第7話 意外と天然な女騎士カミラと、港湾都市ハイドンへ
「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!!」
俺の身元保証人になってくれ、というお願いを言おうとした直前に、カミラが先に頭を下げてきた。
しかも、まったく予想外の言葉を彼女は口にした。
「「……えっ??」」
俺と彼女の視線が合う。
お互いに相手の顔を見て、目を白黒させている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……俺の願いを、聞き入れてくれる……ということで良いんだよな?」
「そう、です……だって、この身を捧げるから、俺の想いを受け入れてくれ……つまり、そういう……あれ、違います??」
俺も、カミラも、自分たちの認識にズレがあったことを確認した。
そして、ここまで言えば、嫌でもわかる。
俺が完全にやらかした。
カミラの警戒を解くために自分の誠心誠意をぶつけることを優先し過ぎて、知らず知らずのうちに、急に求婚するヤバい男みたいな発言をしてしまっていた。
いきなり頼みを要求するのは良くないと思って、しっかりと交渉しようとしたことが裏目に出てしまった。
しかもカミラは、その誤解をしたまま、よろしくお願いしますと返事してきた。
いや、それはそれで嬉しいような困るような。
「す、すまない!!」
俺は平身低頭になって謝った。
「俺はお前さんに、身元保証人になってもらいたかったんだ。この異世界について右も左もわからぬ俺が生き抜くためには、お前さんの力が必要だと言いたかったんだ」
「え、じゃ、じゃあ私……私ったら!!」
「いや、皆まで言うな! 今のは俺が悪かった! 俺が言葉足らずだったから、お前さんはなんにも悪くない!!」
とにかく謝って、俺はこの場を納めることにした。
それから互いに気まずい空気が流れ、話が再開するまで10分以上かかった。
そして、カミラがやっと口を開いた。
「あの、ウジザネさん。先ほどの申し出の件ですが……」
「う、うむ」
「身元保証人のほうは、その、全然構いませんよ。あなたは命を助けてくださりましたし、お安い御用です」
「ありがとう」
俺は深々と頭を下げた。
「ただし、条件があります」
やはり条件付きか……いや、それは仕方ない。
まぎらわしいことを言って、カミラの気持ちを惑わせたのだ。
その上で頼みごとをすべて聞いてもらえると思うなんて、都合が良すぎるしな。
「私があなたの話を勘違いしたこと、そしてそれに対する私の返事……すべて忘れてもらうことはできませんか?」
そんな条件で良いのか。まあ、彼女に恥をかかせないためには当然の配慮だ。
「あ、ああ。それくらい当然のことだ。すべて忘れるとも」
「ありがとうございます」
カミラは礼を言った。
うーん、礼を言いたいのはこちらのほうなんだが。
「では、まずは街に戻りませんか? ここだとまた別の魔物が襲ってくるかもしれませんし」
「そうだな。では、案内を頼む」
俺は立ち上がり、刀を腰に差した。
「道中、魔物が出てきたら俺に任せてくれ。どんなことがあっても俺がお前さんを守り切る」
「っ……守るだなんて、そんな……私だって戦えるので大丈夫です」
カミラは頬を染め、顔を背けた。
またも氏真はあまり意図せず、殺し文句を言ってしまっていた。
ーーーちなみに氏真は、女性経験が豊富ではない。
若い時期に春(早川殿)と婚姻して、それから増えた側室もたった1人。
京の都には良家の子女も多かったが、氏真が熱中していたのは蹴鞠、和歌、茶道、そして武術ばかりであった。
ゆえに彼は、未婚の男女が交わす言葉の機微にうとかった。
それも、致命的に。
それから俺はカミラに街まで案内してもらった。
緑豊かな丘陵地帯を越えると、海に面した港湾都市が見えてきた。
街は城壁に囲まれているが、城壁の外にも小麦畑、住居、市場が広がっている。
その港湾都市の中でも特に目を惹くのが、街の中で最も高い灯台だ。
巨大な灯台は荘厳かつ堅牢な造りで、街に一本の燃える巨剣が突き立っているかのようだった。
「あれが私の騎士隊が所属する港湾都市ハイドンです」
