姉に脅されて女装しながらjkと同棲することになった件について2
見慣れない天井が見えた。
昨日と同じままの何もないとても殺風景な部屋で、目が覚めた。
「夢、じゃあないよな」
昨日起こったことはどうやら悪い悪夢などではなくマジの悪夢だったようだ。
姉の段ボールを漁り、僕は女装に必要なものを取っていく。
黒の長髪のウィッグと姉貴に叩き込まれた化粧、そしてーー女性用の下着とパット。
我ながら最近この一連の行動に抵抗が少なくなってきていることに恐怖感を感じる。むしろコーデの技術だとか手際やセンスも良くなった気がする。
うん、つらい。
私は今日も今日一日、女の子として生きるのだ。今日もまた悪夢であってくれと願いながら。
*
3人分のお弁当を作る。
昨日は焼肉の後に食材を買い込んだ。年頃の子の昼ご飯を冷凍食品に頼るわけにはいかない。
僕は姉とは違って保護者としての責任をちゃんと持っているので。
と、弁当を作り終えたところで姉妹の片割れ、妹の夏美ちゃんが2階から降りてきた。
登校時間には1時間以上ある。とても真面目のようだ。
「おはよう、なつみちゃん。今簡単に朝ごはん作るから、ゆっくりしてて」
そう言うとなつみちゃんはボーッとしたままコクリと頷いて体育座りで膝に顔を埋めた。パジャマ姿で長い髪がボサボサに爆発している。
今の彼女には昨日のような覇気、というか。警戒心というか。近付かないでオーラがまるで消えていた。
昨日の焼肉に打ち解けられたなら嬉しい。
そんな事を思った矢先、顔を洗ってきたらオーラは復活していた。
悲しきかな。
今日の朝食はパン。
流石に一から野菜を切るという根気は流石に出なかったため、カット野菜と弁当あまりのウィンナーとだし巻き卵。
皿に並べるだけの簡単な作業である。
夏目ちゃんは小さく「いただきます」と呟いてモグモグと食べ始めた。小動物みたいに小さい口でパクパク。モグモグ。
「どう?お口に合うといいんだけど」
「......美味しいです」
「うん、よかった」
「いつもより、豪華です」
「......姉には強く言っておきますね」
僕も食べよう。
いただきます。
「ところで、ほのかちゃんはまだ起きない?起こしてきた方が良い?」
「いえ、姉はいつもギリギリなので」
「そう、どうしても起きなかったら起こしてみるね」
なつみちゃんとの会話はそれぐらいだった。
僕も話上手って訳じゃないし、気まずさを感じてたら申し訳ないな。
夏美ちゃんが朝支度を終えて朝のニュースを少し眠そうにぼんやり見ている頃にほのかちゃんが起きてきた。
「おはよー!!」
「はい、おはようございます」
なつみちゃんと一緒。パジャマ姿にボサボサな髪姿だった。
でも寝起きにしてはハイテンションだった。
「ご飯出来てるよ」
「やったー!!」
そして朝ごはんを見て第一声。
「すっごい豪華!!ホテルか何か!!?」
「......姉には言い聞かせておきますね」
姉さん、マジで帰ってきたら覚えてろよ。
「ち、ちなみにいつもどんな感じだったの?」
「いつもは食パン一枚の少女だったんだけどね。まぁお仕事大変そうだったし仕方ないのは知ってたけど。お金だけだった時はびっくりした」
「そう......」
うん、絶対姉と縁切った方がいい。
それはそれとして。
「登校時間、大丈夫?」
「あっ!!」
急いでご飯を口に掻き込みパンを加えるほのかだった。
「お姉ちゃん、早く行かないと遅刻するよ」
おてんばに朝自宅をするほのかちゃんとどこまでも真面目ななつみちゃんだった。
*
「いってらっしゃーい」
2人に手を振り、見送る。
扉が閉じられるのを確認してから僕はウィッグを取る。
「はぁ......」
疲れる。
「さて......家事でもするか」
今朝2人が起きる前に部屋を散策してみたところ、家事が悲惨な状態だった。
まずは積み上がった洗濯物達の前に立った。洗濯カゴの洋服をポイポイと洗濯機に突っ込んでいく。
パーカー、Yシャツ、セーター、パンツ、ブラ。
ああ......女装バレしたらこれ全部犯罪の証拠にになるんだろうなぁ。
数多く女装を繰り返し、もはや自前の女性下着を持つ僕にはもう、なにも感じないのに。
次に台所に立つ。今朝、最低限朝ごはんが作れるぐらいには片付けたが、以前として散らかったままだ。カップラーメンの器だとかが多いところを見れば、本当に不健康な生活してたんだろうな。
まったく、本当に姉さんって奴は。
カップラーメンの器をゴミ袋に詰める。そうだ、ついでに部屋も片付けよう。
ゴミを分別しながら部屋を綺麗にしていく。
「掃除機もないのかこの家は!?」
信じられん......雑巾でなんとかするか?
・・・(少年掃除中)。
「ふぅ......」
部屋中スッキリピカピカだ。
雑巾で廊下を水拭きしたし、コンロも洗ったし、食器は片付けたし、洗濯物は干した!!
「なんで僕は3日でバックれようとしてたはずなのにこんなに頑張ってるんだ......?」
我ながら、どうでもいいことのはずなのに気合が入りすぎだ。もうお昼頃だし。
少しだけ後悔が湧き立ってきた。
「ピロリン♪」
「ん。」
メールが届く。姉さんからだった。
『お家綺麗にしてくれてありがとう!!JKの下着に興奮しないでね。もしなんかあったら本当に女の子になってもらうからね』
え、何これ。怖い怖い怖い。
なんで分かるの?盗撮されてる?
「ピロリン♪」
『見てるよ』
「ッ!?」
怖い。マジで怖すぎるこの姉。
「ば、バイト行くかぁ。」
逃げよう。今はただ、逃げるしかない。
『^^♪見てるからね』
姉さん、海外で働いてるんじゃないのか?
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