飾り屋ディアナ「花飾り」

 飾り屋オフィスでは、主にプレゼントの包装に使う飾りを制作している。

 飾り屋メイベルは、作業机いっぱいに置かれている箱を見た。

「なにこの、大量のペーパーフラワー!」

 箱の中はすべて、紙で作られた花飾りだった。薄い紙を折り曲げて作るので、ひとつひとつに時間がかかる。昨日まではなかった。こんなにたくさん、一体誰が……。

 メイベルはすぐに思い当たった。とはいえ。

「いくらなんでも、多すぎない……?」

 メイベルの隣に同僚のベアトリーチェが立つ。

「またディアナに何かあったね……」

 リボンの入った箱を抱えたユーアンが、立ち止まる。

「ディアナなら、飾りを作るのを禁止されて、今散歩に出てるよ」

 ベアトリーチェは納得した。

「頭を冷やしてるわけね」



 飾り屋ディアナは、大股でズカズカと廊下を歩いていた。すれ違ったリルサンタが、あまりの威勢に、思わず振り返る。

 ディアナは行き先も決めずに、ただがむしゃらに歩いた。

(最近のルドルフは、私のために時間を使ってくれない。昨日も――)


 セントラルの大きなツリーの横でルドルフと会った。夜は一緒にいられると思ったのに。

「ごめん、この後守り屋で護身の講習があって」

 袋を肩に担いで、ルドルフは申し訳なさそうに笑った。

「アトラスと受けるの?」

 どうしても尖った声が出てしまう。

「うん。パートナーだから、一緒に出ないと」

 ルドルフはディアナを優しい目で見ていた。


 ルドルフの気持ちは、ディアナにも分かっている。

(でも、この前だって――)


 先日はセントラルを歩いているルドルフを見つけて、声をかけた。

「ルドルフ!」

 挨拶のひとつくらい返してくれてもよさそうなのに、ルドルフは隣にいるアトラスと会話していて、ディアナに全然気づいてくれなかった。

 ディアナは愕然とした。

 ルドルフのパートナーは私なのに。ルドルフは私のことが一番大好きなのに。

 悔しくて仕方がない。


 ディアナが飾り屋オフィスに戻ると、同僚たちは慌てて机を片付け始めた。

「帰ってきた」

「布と折り紙を隠せ! また大量に飾りを作るかもしれない」

 ヒソヒソ小声で指示を出し合い、ディアナの視界から材料を隠す。

 肩をいからせて立っているディアナに、ベアトリーチェがそっと近づく。

「少しは冷静になれた?」

「私、案内屋になりたい」

 ディアナは虚空を見つめながら、棒読みで言った。

「無理かな」

「無理です。しっかりして飾り屋首席」

 悪化している……。ベアトリーチェは諦めた。

 同僚の飾り屋たちがデザイン画を持ってきて、ディアナを励ます。

「ディアナ、君のデザイン、リボンに採用されたんだよ」

「ほら、ディアナ、このお洋服素敵じゃない?」

 同僚たちの健闘も虚しく、ディアナは机に残っていた材料を掴み、黙々と飾りを作り始めた。

 メイベルが絶望して唇を噛む。

「これ以上増えたら、もう、しまうところがない……」

 飾りというのは、嵩張るのだ。材料のうちは棚に収まっていても、花飾りとして一度立体になってしまうと、置き場所がない。

 しまう場所がないので、飾り屋たちはディアナが作った花飾りを、服や頭にも装着している。

「もう我々の手には、負えない」

 花輪で髪を飾りつけているイーサンが、キリリと勇ましく言ってのけた。

「ルドルフを呼んでくるから! その間フリルでも作らせといてくれ! もう、花飾りはいらん!!」

「了解」

 出口に向かって颯爽と駆け出したイーサンの勇姿を見送る、飾り屋一同。全員、頭に花飾りをつけている。



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