話を読んでいただき、ありがとうございます!!
氏真が騎士たちを倒すシーンがスカッとした!!
氏真の男気に惚れる!!暗愚だったとは思えない!!
新しいキャラの登場が気になる!!
次回もまた読んでやるぞ、ジャンジャン書けよ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
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皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!
今後ともよろしくお願いします!!
鈴ノ村より
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