ルークス王国、冒険者編

第1話 桶狭間の戦いと、父の死

 ◆◆◆ お知らせ ◆◆◆


 ここから2話続けて、小難しい戦国知識がありますので、難しいと思った方は読み飛ばしても大丈夫です!! 要は、主人公の能力の高さと、先見の明を知っていただけたらありがたいです!!












「アホだなあ、親父殿は」


「わ、若殿! そのようなことを誰かに聞かれたら……!」




 俺はそうつぶやきながら鼻をほじる。

 隣にいるお目付け役のジジイがオドオドしてるが、そんなもん知らん。


 俺の視線の先には豊かに栄えた駿府すんぷの城下町が広がっており、俺の親父が率いる軍が民の歓声を浴びながら進んでいる。


 うん、すっごい盛り上がりだ。

 今さら俺がごちゃごちゃ言っても、京への上洛じょうらくは決定しとるわ。




「おい、じいや。ここなら誰にも聞かれない。そうビビるな」




 俺は辺りを見渡す。


 ここは駿府を見下ろせる丘だ。

 丈の短い草しか生えていないし、木々だって遠い。

 遮るものはないから、誰かが近くにひそむことはありえない。


 要するに、ここなら遠慮なく言い合えるよってわけ。




「正直なところ、どう思う?」


「ど、どう……とは?」


「俺の親父の上洛。上手くいくと思うか?」


「それは、もちろんでございます!! 大殿のお力とご采配があれば、必ずや上洛を成し遂げて天下に号令をかけるものと、我らは信じて仕えて……!」


「あー、ハイハイ、そういうの良いから」




 俺はジジイの言葉を途中でさえぎった。




「じゃあ言わせてもらうが、上洛を成功させるには、まずどうすれば良い?」




 まずは初歩的な質問だ。


 今は戦国乱世。

 こんなもん子どもでもわかる。



「え、ええと……まずは尾張のうつけ、それから美濃の斉藤、北近江の浅井、南近江の六角、あとは、近畿を掌握している三好……これらを倒すか服従させるか……でしょうか?」


「うんうん、おおむねそんなもんだ。京までの道のりを考えたら、まずはこいつらを倒すのが上洛成功のだ」


「さ、最低条件?」



 きょとん、としたジジイに俺はため息をついた。




「いや、だから、足利将軍の代わりに京から天下に号令をかけるのは良いとして、その後はどうすんのって話だ」




 俺が言いたいのは、そこだ。


 俺の親父ーーー今川義元いまがわよしもと公はたしかに凄い男だ。

 東海道をほぼ完全に支配しているし、武田、北条とも同盟を結んだ手腕は、並大抵のものじゃない。


 自分の実の親父だが、息子である俺がドン引きするぐらいの怪物だ。

 運が良ければ、このまま楽勝で天下人になれるかもな。


 けど……




「良いか? 政権ってのは作るのも大変だが、維持するのはもっと大変なんだよ。親父は超優秀な男だが、そんな親父の身にちょっとでも何かあったら、今の側近どもがテキパキと問題を対処できるか? そこをわかっていないから、あえて俺は親父をアホって言ってるんだ」


「な、なるほど……言われてみれば、大殿のご采配のおかげで、この今川家は保っているようなものですな」


「そういうこと。雪斎せっさいのじいさんが生きていれば、まだ俺も上洛には反対しなかったんだがなあ」




 太原雪斎たいげんせっさい

 親父の右腕で、俺の教育係でもあった人だ。


 老いた坊さんのくせに、親父より頭が切れるし、武術にも精通しているヤバい人だった。

 しかも、まだヨチヨチ歩きだった俺に、鬼のような教育や修練を叩きこんでくるもんだから、今でも俺は雪斎のじいさんのシゴキを思い出すたびに、変な汗をかく。



 まあ、とにかく。話を戻そう。



 そんな親父の右腕だった雪斎殿も、5年前に亡くなった。

 今は親父があれもこれも全部決めて、強大な今川家をワンマンで運営している。


 そのせいもあってか、この5年間で親父はけっこう痩せた。

 誰がどう見ても不健康な痩せ方だ。

 けれど、周りはそんな親父の体調を心配せず、ただの金魚のフンみたいに付き従っている。




「賭けても良い。親父の上洛は失敗する可能性が高い。たとえ道中の邪魔な大名を全部ぶっつぶしたとしても、親父は先が長くない。周りの取り巻きもボンクラだから政権は維持できないし、この故郷の駿府だって、武田晴信たけだはるのぶ(のちの信玄)が裏切れば一撃で終わるんだよ」




