第10話 上級騎士ユルゲン vs 今川氏真



 カミラを侮辱したユルゲンたちに対して、俺はやりたい放題に振る舞った。

 

 殴りかかってきた騎士2人を素手で叩きのめし、足蹴あしげにして、上級騎士ユルゲンを挑発した。

 案の定、ユルゲンとその部下たちは、俺に憎悪をぶつけてきたが、俺にとっては屁でもない殺気だ。


 そして、俺たちは街の大通りに出た。


 大通りに出ると、騎士たちは俺とカミラを囲んだ。

 おそらく逃げられないようにするためだろうが、はっきり言って無意味だ。

 そもそも俺に逃げるつもりなんてないし、仮に何か理由があって逃げようとするなら、俺の実力なら簡単に突破できる。




「おいおい、これは一体なんの騒ぎだ?」


「騎士団の方々が出て来て、なんか物々しい雰囲気だ」


「あそこの中心にいるの、騎士学校を主席で合格したカミラ様じゃないか?」


「ああ……それと、その隣にいる綺麗な男は誰だろう」


「さあ?」




 騎士たちが集まったことで、街ゆく人々も注目して集まってきた。

 ここまで来たら、互いに退くに退けないだろう。

 


 そこで俺は、手を叩いた。

 パンッという大きな音が鳴り、全員の視線が注目する。




「さてと」




 俺はカミラの方を見た。



 

「騒ぎになって申し訳ない、カミラ」


「え? い、いや、別に良いのですが……ただ、その、ウジザネさんが危険な目に遭わないか心配で」


「かかっ、ここに来て俺を気遣ってくれるのか。それはありがたいことだ」



 

 からからと笑い、カミラの肩を叩いた。




「で、どう思う?」


「どう、とは」


「今から俺は、お前さんの上官を叩きのめす。目が当てられないほどに痛めつけて、転がして、恥をかかせるつもりだ」




 氏真の言葉を聞いて、ユルゲンも騎士たちも殺気立つ。

 その殺気を肌で感じ取って、氏真はクスクスと笑う。




「この喧嘩が終わった後、おそらくお前さんはこの騎士団に居づらくなるだろう。もしそうなった時は、俺でできる限りのことで埋め合わせしようと思う」




 一転して、氏真は真面目な顔でそう言った。


 カミラは少し困った顔をしてから、微笑んだ。




「大丈夫です、ウジザネさん」



 

 カミラは自分の肩に置かれた氏真の手に、そっと触れた。




「私のことを守るためにここまでしてくださり、ありがとうございます。おかげさまで吹っ切れました」


「吹っ切れた?」


「はい。オーク討伐の任務中に1人になってはぐれた時も、そしてさっきの団長や先輩たちの言動も……いや、それよりずっと前から……私は対等に扱われていないって気づいていました」



 

 なるほどな。心のどこかでは、自分が不当なイジメを受けていると知っていたか。

 そして、それを払拭するために、まっとうに乗り越えるために、職務に励んでいたというわけか。


 ユルゲンも他の騎士たちも、カミラのような将来有望な若手が煩わしくて、あの手この手で足を引っ張っていたのだろう。


 くだらぬことだ。しかしな、一歩間違えれば命に関わることだった。

 俺が偶然現れなければ、カミラはオークたちに犯されて殺されていただろう。


 この落とし前は、相応そうおうのものでなければ。




「ならばカミラ、本気でやっても良いか?」


「はい。ただし喧嘩でも命を奪えば、マズいことになってしまいます。正式な決闘であるということであれば、たとえ一方が死んでも、不慮の事故ということで片付けられますが……」


「ああ、それは問題ない」




 カミラは難しいことを説明しようとしたが、俺は途中でさえぎった。




「こんな小物、命を奪うまでもない」




 俺はユルゲンの方を振り返った。


 ユルゲンは怒りの頂点に達していた。

 目は血走り、血管が浮き出て、朱の髪色と同じようになっていた。




「来い」




 俺は歯を見せて笑い、手招きする。




「おのれ……殺してやるっ!!」




 ユルゲンはいきなり剣を抜き、襲いかかってきた。

 いやいや、命を取りに来てるじゃねえか。

 この場合、どうしたもんかな。




「おっと」




 ひょいと剣をかわして、距離を取る。

 いくら格下と言えど、まともに当たれば死ぬな。かといって同じように刀を抜けば、俺がこいつを殺しかねないし。


 


「っ、せやぁっ!! はぁあああっ!!」




 ユルゲンは体を切り返して、連続で剣を振るう。

 しょうがないやつだな。だったら、こっちにもやり方がある。


 俺は腕を組み、




「ほりゃっ」




 剣を振るうユルゲンの腕を、下から蹴り上げた。




「ぐぁっ!? ぬ、ううっ……」




 痛かっただろうなあ。なんせ伸びきった肘の部分を蹴ったもんだから、関節も腱も痛めたはずだ。


 俺が今やったのは『蹴鞠けまり』と同じ要領だ。



 よし、これで行こう!



