飾り屋ディアナ「資料室」

 総本部棟、図書館、資料室。アトラスとルドルフは旅の打ち合わせをしていた。

 異世界地図を机に広げて、アトラスは真剣に危険な場所を説明する。

「つまり、この世界を抜けるには、ここで迂回する必要がある」

「全然、わからん」

 ルドルフは肘をついて、首を傾けている。

 アトラスはめげずに説明を続けた。

「もし失敗して沼に嵌ったときは、動かずに救助を待つ。いい? 動いたら、どんどん沼に引き込まれて、体が抜けなくなるんだ」

「ふむ……」

 ルドルフは真剣な表情になった。

「どうして俺には、一通もないんだろう」

「へ」

「アトラスにあんなにラブレターやファンレターが来るんだ。俺にも少しくらい来るべきじゃないか?」

「……もしかして、話聞いてなかった?」

「赤いキノコに触るなって話?」

「それ、だいぶ前の話題だ」

 アトラスはうめいた。

 机に両手を置き、ルドルフの前に身を乗り出す。

「君、もっとディアナを大事にした方がいいよ」

「なんだ突然?」

「ラブレターなんか来なくたって、君にはディアナがいるじゃない」

「そんな神妙に言われても」

「君がもっとディアナを大切にしてくれると、ぼくが助かるんだ」

「そんな本音を言われても」

 驚いているルドルフ。

 アトラスはルドルフの近くに着席した。

「ディアナは飾り屋の首席で将来有望だし、しっかりしているし、なぜかルドルフのことを本気で好きみたいだし」

「なぜかって」

「あんないい子を逃したら次はないよ。君の面倒をパートナーのぼくがずっと見なきゃいけなくなる。早いとこ、片付いてくれるとありがたい」

「本音が決壊したダムみたいに駄々漏れだな!? ディアナに何か言われたのか? あんまり気にすんなよ」

 ルドルフは声を落とした。

「あいつ、けっこう神経質なところあるからさ……」

 アトラスは目を逸らして、遠くを見る。

「言われたわけではないけど、少し警戒されてるみたいで。運び屋と案内屋は人生の多くの時間を共に過ごす。パートナーの恋人とトラブルになるのは、よくあることだ」

 ルドルフは無言だが、今度はきちんと耳を傾けているようだ。

「ぼくは君と仕事上、最高のパートナーになりたいと思ってる。そのためには君のプライベート上のパートナーであるディアナに、ぼくを信頼してもらわないと」

 ルドルフは微笑んだ。

「アトラスは真面目だな。心配しなくても、俺とディアナは大丈夫だよ。気を使わせてごめんな」

 ルドルフは安心させるように優しい声でそう言った。アトラスはそのとき、母親とダニエルのことを考えていた。

 コメットとペアーだった案内屋ダニエルは、コメットに片思いしていた。ルーペとコメットが結婚してからは、どうにも調子が悪く、仕事を減らしていたという。

(それが遭難の間接的な原因になったのでは……)

 ルドルフが明るい声を出した。

「ディアナには俺から言っておくよ。アトラスは信頼できるパートナーだって」

 アトラスは机に広げた地図を見ていた。

 異世界地図には、危険箇所を示す太いバツ印が、いくつも書かれている。



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