ツキアカリ6-2
「なんで......どう、して」
目の前には鮮血と肉塊が広がっている。
昨日まで話していた人が人を食べている。
ヒューマノイドが人を食べるなんて話は聞いたことが無い。そもそも食事を必要とするものじゃない。
疑問が恐怖に変化する。
本能が目の前にある未知に恐怖がこの場から今すぐ逃げろと叫んでいる。
しかし動けない。蛇に睨まれた蛙のように足の動かし方を忘れてしまった。
それはココやガロウも例外ではない。その一瞬、確かに全員が恐怖し身が悴んでしまった。
そんな中で真っ先に動いたのはガロウだった。
「逃げるぞ!!」
「わ、はわわ」
ガロウがココの腕を掴み走り出す。
「おい!ヒロ早くしろ!」
「なんで......おかしい、じゃないか」
ヒロにはガロウの声は聞こえない。
血濡れた“怪物”がゆっくりとヒロに歩いてくる。まるで大好物の食べ物でも見つけたかのような満面の笑み。その狂気で満ち溢れられている表情に精神が歪む。
途端、”怪物“がヒロに飛びかかった。
「チッ!!」
ガロウはヒロを庇った。ヒロを体当たりで飛ばして、自分が入る。
“怪物”はガロウの腕に噛みつき、唸りながら顔を振り回した。
「がぁあああアアアアア!!!」
ガロウの聞いたこともない叫び声。ガロウの腕から、血が噴き出る。
血生臭い鮮血を浴び、完全に死を察したヒロは、ただ絶望に打ちひしがれ、見ていることしか出来ない。
『俺はヒーローになりたい』
そんな理想が打ち砕かれた気がした。
そんなものは偶像で、自分はちっぽけな人間なのだと諦観した。
自分はここで死ぬのだと。
「あ、ああ......」
友人を助けなきゃ。
あの化け物を止めなければ。
そんなことは分かっているけれど。
怖くて、動けなくて。
なにもできない自分を悔やんだ。
ただここで泣き崩れる自分にだけはなりたくなかった。
ヒロは、絶望で埋め尽くされた。
「ーーエンゲージ。殲滅する」
混沌とする思考の中、そんな言葉が聞こえた気がした。
否、間違いではない。
その刹那、稲妻の様に影が走り、“怪物”の頭が吹っ飛んだ。すかさず影は首無しの身体を地面に打ち付け、人間で言う心臓のあたりを刃物で的確に刺した。
通常、ヒューマノイドの記憶や制御機関は心臓と同じ場所にある赤いコアという部品で補っている。
そしてあの影はそのコアを手際良く壊したのだ。
「......なにが」
なにが起こったのか、ヒロは理解出来なかった。
ただ、機能停止したヒューマノイドの残骸と、その上に佇む謎の人物が目の前にいた。
「ターゲット撃破。直ちに帰還する」
そいつは何か通信機の様なものに話しかけ、闇に消えていく。
お礼も、この不可思議な状況も説明してもらえなかった。
その人物はフードを被っていて、後ろ姿だけでは何も分からなかった。ただ、自分と同じぐらいの身長だった。それだけが分かった。
それがとてもカッコよくて。
でもとても、劣等感を煽られた気がした。
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