第4話 オーク?とりあえず斬っても良いんだな



「ざっと見たところ、豚人間は100人ほどか」




 崖の上から豚人間の里を見下ろして、俺は敵勢てきぜいの数を把握した。


 あの豚の顔をしたヤツらは体格も装備もバラバラだが、ほとんどは粗末そまつな鎧と武器を持っているだけだ。中には変な袈裟けさ法服ほうふく? みたいなのを着ているやつもいるが、まあそこは気にしてもしょうがない。


 それと、捕らわれている若い女だ。


 若い女は西洋式の甲冑かっちゅうを着込んでいる。

 髪は輝く亜麻色あまいろで、瞳は青く、まさに南蛮人なんばんじんといった顔立ちだ。


 というか、さっきから女が叫んでいる「やめろ」「離せ」とかの言葉が、俺にも理解できるのはなんでだ?

 ああ見えて、すごく日本語が達者な南蛮人なのか?




「ゲギャッ、ゲギャギャギャギャギャッ!!」




 あと、豚人間たちはよくわからない言葉というか発声をしているだけだ。

 どうやら人間らしい言葉を使えない生物のようだ。

 いや、もしかしたら、あれがなんらかの祈祷きとうの言葉とかなら、それはそれで勘違いして申し訳ないが。


 そうこうしているうちに、豚人間たちが若い女の鎧をはぎとり始めた。

 女は手足をジタバタさせて抵抗しているが、あれならじきに裸になるまで犯されてしまうだろう。




「っと、これは急いだ方が良いな。とりあえず……」




 俺は真下の崖を見て、うなずく。




「この程度の高さなら問題ないな。あの風魔殿の修行よりも、簡単だ」




 そして俺は、そのまま崖から身を投げ出した。



 もちろん自殺するわけじゃない。

 崖の起伏きふくを読み、足場になりそうな場所を選んで、蹴りながら落下するのだ。

 これなら複数回にわたって衝撃が殺されて、問題なく着地できる。


 なお前世では、風魔小太郎ふうまこたろう殿にこの手の修行をみっちり仕込まれた。




「おはるお嬢様を守り切るために、あなたが強くならねばなりません!! いくらお嬢様の旦那様とはいえ、手加減はいたしませんぞぉお!!」




 それが北条家お抱えの忍び衆筆頭、風魔小太郎の口癖だった。



 奥さんであるお春の実家(北条家)に身を寄せている時、風魔小太郎殿は事あるごとに俺につっかかってきて、「お嬢様とイチャイチャするというのなら、まずは私を倒してからにしろ!」とか言ってくるような困った人だった。


 打ち解けてからは良い師匠になったが、あの人の忍び修行はとてつもなく過酷で、何度も血反吐ちへどを吐いた覚えがある。お春を守るための鍛錬と考えれば、血反吐を吐くことくらい大したことではなかったが。