 今川家の北は武田家。東は北条家だ。

 この2つの家と同盟を結んでいるが、武田家の頭領である晴信は信用できない。


 関東の北条氏康ほうじょううじやすは、俺の奥さんの父親だ。

 絶対ではないが、あの義父殿が同盟を破って、義理の息子である俺をぶっ殺しにくることはないだろう。

 寡黙な人だがちゃんと話は通じるし、言動の節々に思いやりを感じるからな。


 けど、あの武田の殿様はマジで信用できない。

 なんていうか、目に光がないんだよ。

 何度か会ったことあるけど、あの人、俺の親父よりも他人を信用しない怪物の匂いがするんだよ。




「じいや、俺は『身の振り方』を考えるよ」


「身の振り方、とは」


「親父の身に何かあったら、実績のない俺に忠義を尽くす家臣はほぼいない。俺がどうあがいても、今川家は空中分解するだろう。そうなったら、俺はいさぎよくお家の断絶を受け入れる」




 次期当主の言葉とは思えない言葉を、俺は告げた。

 自分で言うのもアレだが、古株の家臣からすれば、とうてい受け入れられないイカレた発言だろう。


 案の定、ジジイは真っ青になりながら叫ぶ。




「し、しかし!! 若殿は大殿、故雪斎せっさい殿からも麒麟児きりんじと言わしめ、さらにはあの剣聖『塚原卜伝つかはらぼくでん』殿にも免許皆伝を受けたお方です! どうか、どうか大殿に万が一のことが起こった際は、あなたに今川家を引っ張っていただきたく……!!」


「俺はそんな器量じゃねえ。親父や雪斎のじいさんみたいに人の上に立って、清濁を併せて吞むような度量もねえ……申し訳ないが、俺は近くにいる妻子やダチの平和を守ることしか頭にない甘ちゃんなんだ」




 これは本心だ。


 責任や立場から逃れたいという気持ちもあるが、俺はそれ以上に、


 致命的に、


 これはもう能力とか才能とかじゃなくて、俺の気質みたいなもんが問題だ。



 例えば、俺と同じく雪斎のじいさんにシゴキを受けた、松平元康まつだいらもとやす(のちの徳川家康)とかで言えば。


 あいつは穏やかで、いつも俺にくっついて歩いていた可愛い弟弟子なんだが、あいつの思想や思考回路は、すでに立派な戦国大名のそれだ。


 必要とあれば容赦なく妻子すら斬り捨てて、最大多数の幸福をとる。

 それが上に立つ者の『器量』ってもんだ。

 ちなみにこれは性格の良し悪しの話じゃなくて、元康はそういう決断がだよっていう話。


 逆に俺は、元康より五つ年上だが、あいつのような合理性や非情さを持ち合わせることができない。

 そういう意味じゃ、俺は生まれながらにして、殿って呼ばれるべき人間じゃないんだ。




「スマンな。いくら親父のような実力があろうが、家のために、名誉のために、野望のために、死ぬまで自分を酷使するような生き方はゴメンだね」




 親父や雪斎のじいさんから叩きこまれた教育のおかげで、俺はずいぶんと世の中を見通せるようになったが……俺は自分のそばにいる妻や子どもを守るだけで精一杯だし、分相応だ。


 いや、天下を統べる男になりたいっていう憧れはあったよ?

 俺だって男児だし、親父のような男になりたいって思っていた時期はあったよ?


 でも、それだけを目指して、家族とドロドロの争いを繰り広げたり、死ぬまで背中に気を付けながら戦争に明け暮れるって、なんか違くない?



 だったら、のらりくらりと家族とともに生き残る道に賭けたい。


 

 幸い、俺はめちゃくちゃ師匠に恵まれた。

 雪斎のじいさんからはあらゆる教養と知恵を、塚原卜伝つかはらぼくでん殿からは剣術の秘伝を、一宮随波斎いちのみやずいはさい殿からは弓術の極意を、そして親父からは……この乱世の在り様や生き方そのものを学んだ。

 

 これだけの武と智があれば、なんとか乱世でも食いつないでいけるだろう。

 あとは俺個人の力を駆使して、妻子とともにノンビリ生きていくだけさ。




「あ、勘違いしないでくれよ。こんな俺だって親父のことは心配しているんだ。上洛に成功するか否かは関係なく、また親父と生きて酒を酌み交わせたら良いなって思っているからよ」


「若殿……」




 お目付け役のジジイは、なんとも言えない様子で俺を見ていた。








 それから数日後に来たのは、なんと敗戦のしらせ。


 海道一の弓取りと呼ばれた大大名、今川義元ーーー織田信長の軍勢に奇襲を受け、桶狭間おけはざまにて討ち死。




「はえーよ、死ぬのが」




 さすがの俺も、びっくりした。






 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆



 第1話を読んでいただき、ありがとうございます!!



 この作品では、あの最弱武将の今川氏真を異世界に飛びこませて、思う存分に無双させていきます!!


 ぶっちぎりザコ武将の氏真が主人公なんてクセが強い!!!


 実は強かった氏真をもっと見てみたい!!!


 早く氏真を異世界無双させてやれ!!


 

 と、思ってくださいましたら、


 ★の評価、熱いレビューとフォローをぜひぜひお願いします!!!


 皆様の温かい応援が、私にとってとてつもないエネルギーになります!!



 鈴ノ村より

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