ツキアカリ7

 その帰り道は胸が張り裂けるほど辛いものだった。

 あの出来事で、ヒロにとっては理想と自分の体たらくがハッキリと浮き彫りになった。


 昔、困っている人に手を差し伸べられるヒーローに憧れた。

 日々その理想のどおりに動いていた。実際町の人に感謝されたり、アカリと仲良くなったり、日々が充実していたし、誰かに必要とされるのは気分が良かった。


 でも、そんなのは驕りに過ぎなかった。

 肝心な時に何もできなかった。

 面倒を見ていたヒューマノイドの異変にも気付かずに暴走してしまったし、子供も守れなかった。挙句には動けなくなってガロウにも怪我をさせてしまった。


「僕は......」


 真っ赤な夕焼け。

 とても吸い込まれそうだった。

 いっそのこと消えてしまいたいとも思った。





「......おかえり、ヒロ君」

 結局、帰ったのは街が暗くなった頃だった。

 出迎えてくれたアカリが何かを察した様に少し困りながらも、優しく出迎えてくれた。

「遅くなって、ごめん」

「いいよ。ご飯、出来てるから」

「いらない。お腹空いてないから」


 ヒロは帰るなりすぐに自室に引きこもった。

 ベットに力なく倒れ込む。

 涙で枕を濡らした。


 悔しい。

 無力な自分が許せない。

 悔しくて、嫌いで、やるせない。


「ヒロ君......?」

 心配したのか、アカリが部屋に入ってきた。

「あ、あっぢ、行って......」

 こんな情けない姿を見せたくなかった。


「どうしたのか、教えて?」

「......っぐ」

 嗚咽を繰り返す。

 恥ずかしい。言いたくない。1人にしてほしい気分だった。

 だがアカリはヒロがずっと黙っていてもその場を動こうとしなかった。

 ベットに座り、うつ伏せで泣き続けるヒロの頭を優しく撫でる。

 その優しさがとても嬉しくて、悲しくて、情けなかった。



 落ち着いたのはずっと時間が経った頃。

 相当の間ヒロはただ泣き続けた。

「話してくれる?」

「う、うん......」

 その間アカリはずっと折れなかった。ただ無言で、ヒロを慰めてくれていた。


 そしてヒロは全てを曝け出した。

 自分の情けなさも含めて全部をぶちまけた。

 アカリはうんうんと何も言わずに受け入れてくれた。


「怖いんだ......」

「何が怖いの?」

「無力な自分が、怖い。また、こんな事が起きて何も出来なくて、もしアカリがあんな怪物になったらって」


 アカリに話して、気持ちを整理して、ヒロは落ち着いていた。


 あのヒューマノイドの異常現象の原因を突き止める。

 ヒューマノイドに食人衝動が出る事は、聞いた事がない。もしあれが一種のコンピュータウイルスの様なものだとしたら、何者かがハッキングさせた可能性がある。


「二度と、こんな事は起こしたく無い」


 ”食人ウイルス“を見つけてみせる。

 もう、二度とこんな事を起こさないために。人生を賭けると心に誓った。

 ヒロの瞳には、情熱がともっていた



「前を向いてた方がヒロ君らしいよ」

「情けない所見られてちょっと恥ずかしい......」

「たまには泣きごと吐くヒロ君も好きだよ」

「......ほんと?」

「うん、お姉ちゃんにもっと頼ってもいいんだよ」


 ああ、やっぱりやっぱり、恥ずかしい。

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