第17話 北エルフの姫君、ルル



「ほーい、ただいまー」




 俺はカミラとルルをともない、ギルドに戻った。




「ぷっ、ただいまって……ここは家じゃないんだけど」




 受付カウンターにいたバーバラはそう言った。




「まあ、とにかくお仕事お疲れ様。盗賊団はどうだった?」


「口ほどにもなかったぞ。あの程度なら、カミラ一人で滅ぼせたんじゃないか?」


「え!? いやいや、さすがにそこまでは」




 カミラが勢いよく首を振る。




「それはそうと、このエルフの少女がとらわわれていたぞ。土魔術で作った壁の中に、厳重にな」




 俺はバーバラに、ルルを紹介した。


 


「この子だ。この場合、ギルドで保護してもらえるのか」


「ええ、そうね。もちろん衛兵隊や他の治安維持組織に連絡しつつ、この子の身元を特定することになるけど」




 バーバラはカウンターから出て来て、ルルの前でしゃがみこんだ。

 男を誘惑するような妖しげな笑顔ではなく、優しい笑顔だ。




「君、お名前は?」


「……ルル」


「ルル、って名前なのね」




 バーバラはうんうんとうなずいた。




「ルルちゃんはどこから来たのかしら?」


「……北の、山奥の里から」


「悪い人たちに捕まったのは、どうして?」


「ここでは、言いたくない」




 ルルはそう言ってから、俺の足元をつかんで隠れた。

 バーバラはそれを見て考え込む。




「北の山奥、エルフの里……北国ブルフィンかしら」




 バーバラは俺の方を向く。




「ウジザネ、カミラちゃん、この子と一緒にギルドの休憩室に来てくれないかしら。もしかしたらこの子、ただのエルフじゃないかもしれない」


「ただのエルフじゃない? 一体どういうことですか?」




 カミラは首をかしげる。




「エルフ族は魔術に長けている上に、非常に長寿ちょうじゅなのよ。ゆえに魔力の成熟はゆるやかで、子どものエルフが魔力を発現することはない……なのに、この子の手枷てかせは、魔術を阻害そがいする特別製なの」




 バーバラはさらに声量を下げて、




「幼い頃から魔術を使えるエルフは、よ」




 と言った。


 どうやら、俺が助けたこの幼子は、かなりワケありのようだ。








 それから俺たちはギルドの奥にある休憩室に移動した。

 ここなら誰にも聞き耳を立てられないし、安全だという。


 時間をかけてルルの手枷を解いてから、怪我の手当てをしつつ、美味しいスープを食べさせた。

 怪我をしている上に空腹だと、治るものも治らないからな。


 ルルはまだ怯えていたが、俺に懐いてくれているのか、休憩室のベッドの上でも、俺にしがみついて離れなかった。




「……そうだったのね。ありがとう、ルルちゃん」


「ううん、良いの」




 バーバラが丁寧にルルから話を聞いて、ようやくひと段落ついた。

 ルルはあまりしゃべらなかったが、言葉の受け答えはしっかりしていた。


 ほどなくして、ルルは眠った。

 腹もいっぱいになり、安心したのだろう。




「何かわかったのか」


「ええ、だいぶね。この話は、知れば知るほど真っ黒って感じ」




 バーバラはいつになく真面目な顔つきだ。




「ということは、あの子、本当に北エルフの姫君なんですか?」


「間違いないわ」




 カミラが問うと、バーバラはうなずいた。


 この世界では、北エルフと南エルフに分かれるという。北エルフは白い肌、金髪、そして癒しの術に長けるらしい。

 そして南エルフは褐色の肌、黒髪、攻撃魔術に長けるという。


 まあ、そのくくりは良いとして。




「北エルフの里は、北国ブルフィンの中でも、かなり北側の山奥にあるのよ。しかも北エルフの王は、ブルフィン王から爵位をもらっている大貴族だし。その里の姫君が連れ去られたとなれば、国を揺るがす一大事だわ」




 ほほう、国を揺るがす一大事と来たか。

 たしかに、国を越えてまで迷子になる姫君はいないしな。

 誰かにさらわれた、と考えるのがスジだろう。




「しかも、厄介なことはまだあるわ」


「厄介なこと?」


「ええ。さっきのルルちゃん、このルークス王国まで連れ去られた時、って言っていたのよ」




 朱い髪の騎士?