 人間が相手だと思わん。相手がまりだと思って、思う存分に蹴りまくってやる。これなら殺す心配もないし、素手で倒すよりも実力差がはっきりわかるしな!




「ほれっ、ほれほれっ」


「ぶっ、ぐっ、がはっ、ごえっ!?」




 ひじを傷めたユルゲンに向かって、俺は連続で蹴りを浴びせた。

 上下左右、自由自在に足を動かして、ユルゲンの腹に前蹴り、膝に足払い、顔に回し蹴り、頭にかかと落としを見舞う。


 雪斎せっさいの爺さんから仕込まれた『体術』に、飛鳥井あすかい殿から教えてもらった変幻自在の『蹴鞠道けまりどう』だ。そんじょそこらの蹴りとは違う。


 というわけで、この程度の敵など、両足だけで充分だ。

 まあ、本気を出せば人を殺せる威力を出せるから、今は5割程度の力で蹴っているがな。




「そいやっ!」




 最後の締めということで、みぞおちに前蹴りを浴びせて吹き飛ばす。

 ユルゲンは泥だらけになって転がり、嘔吐して、のたうち回る。




「ぐ、ぼえっ……がぁっ……」




 一方的にやられたユルゲンを見て、騎士も、民衆も、唖然としている。

 どうやらユルゲンは、この都市の中ではそれなりの実力者なのだろう。


 こいつらにとってはユルゲンがのたうち回るなど、信じられない光景らしい。




「さてと、勝負はついたな」




 俺はカミラの方を向く。


 カミラはうなずいたが、次の瞬間、顔を青ざめた。




「っ……ウジザネさん!! 危ないっ!!」




 カミラが叫び、俺はユルゲンの方を向く。




「焼け死ね、下郎があっ!! 強炎弾エルファイア!!」




 ユルゲンが上半身だけ起こして、手から炎の玉を放った。

 炎は大きく、強力な熱を帯びている。


 避けようと思ったが、それはできん。

 俺が避けたら後ろのカミラに当たるし、カミラも避けてくれたとしても、今度は別の誰かが犠牲になる。



 

「ちっ」




 俺は即座に着物を剥ぎ、全力であおいだ。

 ゴウッという強風が巻き上がり、巨大な火の玉は上にれた。


 これぞ『風遁ふうとん矢逸やそらし』だ。

 風魔小太郎殿ほどじゃないが、これくらいなら俺でもできる。


 


「お前、俺以外も巻き込もうとしたな」




 俺はユルゲンのもとに近づく。


 今のはさすがに俺も焦った。

 一度死んでいる俺はともかく、カミラや民衆も巻き添えを食うところだった。

 いや、おそらくユルゲンは俺の性格を読み、俺ならカミラをかばって炎を浴びるだろうと考えたに違いない。




「う、わ、悪かった!! 降参、降参するから……!!」




 ユルゲンはこの期に及んで、許しを乞うてきた。

 卑劣な男だ。そう来るなら、俺だって考えがある。




「やれやれ、仕方ないな」




 俺は微笑み、尻もちをついたユルゲンの脇を抱えて、立たせてやった。

 立たせてやった俺の行動を受けて、ユルゲンはホッと一息ついた。


 その直後、俺は全力で股間を蹴り上げた。


 グシャリ、という嫌な音が響く。

 手応えあり。な。



 

「がぁっ!!? ……あ、ぶうぁ……」




 ユルゲンは白目をき、泡を吹いて倒れた。




「仕方ないから、これくらいで許してやる」




 倒れたユルゲンに対して、俺はそう言い放った。







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第10話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 蹴鞠スタイルでボコボコにする氏真かっこよかった!!


 えげつない倒し方でスッキリした!!!!


 アクションシーンが面白かった!!


 次回もまた読んでやるぞ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 鈴ノ村より

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