第9話 侮辱には、侮辱を



 カミラに殴りかかろうとした大男を、俺はぶん投げてしまった。

 先ほどの嘲笑ちょうしょうと侮辱にイライラしたのもそうだが、負傷しているカミラを殴ろうとした男のことを許せなかったのだ。


 それにしても。


 この騎士たちも、それを束ねているユルゲンとかいう男も、ひどい小物だ。

 俺の見立てでは、この騎士たちの大多数は、カミラより弱い。

 単純な腕力とかならまだしも、練り上げた武術の実力と才能は、どう見てもカミラの方が上だ。


 いや、だからこそ、こういう手に出たのか。


 つまりはイジメだ。実力のある若手が気に食わないから、あの手この手でおとめようとするのだ。


 純真で真面目なカミラは、そういう思惑に気づきにくいだろう。

 たとえ気づいていたとしても、同じような卑劣な手でやり返したり、どこか外部に訴え出るようなことはしない性格のはずだ。

 彼女の性格上、実力や日頃の頑張りで見返そうとするに違いない。


 しかし俺は、そこまでデキた人間じゃない。




「おやおや、ずいぶんと軽い体だったな。ちゃんとメシ食ってるのか?」




 俺は気絶した騎士のほおを、ペシペシと叩いた。

 白目を剥いて、泡を吹いているから、まあ聞こえないだろうが。




「き、貴様あああっ!!」




 投げ飛ばしたのが俺の仕業だとわかると、別の騎士が殴りかかってきた。

 

 はあ、遅い攻撃だなあ。


 俺に徒手空拳としゅくうけんを教えたのは雪斎せっさいの爺さんなんだが、こんな軟弱な拳をあの人に打ち込もうもんなら、逆にブチ切れられてボコボコにされてるわ。

 あの爺さんは半端な攻撃を仕掛けたら、逆に10倍以上の反撃を浴びせてくるイカレ坊主だった。今川家の嫡男ちゃくなんだった俺をあれほど遠慮なくブン殴れるなんて、イカれているとしか言いようがない。


 というわけで、


 俺はその拳を楽々とかわし、逆にアゴ先を拳で打ち抜く。

 アゴを殴られた騎士の眼球が、グルリと白目をく。


 よし、こいつも意識がすっ飛んだ。

 しばらく寝ているだろう。




「おのれっ!!」




 さすがに2人連続でやられたことで、騎士たちも危機感を持ったのだろう。

 全員が腰に差した剣を抜き、俺とカミラに向けて構えた。


 ほうほう、素手の喧嘩なら、まだ手加減できたが……




「おい」




 俺も刀のつかに手をかけ、




「剣を抜いたら、遊びじゃ済まねえぞ」




 騎士たちに闘気をぶつけた。

 

 その直後、襲いかかろうとした騎士たちが動かなくなり、中には腰を抜かしてへたり込む者も現れた。

 ずいぶんと効いたな。もっとオークより度胸があると思ったが、やはり弱い者ほど群れるというのは本当だったようだ。




「こ、こいつっ……!!」




 中には俺の闘気にあらがい、剣を握りなおそうとする者もいた。

 けど、そいつらも体に緊張が走り、思うように動けていない。手も震えているし、手汗で剣を取り落としそうになっている。


 へびに睨まれたかえる、というやつだ。

 今、俺が襲いかかれば、コイツらをなで斬りにできるだろう。


 だが、そんなことはしない。

 カミラに迷惑がかかるからな。




「おい、ユルゲンさんと言ったか」




 俺は階段の踊り場にいるユルゲンに、目を向けた。




「負傷して帰還してきた部下をないがしろにするなど、将の風上にも置けんな。さらには率いている部下もデクの坊ばかりときたもんだ。ここにいる男たちは武人ではない。まるで口先だけの童子どうじだ」


「ぬうっ……!!」




 俺の言葉を受けて、ユルゲンの顔が真っ赤に染まる。

 意地悪い上に、挑発にも弱いのか。

 

 ならば、もう少し小突いてやろうか。



 

「ちなみにさっきから思っていたんだが」




 俺は2階にいるユルゲンを指差した。




「上から目線を向けるな、小僧。はっきり言って不快なんだよ」




 俺は口だけ笑い、目は冷たい視線をぶつける。


 それは威圧でありながら、挑発だ。

 これを受ければ、ユルゲンの選択肢は二つに絞られる。


 笑い飛ばして受け流すか、激怒して俺に痛い目を遭わせるか。



 

「ほれ、早くここまで降りてきて、俺の足元に這いつくばれ。それとも、この部下たちのようになりたいか? んん?」




 氏真は気絶している騎士の腹に足を乗せた。

 騎士はピクリとも動かず、されるがままになっている。


 目の前で部下が足蹴あしげにされている。


 これ以上ない、挑発。

 もはや笑い飛ばす選択肢も消えた。

 ここまで来れば、俺を討ち取るしかない。

 これを看過すれば、団長としての沽券こけんにかかわる。


 ユルゲンは心の内で、こいつだけは殺す、と決めた。




「貴様、名はなんという」




 ユルゲンは問う。


 だが、




「おあいにく、俺の名前はそこまで安くねえもんで」


「っ……!!!」




 氏真はケラケラと笑い、ユルゲンは憤怒の形相となる。

  

 侮辱に次ぐ、侮辱。

 素性の知れぬ優男に対して、名門貴族出身の騎士団長ユルゲン。

 本来なら身分の差で口を利くのもはばかられるものだが、氏真にとってはそんなこと関係なかった。


 なにせ、若い娘であるカミラを、下品な言葉で侮辱したのだ。

 氏真は文化人であったが、サムライの一面もあった。

 おなごを侮辱し、おとしめる男など、恥知らずな軟弱者である、と。


 一方、当のユルゲンも、生きてきた中でこれほど殺意を覚えたことはない。

 だがその殺気も、氏真からすれば貧弱そのものだった。




「さてと」




 くるり、と氏真は背を向けた。

 ここまで挑発すれば完璧。あとは適切な場所で叩きのめすだけ。




「表出ろ。遊んでやるから」




 俺はそう言って、ユルゲンを手招きした。


 ああ、なんだろう。

 今ふと思ったんだが。


 なんか俺、前田慶次まえだけいじに似てきたな。

 誰彼かまわずに喧嘩を売り、自分のを貫き通す、あのアホな傾奇者かぶきものに。

 アイツも俺のダチだったが、正直、ちょっと合わないなとも思っていた。


 しかしどうだ。

 こういう異世界に来て、知り合いもいない場所に来て。


 俺は初めて、他人に喧嘩を売った。

 前世の分も含めて、人生で初めて。








 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第9話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 氏真がユルゲンをボコボコにするところを見たい!!


 遠慮なく喧嘩してやれ、やったれ氏真!!


 次回もまた読んでやるぞ、鈴ノ村!!


 

 

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 鈴ノ村より

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