 それって……アイツじゃないか?

 



「バーバラさん、その朱い髪の騎士って」


「私も同じことを考えたわ。きっと、あのユルゲンよ」



 

 上級騎士ユルゲン。

 カミラの元上官で、俺がボコボコにしてから睾丸こうがんをつぶしてやったヤツだ。

 

 アイツ、俺に痛い目に遭わされる前から、悪事に手を染めていたのか。

 やっぱりボコボコにして良かったと思う反面、生かしておいて良かったのかと思ってしまうな。




「じゃあ、ヤツから話を聞きに行くか? さすがに蹴るはもうないが、痛めつけて吐かせることはできるだろ」




 俺がそう言うと、バーバラは首を振った。




「それはできないわ。今朝、彼の死体が発見されたから」




 それを聞いて、カミラも俺も驚いた。




「えっ……!?」


「あ!? なんだそりゃ」




 バーバラはため息をついた。




「おそらく、口封じってことでしょうね。ユルゲンは誰かの指示でルル姫を護送して、盗賊団に身柄を売った、もしくは預けていた……ということだと推測できるわ」


「ルルを北国からこの国まで連れ去ったヤツらの一味に、ユルゲンが手を貸していたワケだ」


「きっとそうよ。あなたたちが討ったディグとダグの盗賊兄弟も、元は北国ブルフィンの魔術学院の中途退学者らしいし、それに、魔術を妨害する手枷は貴重品だから、盗賊程度が手に入れるはずがない……それこそ上級騎士のような、にしか手に入れられないわ」




 うわあ、知れば知るほど真っ黒だな。

 あのディグとダグの兄弟と、ユルゲンはつながっていたに違いない。


 となると、この港湾都市ハイドンにいる騎士たちも信用できないな。

 全員が腐敗しているとは言わないが、ユルゲンに感化されて悪事に加担する人間はいはずだ。

 なんせ優秀なカミラに嫉妬してイジメるくらいだから、性根は悪いだろう。




「それじゃあ、ルルの身柄はどう守るんだよ」




 俺はバーバラに質問した。

 俺はエルフについてそこまで詳しくないが、ルルがかなり身分のある少女だと理解している。

 そんな少女が多くの悪人の思惑に振り回されて、見知らぬ土地で盗賊に監禁されていた。


 とうてい見過ごすことはできない。


 こんな新米冒険者にできることは少ないかもしれない。

 しかし、俺がルルを助けたのだ。

 面倒そうな事件だからといって、「依頼は終わったから、はい、さようなら」なんて言いたくない。




「なら、方法は一つしかないわね」




 バーバラがそう言った。




「何か良い方法があるのか?」


「あるわよ。ちょっと2人には頑張ってもらうけどね」




 俺とカミラは顔を見合わせてから、うなずいた。

 カミラも、ルルを守るために力を尽くすと覚悟しているようだ。




「教えてくれ」




 俺が頼むと、バーバラはこう言った。




「王都に行って、この子を国王陛下に保護してもらえば良いのよ」








 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第17話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 氏真の異世界転移とか、設定のクセがすごい!!


 エルフのルルについての謎が気になる!!


 ここからどんな話が展開するのかワクワクした!!


 もっと氏真の能力や特技をを見たい!!


 次回もまた読んでやるぞ、ガンガン書けよ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 また気軽にコメント等を送ってください!!皆さまの激励の言葉が、鈴ノ村のメンタルの燃料になっていきます!!(°▽°)


 皆様の温かい応援が、私にとって、とてつもないエネルギーになります!!


 今後ともよろしくお願いします!!



 鈴ノ村より

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