第19話 カミラの兄、カイル・リュディガーとの決闘

 

 

 ルルを守りつつ氏真と王都に向かうと決まってから、カミラは王都の別荘宛てに手紙を書いた。

 手紙には自分の近況と、王都に帰ってくる理由をつづった。


 ウジザネという男に助けられたこと。

 騎士を辞めて冒険者になったこと。

 エルフの姫君を保護するために王都に戻ること。


 その内容の手紙を送ってから、カミラは氏真とルルと一緒に、王都に帰ってきた。


 王都にあるリュディガー男爵家の別荘に着くと、手紙で事情を知っている兄が快く出迎えてくれるとカミラは思っていた。


 しかし、カミラは忘れていた。


 兄であるカイル・リュディガーは、


 超ド級のシスコンだったということを。




「貴様だな……俺の妹をたぶらかして騎士を辞めさせて、冒険者などという職に引きずり込んだ男は!!」




 ここで氏真の視点に戻る。


 別荘の前に馬車を停めて降りると、玄関から一人の男が出てきた。

 眉は吊り上がり、顔は怒りで朱に染まっている。

 その目は俺を睨みつけていて、なんというか、反応しづらい。


 顔はカミラに似ており、金髪の美男だ。

 しかし瞳の色は茶色だな。カミラは庶子って言っていたから、母の瞳が違うのかもな。


 妹を、って言っていたから、この男がカミラの異母兄、カイルなのだろう。




「兄上、おやめください! この方は私の命の恩人です!!」




 馬車から降りてきたカミラが止めに入る。

 また屋敷から使用人たちも出てきているが、彼らもアタフタしている。




「離れていろ、カミラ!! 俺が今からコイツの化けの皮を剥いでやるからな!」




 カイルはカミラの制止を振り切り、俺に近づき、にらみつけてくる。


 聞いていた話と全然違うじゃねえか。

 優しく迎え入れてくれる兄上、って言ってたじゃんかよ。




「ウジザネ、とか言ったな」


「ああ」


「今すぐカミラとえんを切ると誓って、ここから消えろ」




 カイルの要求に対し、俺は首を振った。


 どんな経緯であれ、すでに俺はカミラの友であり仲間だ。

 いくら家族であろうと、言葉一つで引き下がるもんか。




「断る。カミラは俺の仲間だ」




 俺がそう言うと、カイルは白目の部分すらも真っ赤に充血させる。

 激昂寸前げきこうすんぜん、という表情だ。




「う、ウジザネさん……」




 一方、カミラは俺の方を見て、頰を染めて目をうるませている。

 いや、気持ちはわかるが、ときめいていないで、もっと必死に兄貴を止めてくれ。




「若様、お嬢様と客人の前では……」


「お前たちは出てくるな。これは俺の家族の問題だ!!」




 カイルが言うと、止めようとした使用人たちも引っこむしかない。




「ウジザネよ。ならば、力づくでわからせてやる。裏庭に来い!! このリュディガー男爵家の嫡男ちゃくなんカイルが、お前に引導を渡してやるからな!!」




 こうして俺はリュディガー家の別荘の庭にて、カミラの兄カイルと勝負することになった。


 どうしてこうなったと言いたいが、仕方ない。

 勝負というのなら、存分にやってやる。


 カミラの兄だから手心は加えるがな。




「はっ、いけないいけない、思わず見惚みとれて……ウジザネさん、本当にすみません。私の兄が強引で」


「ああ、心配するな。俺は大丈夫だし、お前さんの兄にも怪我はさせないさ」


「ありがとうございます。でも、兄には多少の怪我はさせても良いので、お気遣いなく戦ってください。そうでもしないとウジザネさんを認めないと思うので」


「おう、すまんな。そう言ってくれるとやりやすい」




 俺はカミラと耳打ちする。




「おい、気安く妹に話しかけるな!! さっさとついてこい!!」




 はいはい、わかったよ。




