作り屋マーク「雪人形」
広い真っ白な部屋。何かも、雪で出来ている。天井も、壁も、床も、全てが雪。人間の信じる心から生じた、きらきらの雪だ。
雪だるまがたくさん並んでいる。
雪だるまから、手が出る。足が出る。
頭の表面がふわふわしはじめた。
髪の毛がふわり、さらり、するり。
最初はそっくりな雪だるまだったけれども、それぞれ、違う色の髪の毛が生えてきた。
顔に凹凸が生じる。
まぶた、目、眉毛、細いまつ毛の先っぽまで、完成する。
緑色の髪の雪人形が、目を開けた。
もう、立派なリルサンタだ。
「イコさん、この子、もう生きてます!」
助手の声で、作り屋イコが駆け寄った。
「本当だ!? 緑色の髪と目。わあ、きっとハールの子だ!」
イコは額をぱちん、と叩いて、大笑いした。
「あはは、すごい。ぼくのきょうだいだ」
生まれたばかりのリルサンタは、不思議そうにイコを見上げている。
「はじめまして、きょうだい。ぼくは君の姉、作り屋イコだよ」
助手のスニョンがイコを見る。
「名前、どうします?」
「発見者だからな、ぼくが名付けてもいいだろう。ハールの子だし、作り屋だよね……メイク……マーク……作り屋マーク……。よし、マークだ」
「いいですね」
「ハァイ、マーク」
生まれてはじめて名前を呼ばれて、マークはちょっとだけ嬉しそうだ。
イコはマークの髪を切って、服を着せた。椅子がないので、作業机に座らせている。
スニョンが感心する。
「ますますイコさんやトニさんに似てますね」
イコはうなずく。
「よし、兄さんにも合わせてやろう。おいで、マーク」
イコが手を差し出すと、マークはその手を取らずに、机を変形させて階段を作った。
「変形魔法が得意なのか。ハールと同じだね」
机を作り直す手間ができたが、イコは気にしなかった。
作り屋トニの作業場。トニは守り屋に依頼された武器のメンテナンスを行なっていた。
「弟?」
ゴーグルを外して、トニはイコが示した先を見る。自分によく似た、生まれたてのリルサンタが立っていた。
まるで、小さな自分だ。トニは無言で観察した。
マークも無言で見返した。
トニは興味がなさそうに、ふいっ、と横を向く。
「早く総本部に連れていけ。登録作業があるだろ」
口ではそう言いつつ、横目でしっかりマークを見ている。
(かわいい……!)
雪人形の製作所。作り屋ハールは、イコの報告に驚倒する。
「えっ!? ぼくの子ども??」
「そうですよ、ダディ。どう見てもそうでしょう。こんな緑の髪の毛と緑の目、それにこの鼻と口。とんでもない変形魔法の才能。誰がどう見ても作り屋ハールの子どもに間違いなし」
雪だるまをこねる手を止めて、ハールはちょこんと正座する。
「身に覚えがない……雪人形作るときは特別、気をつけているんだけどな」
作り屋ハールは、WFの主、サンタクロースのニコラスより、唯一、「与奪の力」を賜っているリルサンタだ。
ニコラスに代わり、雪人形を作り、それに命を与えることができる。生まれたリルサンタは、ハールの手から生み出されていても、ハールの遺伝情報を引き継がないのが通常だ。
ただし、ハールが右目を使って、自分の子どもがほしいと願えば、ハールの情報を引き継いだクローンが生まれてくる。うっかり自分の子を増やさないように、ハールは作業中、長い前髪で顔を隠している。
「疲れた時に前髪をかきあげたんでは? 眼帯でもしなよ、ダディ」
「それはちょっと……」
眼帯をするのは嫌だ。ハールはイコの提案を退けた。
膝を床に擦りながら移動して、正座のまま、マークと目を合わせる。
「はじめまして、マーク。ぼくは、ハール。君の作成者。親だよ。ぼくが右目で見たものは、命を持つことがあるんだ……。君は偶然、条件が上手く重なって生まれてきた。この奇跡に感謝しているよ。お誕生日おめでとう」
マークの小さな両肩を掴んで、ハールはふにふにの頬にキスをした。マークを抱き抱えて、立ち上がる。
「総本部に登録に行かないと」
イコはハールを遮った。
「ぼくが行くよ。名付け親はイコさんですから!」
上機嫌でハミングしながら、イコはマークの小さな手を引いて歩いている。マークはイコの顔を無表情に見つめている。
イコはうっとりして、微笑んだ。
「今日は良い日だね、マーク。君の作った、良い日だ」
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