作り屋マーク「試作品」
作り屋マークは荷台を押しながらセントラルを移動している。荷台に積んでいるのは、開発中の魔法道具やおもちゃの試作品である。
セントラルは一階から二階まで吹き抜けになっている。マークの後ろを走っていたルドルフは、跳躍して二階の柵に飛び乗った。柵の手すりの上を、カンカンカンカン、と音を立てながら走る。
ルドルフを追いかけていたディアナは、二階に跳ぶのを諦めて、立ち止まった。スカートだから、ジャンプなんてするわけにいかない。手には、フリルだらけのブラウスを持っている。
「ルドルフ! どうして逃げるのー?」
ディアナは時々、自分でデザインした、フリルとリボンがいっぱいのカワイイお洋服を、ルドルフに着せようとする。
イヴァンの遺伝か知らないが、あのフリル趣味には付き合えない。
「ルドルフ!」
走っているルドルフの行き先に、アトラスが立っていた。(良い子のみんなは、柵の手すりの上に、立ってはいけません)
ルドルフは柵の上で急停止した。
「げっ、アトラス……」
柵の上で睨み合う、ルドルフとアトラス。きちんと床を歩いている通りすがりのリルサンタたちが、不思議そうにふたりを見る。
アトラスは氷のような声で言った。
「なんで昨日、打ち合わせ来なかったの? ぼく、ひとりで、待ってたんだけど……」
「うっ(忘れてた)、すみません……!」
昇降機で二階に上がってきたディアナが追いついた。
「ルディ!?」
後ろにはディアナ、前にはアトラス。
「挟まれた……」
振り返ってディアナを見た途端、足元が滑った。
「おっと」
手足をジタバタさせてバランスを取ろうとする。
「おっ、おお……? あー」
ルドルフは諦めて、二階から飛び降りた。
「「ルドルフ!?」」
アトラスとディアナが階下を覗き込む。
「やばい」
落下しながら、ルドルフは帽子を押さえた。真下に誰かいる。
「あぶなーーーーい!!」
作り屋マークは、ルドルフの叫び声を聞いて、足を止めた。
ぐわっしゃぁ、盛大に荷物を潰しながら、ルドルフが荷台の上に降り立った。
ぽかん、とするマーク。
潰れた箱に足を埋めたまま、ルドルフは頭をかく。
「どうも、申し訳ない」
「運び屋ルドルフ……」
マークは緑色の両目をまんまるにして、ルドルフを凝視した。
「はい、運び屋ルドルフです」
恥ずかしそうに自己紹介するルドルフを見ながら、マークはニヤッ、と笑う。
作り屋の作業室。
「協力するとは言ったけど、何これ」
ルドルフはツインテールのウィッグをつけて、フリフリのドレスを着ていた。
マークは記録用紙にチェックを入れながら言う。
「魔法少女プリティーサニーの、ステッキとコスチュームの試作品。実際に魔法が使えるステッキにしたいから、魔法力の強い試験体を探してたんだ。ルドルフならピッタリだ。ポーズとセリフもよろしくね。魔法の発動時に流す、音楽のタイミングと音量を調節するから」
ルドルフはステッキを構えて、ポーズをとりながら唱える。
「あなたの心に、ときめきフレッシュ!」
「もう一度。子どもが遊ぶことを想定して動いて」
マークは真顔で鋭く指示を出す。
ときめきフレッシュって。恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、マークが苦労して開発していた試作品を踏み潰した以上、これくらいのことはやるしかない。
ルドルフは覚悟を決めた。
「あ・な・たの心にぃ〜! ときめき、フレッシュ!!」
「もう少し、ゆっくりかな。使うの、小さな子だから……」
「あーなーたーのこころにぃぃ……! とーきめき、ふれーーっしゅ!」
「速さは良くなったんだけど、ステッキを振る時に……」
マークの指導は非常に具体的だった。ルドルフの演技力は向上した。
二百回、同じセリフを練習したころ、ついにマークが納得した。
「よし。これだけデータがあれば、充分だ」
「やった〜! さすがに、疲れたぜ」
バンザイポーズで歓喜するルドルフ。
マークは違うデザインのステッキを取り出した。
「サニーの相棒の、レイニーのステッキもあるんだ」
「それも俺!?」
「残念ながら、この後予定がある。また次回お願いしたい」
マークは平然と言う。
また二百回やるのかな。心が折れそうだったが、ルドルフは耐えた。
「う……試作品壊したの俺だからな……やらせていただきます」
「ところで、君のフィアンセが写真をほしがっていた。渡してもいいかい?」
マークは魔法ステッキを構えて可愛くウインクしているルドルフの写真を見せてくれた。
「抜け目ねぇな、ディアナ……」
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