第8話 先輩騎士たちの侮辱と嘲笑



 俺たちは港湾都市ハイドンに足を踏み入れた。


 綺麗に石畳で舗装された街路と、石と木材を組み合わせた建物たち。


 前世の日本にはなかった、洋風の街並みが目の前に広がっていた。

 戦国時代の日本にも、こういう洋風の建物はいくつかあった。日本に渡来してきた南蛮人の商人や聖職者が、洋風の建物を建てていた。


 しかしその洋風建築も、戦国の日本ではあくまで少数派。

 俺が見ているのは、その石造りの洋風建築物しかない街並みだ。

 

 だからこそ、すごく新鮮に見える。

 異世界に来てから驚きの連続だったが、こういう景色を見れたことは幸運なことだと思う。




「ほほー、ずいぶん栄えているんだな」




 俺はそう言った。


 街ゆく人々の数も多い。遊んでいる子供、露天商、ドレスを着た婦人、武装した衛兵、法服を着た聖職者、筋骨隆々とした猟師……なかなか活気のある港町だ。

 それと、まあまあ俺が注目されているな。南蛮人っぽくない、は珍しいのだろう。隣にいるカミラは金髪青目の美少女だしな。




「ここは王国でも有数の交易所こうえきじょとしても盛んなので、人と物が集まるのです」




 女騎士カミラがそう言った。




「交易か。やはり商売が盛んな街は活気があっていいねえ」




 京の都も悪くなかったが、俺は大坂のさかいとか江戸の町の空気が好きだった。

 文化人のはしくれとしては、京の都の素晴らしさを推したいところだが……なんていうか、色んな面白い人間に出会うには、こういう民の活気の中に飛びこむしかないと思っている。


 貴族の方々との茶会や歌詠うたよみの会も好きだったが、あきないが盛んな場所にお忍びで遊びに行くのも楽しかったなあ。

 なお、家康とも町に繰り出して遊びに行ったこともあるぞ。アイツ、偉い殿様になってからもムッツリスケベなところは変わらなかったし。




「ウジザネさん、まずは私と一緒に騎士隊の詰所つめしょに来てくれますか。オークの集落一つが滅んだ件について、隊長に報告しなければならないので」


「おう、良いぞ。だが、怪我は大丈夫か」


「大丈夫です。動けないほどではないので」




 カミラはうなずいた。さっきは取り乱した姿を見たが、やはり気丈な女だ。


 俺たちは大通りを進み、街の中心にある騎士隊の詰所に向かった。









「ほう、これは立派な官舎だな」




 俺は3階建ての建物を見上げた。


 ここが騎士隊という組織の詰所らしい。

 カミラが言うには、国に仕える精鋭たちとのことだ。




「……ん? カミラ、どうした?」




 俺は隣のカミラに目を向けた。


 カミラは少し緊張した顔つきだ。

 先ほどよりも気分がすぐれていないのか。




「いえ、なんでもありません」


「そうか」




 俺はそれ以上、深く聞くことはしなかった。


 カミラに続いて俺も騎士隊詰所に入った。

 最初に広間が広がっており、左右に分かれた階段がある。

 広間は吹き抜けになっており、二階の踊り場が見える。


 しかし、間取りなど大したことではなかった。


 すでに広間には大勢の騎士たちが待ち受けており、俺とカミラを取り囲んだ。




「む? ずいぶんと物々しいな」




 俺はそうつぶやいた。


 カミラは戸惑った様子で、騎士たちを見渡した。




「みんな、これは一体……!」


「帰ってきたか、出来損ないの小娘め」


「ゆ、ユルゲン隊長」




 二階の踊り場に現れ、厳しい言葉を投げかけてきたのは、20代後半の青年だ。

 口ひげを生やし、目つきは鋭く、威圧的だ。

 髪の毛は朱く、そのせいもあり荒々しい雰囲気をまとっている。


 だが、


 氏真は心の中でせせら笑った。


 この騎士隊がどんな組織なのか知らないが、負傷して帰ってきた部下を労いもせず貶めるなど、上に立つ人間としては三流だ。


 それに、威圧感は見かけだけ。


 前世で氏真は、戦国時代を代表する英傑や猛将たちに出会った。

 信長のぶなが秀吉ひでよし家康いえやすは言わずもがな『天下の覇者』たる空気を備えていたし、その部下である家臣団も、強烈な覇気をまとったサムライたちだった。


 それに比べれば、このユルゲンという男がまとう空気は貧弱だった。




「カミラよ、お前と同行していた騎士たちは、すでに死体となって帰ってきたぞ。全員がオークに殺されており、死体は森に打ち捨てられていた」




 ユルゲンはそう言った。




「その間、お前は何をしていたのだ。まさか任務を放り出して、そこの優男を引っかけていたわけではあるまいな」


「い、いいえ違います!」




 カミラは否定したが、ユルゲンとそのほかの騎士たちもクスクスと笑う。

 カミラと氏真のことを、明らかに小馬鹿にしている笑みだ。


 なんだこいつらは、と氏真は思った。




「隊長! 私もオークに襲われて、一度はオークの集落にまで連行されたのです。この方のおかげでなんとか助かりましたが、私もオークの手にかかるところだったのです!」




 カミラは自分の身に起こったことを説明した。




「失態を犯した私はともかく、この方はオークジェネラルを討ち、さらにはオーク集落も全滅させた凄腕です! この方の功績は比類なきものです!


「その弱そうな男が、オークジェネラルを? その上、集落を全滅させた?」




 ユルゲンは部下たちを見渡す。

 部下である騎士たちも、互いに顔を見合わせて笑う。




「おいおい、子どもみたいな嘘を言ったぜ、あいつ」


「あんな女みたいな顔をした優男など、オークどころか、ゴブリン1匹すら殺せないんじゃないか? 俺なら片手で泣かしてやれるぞ」


「どうせ任務を放って、好みの平民男を物色していたんだだろう。俺たちのような貴族の子弟の集団には手出しできないから、溜まっていたんだろうよ」


「所詮は男爵家の庶子だ。下賤な女から生まれた女は、股も、頭もユルいらしい」




 どっという笑いが巻き起こる。

 騎士たちは遠慮なしに笑い、カミラと氏真を侮辱した。


 カミラは侮辱と嘲笑の渦にいながらも、堂々と発言し続ける。




「っ……たしかに仲間とはぐれてしまったことは、弁解しようもございません! ですがこの方が成し遂げたことは紛れもない事実です! 現場を見ていない方に、この事実を否定することはできません!」




 カミラはユルゲンに向かって、そう叫んだ。




「貴様、上級騎士であるユルゲン隊長に口答えするか!!」




 ある騎士が前に出て来て、カミラに向かって拳を振り上げた。

 カミラよりもはるかに体格が大きい男だ。


 しかし次の瞬間、その大柄な騎士が空中で1回転して、床に叩きつけられた。




「がはっ!!?」




 大柄な騎士は痛みに叫び、気絶した。




「……え?」




 カミラも、呆然とする。




「ああ、スマンスマン、お前のようなデカブツが、こんな弱そうな男に転がされるとは思わなんだ」




 からからと笑う氏真が、気絶した騎士の手首から手を離した。







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第8話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 氏真が無双するところを早く見たい!!


 ムカつく騎士たちをボコボコにしてやれ、氏真!!


 ヒロインの女騎士カミラの活躍も見たい!!


 次回もまた読んでやるぞ、鈴ノ村!!


 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 皆様の温かい応援が、私にとってとてつもないエネルギーになります!!



 鈴ノ村より

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