 さて、リュディガー家の別荘は大きく、敷地も広い。

 当然、戦う場所となる庭園も広く、美しい花壇や噴水があった。


 さすが貴族の庭園、といったところだ。

 こんな美しい庭園で戦っても良いのか? と、ためらっちゃうぞ。




「覚悟は良いな、ウジザネ……!!」




 カイルは剣を構え、体の周囲から白いもやが現れる。

 それと同時に、空気がどんどん冷えていく。


 カミラから少しだけ話は聞いている。

 氷の魔術を使う魔術剣士、と言っていたな。


 たしかに構えや足さばきは、かなり洗練されている。

 外交に関わる官僚だと言っていたが、武人として戦場に出ても名を挙げることができそうだ。




氷刃の雨アイス・フォール!!」




 カイルが遠くから剣を振るう。

 すると、上から鋭い氷が降り注いできた。




「兄上、いきなりそんな危険な魔術を!!」




 カイルが放った魔術を見て、カミラは叱責の声を上げる。


 カミラの言う通りだ。勝負とは言ったが、殺し合いじゃないはずだろ。

 なのに、いきなり蜂の巣にされかけているんだが。




「ったく、困ったもんだ」




 俺は氷の雨をかわしながら、一瞬で距離を詰める。

 油断してるとズタズタにされそうだから、いきなり『瞬歩しゅんほ』を使うことになった。




「なっ……はあっ!?」




 カイルは目を見開く。

 自分の魔術をかわされたことと、一瞬で距離を詰める俺の速さに驚いたのだろう。


 カミラやバーバラの魔術を見て思ったんだが、魔術というものは、使う直前と直後に『すき』がある。

 個人差はあるのだろうが、大きな規模の魔術を使うほど、その隙も大きい。



 ちなみに隙が少なかった順番で言うと。

 バーバラ、カイル、カミラ、ダグ、ディグ、最後にユルゲンだ。


 おそらく魔術師としての腕の良さが、隙を減らすのだろう。



 そんでもって、カイルの戦略は失敗だ。

 俺のことを圧倒する姿をカミラに見せつけようとして、いきなり規模の大きい魔術を使ってしまったのだ。

 だから回避さえできれば、氷の雨がいくら降り注ごうと関係ない。派手な攻撃だから、初見はびっくりするだろうがな。



 

「おら、間合いだぞ。斬りかかってこいよ」




 俺はカイルに反撃せず、目の前で手招きした。

 名刀、左文字さもんじも抜かずに、素手のままカイルと向かい合う。




「ぐ、ぐぐっ……なめるなぁ!!」



 カイルは氷をまとった長剣で斬りかかってきた。

 なかなか鋭い太刀筋だが、挑発されたせいで単調な動きだ。


 せっかくなら、大いに実力を見せつけるとしよう。

 普通に倒してもくじけなさそうなヤツには、絶対的な差を見せつけなければ収拾がつかないからな。




「それ、もーらい」




 迫る刃を最小限の動きでかわしてから、俺はカイルの剣をするりと

 これぞ、柳生新陰流やぎゅうしんかげりゅうの奥義。無刀取むとうどりだ。


 俺のはダチの柳生宗矩やぎゅうむねのりのパクリだけどな。

 アイツは俺がパクったのを見て、親父直伝おやじじきでんの技を盗むなよ! ってヘソを曲げていたなあ。




「えっ……」




 カイルは呆然としていた。

 気が付いたら手の中に剣がない。

 一瞬前まで自分が斬りかかっていたはずなのに、どうして。




「良い剣だな。しっかり研がれているし、よく使いこまれている」




 呆然とするカイルをよそに、俺は奪った剣をながめる。

 しっかし魔術って不思議だなあ。手品とかじゃなくて、本物の氷が刃をびっしりと覆っている。


 

「き、貴様……!!」




 勝負の最中とは思えぬ俺の態度に、カイルは悔しさと怒りでどうにかなりそうだった。氷魔術を使う人間とは思えぬほど、顔が怒りの炎に染まり、血管がちぎれそうになっている。




