飾り屋ディアナ「食堂」

「どうにかしてくれ、ルドルフ! このままでは、ぼくたちの全身が花飾りになってしまう……」

 頭と肩に花飾りを目一杯乗せているイーサンが、悲痛な声で訴えた。

 食堂で休憩中のルドルフとアトラスは、イーサンの奇抜な格好を数秒見た後、口を開く。

「それ、使わなきゃいけないの?」

 アトラスが質問する。

 イーサンの後ろを通り過ぎた二人組のリルサンタが、「何あれ〜」「かわいいー」と笑っている。

 イーサンは腕を組んで憤慨した。

「捨てるのはかわいそうだろ!? 手間暇かけて作った飾りなんだ。材料だって、作り屋が苦労して生産してる」

「花壇みたいになってるぞ」

 ルドルフは冷静に指摘した。

 イーサンはそれを無視して、早口に主張した。

「君がディアナと結婚してくれれば、問題は解決……いや、それどころか、ディアナの生産性が正しいベクトルに上昇して、我々は大助かりだ! どう? 結婚しない? 今なら式場のデザインも衣装も大サービス!!」

「ありがとう。でも、まだいいよ」

 ルドルフは間髪入れずに断った。

「死んだ父親の決めた相手だし、いつかは結婚しようと思ってるけど、まだ俺もディアナもデビュー直後だから、ちょっと早いかなーって」

 アトラスはぎょっとした。初耳である。

「親が決めたことなの!?」

「うん」

「そういうことは、先に言えよ!!」

 アトラスは机を軽く叩いて立ち上がった。

「ぼくは、てっきり、君が正式なプロポーズを済ませているものだと……」

 大きくため息を吐く。

「ディアナが心配するのも無理はないよ。ルドルフ、今すぐプロポーズしてきたら?」

 ルドルフはアトラスの言葉を真剣に聞いた後、目をスッと逸らした。

「まだ駄目だ。準備ができていない」

「準備?」

「とにかく、今はまだ、駄目なんだ」

 ルドルフは珍しく語気を荒げた。イーサンはがっかりしている。

 ルドルフの様子を見て、アトラスは察した。

(……何かあるんだな)



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