 というわけで、俺としては崖を駆け下りることなど、朝飯前だ。

 崖を駆け下りて奇襲って……なんていうか、源義経みなもとのよしつねっぽいな。まあ、俺はあんな大英雄じゃないが。




「到着っと。さて、斬り込むか」




 俺は豚人間の人里に着地して、親父の愛刀だった左文字さもんじを抜く。




「グギャッ? ガギャギャギャギャーーッ!!」




 近くにいた豚人間がこちらに気づき、棍棒を振り上げて襲いかかってくる。

 侵入者である俺を見ても言葉を話さないあたり、マジで言葉が通じない生物のようだ。




「おらっ!!」




 俺は刃を一閃、豚人間の胴を斬り裂く。

 豚人間の胴から、臓腑と血がこぼれていく。




「おお、問題なく斬れる。これなら大丈夫だ」




 もし刀が通じないようならどうしようかと思ったが、胴を斬られた豚人間は地面に倒れてピクリとも動かない。




「よっしゃよっしゃ……じゃあ、やるか!!」




 俺は刀の血を払い、人里の中心へと突っこむ。

 目指すのは、あの若い女が捕えられていた広場だ。




「しゃあああああーーっ!!」




 あえて咆哮を上げながら、進路に現れる豚人間を次々と斬り捨てていく。

 コソコソ戦っている場合じゃない。まずは俺のことを注目させなければ、あの若い女は豚人間に犯されてしまうだろうしな。




「グギャッ!?」


「ギャヒイイッ?!」


「アギャギャッ……!!」


「ゴギャッ!?」




 豚人間たちの肉体は思ったよりもろい。

 鎧を着ているやつもいたが、その鎧のすき間を切り裂いてやれば、まったく問題なく仕留めることができた。


 それに動きも単調で、なんていうか動物っぽい思考の動きだ。

 これなら前世の落ち武者狩りのほうがよっぽど怖い。




「よお、大丈夫か。南蛮人の姉ちゃん」




 とりあえず進路上の豚人間たちを一掃した俺は、広場にいた若い金髪の女に声をかけた。




「え、あ……う、うむ、私は大丈夫だ」


「そうか、それなら良かった。自分で歩けそうか?」


「歩くのはなんとか……ただ、走って逃げることは難しい」




 若い女はボロボロだ。鎧は立派だがところどころ傷がついているし、鎧の下に着ている肌着の下も傷だらけなのだろう。

 口ぶりや顔つきからして、気丈な性格だとわかる。

 だが、顔色が悪く唇も震えているため、さすがに犯される恐怖はあったらしい。




「あなたは、何者だ?」




 女に問われ、俺は返答に困る。

 死んだはずなのに、若返ってさまよっていました……なんて、子どもでも信じられない内容だからな。




「俺はその、森をさまよっていた旅の剣士だ」


「旅人の方か……すまない、助かった……」




 とっさに嘘をついた。いや、剣士であることは本当だけどさ。


 しかし女は助けてもらったばかりで気が動転しているようで、俺のとっさの嘘に対して疑う素振りを見せなかった。


 そしてその間にも、残っていた豚人間がぞろぞろと現れてきた。

 こうなってしまえば逃げることは難しいだろう。




「この豚みたいなやつらは、いったい何なんだ?」


「え……?」




 若い女はキョトンとした顔を見せる。

 なんだよ、その、常識なのに知らないの? みたいな顔は。




「……遠い国から旅をしてきてな。その、手短に説明してくれ!」


「わかった。こいつらはオークという魔物で、人間を集団で襲って犯すことを得意とするやつらだ」


「オーク……魔物……人間を犯す……マジかよ」




 俺は知らされた情報を整理する。


 ここは日本ではない。少なくとも俺の知っている日本で、この、オークとかいう生物に出会ったことはない。


 異形の生物がいる世界ということは、やっぱりここは地獄なのか??

 それにしてはずいぶんと緑豊かだし、空も晴れていて明るい世界だが……




「ええい、考えてもらちもない。今はとにかく斬り開くのみだ!!」




 ゴチャゴチャ考えても仕方ない。

 とにかくこのオークとかいう生物は、人を襲うのだ。だったら容赦するつもりはない。




「来やがれ、ブタどもっっ!!」




 俺は左文字を構えて、オークの集団に向かって吼えた。

 俺が発した闘気とうきは大気を震わせ、最前列にいたオークたちを一挙にひるませる。


 地獄だろうが極楽だろうが、関係あるか。

 俺がやらなきゃ、後ろにいる若い娘が犯された末に殺されるだけ。



 だったら前世と同じだ。

 ここは戦場。

 殺られる前に、殺るだけだ。



 暗愚だろうとナメんなよ。

 こんな俺でも、ひとかどの戦人いくさにんだぜ!!







 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第4話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 風魔小太郎から指導を受けたハチャメチャ設定の今川氏真は、無事にオークたちを倒すことができるのか!! 続きが気になる!!


 良いぞ、もっと勢いよく書いてみろ、鈴ノ村!!


 バッタバッタと斬りまくれ、氏真!!

 

 

 と、思ってくださいましたら、


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 皆様の温かい応援が、私にとってとてつもないエネルギーになります!!



 鈴ノ村より

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