「あー。ごめんごめん、ほら、ちゃんと返すから」




 俺は剣を差しだした。

 その行動で、カイルの怒りは頂点に達した。




「おのれぇええっ!! 白氷双剣ツイン・アイスソードッ!!」




 カイルは俺が返そうとした剣を受け取らなかった。


 代わりに、両手から氷の剣を生み出して、斬りかかってきた。

 瞬間的に魔力を練り上げたのか、バーバラよりも剣を生み出す速度は速かった。

 

 しかし、接近戦なら俺の独壇場どくだんじょうだ。

 カミラには悪いが、兄ちゃんをキッチリとボコボコにさせてもらうぜ。




「よいしょっと、そりゃそりゃ、ほりゃほりゃあっ!!」




 俺はカイルの猛攻をかわしつつ、足のみで反撃する。

 蹴鞠けまりと格闘術を組み合わせれば、変幻自在の蹴り技となる。

 実を言うと、俺は蹴り技の方が得意だ。




「ごほっ、うぐっ、がっ、ぐ、げほっ……がぁあああっ!!」




 上段、中段、下段と打ち分けて、カイルの全身を余すところなく蹴りまくる。

 何発蹴られてもカイルは斬りかかってくるが、次第に弱っていく。

 

 綺麗だった顔も、ボコボコだ。

 汗なのか血のなのか、なんだかもうよくわからない感じになっている。




「ちく、しょおおおおっ!!」




 最後の力を振り絞って、カイルが猛然と斬りかかる。




「裏・飛鳥井あすかい流、八鶴やかくきゃく




 俺はその剣をかわしながら、体を回転させて、後ろ回し蹴りを浴びせた。




「ぐごっ!?」




 俺のカカトがこめかみに直撃したことで、カイルは一瞬で意識がすっ飛んだ。

 これでしばらくは起きないだろう。


 あ、もちろん本気で蹴ってはいないぞ。

 ちゃんと手加減して蹴った。

 本気なら、首の骨がヘシ折れてしまうから。


 なお、飛鳥井流はあくまでも蹴鞠けまりの流派だ。

 人を傷つけるための技は、飛鳥井流の裏で伝わるとされている。




「あ、ああ、あのカイル様が」


「カイル様が1対1で負けるなんて、こんなことが……」




 使用人たちは驚きすぎて固まっている。

 どうやらカイルの実力の高さは、彼らにとっても周知の事実だったらしい。




「まったく……勝負あり、ですね」




 逆にカミラは、俺が絶対勝つだろうと思っていた態度だ。


 少し離れた位置で見ていたカミラは、ため息をついていた。

 隣で見ていたルルも、腕を組んで、うんうんとうなずいていた。

 なんか2人とも反応が可愛いな。




「よし、これでしまいだな。カミラ、この兄貴を手当てしてやってくれ」


「わかりました。なんかもう、ご迷惑をおかけして申し訳ないです……」


「あー、良い良い。ルルも、待たせて済まなかったな」




 俺はルルのそばでしゃがみこんで、頭にそっと手を置いた。

 ルルも少し頬を染めて、うなずいた。




「う、ぐっ……こ、の、馬の骨、めぇ……」




 え、起きるの早くないか?

 いや、違う。気絶しているのに、うわごとで俺に挑んでいるらしい。


 そこまで来ると、逆に立派だよ。この妹大好き兄貴は。




 




◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第19話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 氏真の異世界転移とか、設定のクセがすごい!!


 カミラの兄ちゃんに実力を見せつけたシーン、かっこよかった!!!


 柳生新陰流まで会得しているとか、ヤバすぎだろ!!


 もっと氏真の能力や特技を見たいし、アクション無双させてくれ!!


 次回もまた読んでやるぞ、ガンガン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 今後ともよろしくお願いします!!



 鈴ノ村より

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