カミラが紹介してくれた。
「美しい街だ。特に、あれほどの立派な灯台を俺は見たことがない」
前世でも大規模な城郭はあったが、灯台に関しては、このハイドンという街の灯台は群を抜いて立派だ。
「ええ、あの灯台を見るためだけに観光客が訪れるほどです。通称、ハイドンの大火塔と言います」
「なるほど……たしかにあれは人目を惹くな」
俺たちは丘陵地帯を下り、小麦畑の間の街道を通り、ハイドンに着いた。
街に入るための城門に着くと、若い門番が現れた。
「カミラ殿、そのお怪我は……!?」
「心配ないわ。私の手当は不要だから、街に入らせてくれないかしら」
「は、ははっ……しかし、そこの男は……?」
「私の命の恩人よ。この方の人となりは、リュディガー男爵家のカミラ・リュディガーの名において保証するわ」
カミラの名乗りを聞いて、俺は彼女が上流階級出身者であると確信した。
男爵という言葉はわからんが、平民ではないことは確かだろう。
門番の青年はカミラの言葉を受けて、俺が街に入ることを許すようだ。
「わかりました。では通行許可証を作成しますので、この紙にあなたについての情報を書き記してください。あ、こっちの詰所に机があるので、どうぞ」
「ああ、わかった、ありがとう」
俺は門番の青年とともに、城門前の小部屋に入った。
ちなみにカミラはこの小部屋に入れなかった。多分、俺が不審人物でないかどうか判断するためだろう。助け舟を出して身元をとりつくろうことを許さないためだ。
まあ、俺には後ろめたいこともないので問題ないが。
「さてと、なになに……」
俺は門番に後ろから監視されている状態で、受け取った紙に筆を走らせた。
名前……とりあえず全部書くか。公文書っぽいし。
生まれは
次に、職歴と身分は……
「あのー、現在の職業は無しだとダメか? こう見えて、それなりの身分だった時期はあるんだが」
俺は門番の青年にたずねた。
「えっと、ダメってことはないのですが、身分提示を求められた時に、怪しまれる可能性があります。ですので、なにかしら過去の職業を書いていた方が望ましいかと」
「そっかあ、わかった。なら、ちょっと前の経歴だが……」
ひとまず幕府
家康に「京の貴族との交渉を任せる」って言われて仕事してたしな。
最後に特技と職能か……
仕方ない。自画自賛するようで恥ずかしいが、ここはキッチリ書こうか。
今後、この街で職を得て食っていくうえで、自分を売り込むネタになるかもしれんしな。
剣術、弓術、馬術、
「す、すごい特技の量ですね」
青年は半笑いだった。
くっ、いずれ職を得るために書いているとはいえ、見られると恥ずかしい……!
これですべての欄を書き終えて、紙を門番に渡した。
門番は階段を上がって、二階に行った。
それから少し経って、門番は降りてきた。
「どうぞ、イマガワさん。これがあなたの身分証です」
「ありがとう」
俺は金属でできた板を受け取った。
金属板には俺の情報が刻まれている。
なるほど、これなら汚したり濡らしたりしても問題ないだろう。
「発行した身分証を無くすと、再発行の料金の他に、罰金も追加されます。くれぐれも紛失しないように気を付けてください」
「わかった」
俺は詰所を出た。
カミラは城門前で待ってくれていた。
「ウジザネさん、大丈夫でしたか?」
カミラは心配してくれた。
「ああ、問題ない」
「良かったです。では、行きましょう」
そうして前方の城門が開き、俺は港湾都市ハイドンに足を踏み入れた。
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第7話を読んでいただき、ありがとうございます!!
氏真とカミラの恥ずかしがる姿が面白かった!!
ヒロインの女騎士カミラの可愛い&ポンコツなところをもっと見せろ!!
もっとジャンジャン物語を書いてみろ、鈴ノ村!!
と、思ってくださいましたら、
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鈴ノ村より
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