作り屋マーク「秘密の研究」

 総本部棟、作り屋オフィス、作り屋トニの研究室。

「マーク、来てくれてありがとう」

 トニはマークを見下ろした。トニはハールの第一子で、ベテランの作り屋だ。リルサンタにしては背が高い。

「見せたいものがあるんだ」

 トニは研究室の奥にある、大きな扉の前にマークを連れて行った。扉の横にあるセンサーに掌を当てて、魔法力を識別させる。

 トニの魔法を感知したシステムが、扉を自動で開けた。

 マークはトニの後ろに続いて、中に入る。

 扉の中は無機質な長い廊下だった。左右の壁にも、扉がいくつも並んでいる。突き当たりのドアだけは、一際重厚で、頑丈な作りをしていた。

 一番奥まで進み、トニはここでも、センサーに魔法力を認証させた。今度は掌ではなく、瞳認証だ。リルサンタの心臓部、核の光は瞳に最もよく表れるが、それを識別するシステムの構築には手間がかかる。

(重厚な二重扉。厳重な認証システム……)

 マークは、トニが何か重要な秘密を明かそうとしていることに気づきはじめた。

「マークには、もっと後になってから見せる予定だったんだが……最近、そうも言ってられなくなった。どうか、覚悟して聞いてほしい」

 トニはドアを開ける前に、マークに尋ねた。

「我々はここで疑う心の研究をしている。サンタクロースを、ひいてはこの世界を、守るための研究だ。上層部と、ハールが信頼している、ごく一部のリルサンタしか知らない」

 マークはトニの言わんとすることを理解した。

 秘密の研究について知れば、協力するしかない。危険に首を突っ込みたくなければ、帰れ。そういうことだろう。

「疑う心の、なんの研究をしているんですか?」

 マークは全く帰る気がしなかった。危険でもいい。自分に出来ることがあるなら、なんだってやりたい。

 トニはドアを押し開けた。

「中で話す。疑う心がたくさんいるから、もし気分が悪くなったら、言ってくれ」

 ドアの中は、透明なケースがたくさん設置してある大部屋だった。

 ケースの中には、黒い小人が入っている。疑う心だ。これに影響を受けると、リルサンタは雪化したり、ギシンに変化したりする。

「あの黒いのが、疑う心ですね」

「そうだ。近づくなよ。あのケースに触れる際には、遵守すべき手順があるから」

 壁際には、カプセル型のケースがずらり、と並んでいる。そのひとつひとつに、リルサンタが入っていた。

 トニはカプセルの前で足を止めて、マークに説明した。

「雪化、ギシン化した同胞を、試験的に蘇生しようとしている。これは、ギシン化して討伐された、守り屋フェンドだ」

 トニは淡々とした口調でそう言ったが、声には苦痛が滲んでいた。

「このところ疑う心の増加で、サンタクロースが弱っている。そのうち、リルサンタにも影響が出るだろう。マークには特に、魔法力の強い子……首席たちの様子を見てもらいたい。おもちゃ作りの仕事も大変な時期だと思うが、やってくれるかい?」

「……本当は、任せたいと、思っていないんでしょう」

 マークは言った。

 トニは沈黙した。何かを思い出しているようだった。

 低い声で、トニはゆっくりと話し始めた。

「フェンドは……優秀な守り屋だった。負けず嫌いで、ポジティブで、優しくて……同年代では、いちばん強かった。今では、指の一本すら、動かせない。髪は綺麗な金色だったけれど、見ての通り、黒く染まっている」

 そこまで喋ると、トニはまた黙った。

 トニがこれほど優しい、愛情に満ちた声で話すのを聞くのは、はじめてだった。マークはトニがまた話し出すまで、何も言わずに待つことにした。


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