青い目の案内屋「偽物のルドルフ」

 薄暗い森に霧が立ちこめていた。樹木の幹が太くなって、不気味な雰囲気だ。

「もう気づいたのか。流石だね、案内屋アトラス」

 偽物のルドルフは目を細めて、満足げにそう言った。アトラスは緊張した面持ちで追求する。

「ルドルフは無事?」

 偽物のルドルフは、上目遣いにアトラスを見る。

「君が、探しに行けばね」腰の後ろで手を組んで、体を左右に揺らす。「ルドルフのことを教えてあげる。色々知ってるんだ」

 アトラスは前に一歩踏み出し、声を張りあげる。

「ここは擬似世界? 君はプログラムなの?」

「ふふっ。本物のフロンティアかも、って思った? 可能性としては否定できないよね。異世界に繋がる穴はいつ、どこで開くかわからないわけだし……自分のパートナーが遭難していたら、って想像した?」

 呑気な声でペラペラ喋る偽物のルドルフを、アトラスは冷え切った目で凝視している。

 そんな鋭い視線に怯むことなく、偽物のルドルフは喋り続ける。

「怖いよね。優秀な案内屋ダニエルと一緒だったコメットですら、手がかりのひとつも見つからないんだから」

 今にも飛びかかりたいのを必死に我慢して、アトラスは息を細く吐いた。

(挑発に乗るな。これはきっと、訓練のために作られた、そういうプログラムなんだ……)

 気持ちを整えて、口を開く。

「ルドルフについて、何を教えてくれるの?」

 体を揺らすのをやめて、偽物のルドルフは満面の笑みになる。

「パートナーの君には把握しておいてほしい。ルドルフは特別な運び屋だ。ほかのどんなリルサンタとも違う。ルドルフはニコラスの次に強い。リルサンタの中で、最も魔法力が強いんだ。トナカイのメンバーよりも、ずっと強い魔法が使える」

 偽物のルドルフは笑みを消した。

「つまり、もしルドルフが疑う心の影響を受けて、ギシン化することがあれば、WFはおしまいだ」

 アトラスの口から声がこぼれ落ちる。

「おしまい……」

「そう。おしまい。全部消える。WFは崩壊して、リルサンタは絶滅する! ばーん!!」

 偽物のルドルフは両手を広げて、あっさりと言い放った。

「だから、総本部は君をパートナーにした。ルドルフの才能と渡り合えるのは、アトラス、君だけだ。伝説の運び屋、稲妻ブリッツと長年苦楽を共にしてきた案内屋ルーペの末子である君ならば、あの破天荒な天才ルドルフをなんとか上手く使いこなして、無事に配達を成し遂げてくれると信じているよ!」

「ちょっと待って……」

 雪崩のように言葉を紡ぎ出す偽物のルドルフ。勢いに押されるアトラス。聞きたいことが山ほどあるのに、口を挟む余裕がない。

「魔法力たっぷりのルドルフは異世界の輩にしてみれば、栄養満点の健康食材。フロンティアに出るや否や、たくさんの生物が君たちを狙ってくるだろう。そんな危険を全く気にせずに、好奇心旺盛で底なしの体力を持つルドルフは好き勝手にどこへでも行ってしまうだろうね。でも、アトラスなら大丈夫! 危険な道を避けられるし、ルドルフがどこに行っても、見つけ出せるよね!」

 いくらなんでも、期待しすぎだろう。

「ぼく、今日デビューしたんですけど?」

 やっと偽物のルドルフの言葉が途切れたので、アトラスは大声で言った。

「あの……プログラムじゃないですよね? あなたは誰ですか?」

「んー、その質問の答えは、ルドルフに聞いてみて」

 偽物のルドルフは後ろ向きに数歩歩いて、アトラスから遠ざかる。

「実はここ、作り屋ハールの作品ではなくて、ぼくの幻影魔法なんだ。森も、ぼくのこの姿も、それっぽく見せているだけ」

 森が透けて、窓が見えた。アトラスがいるのは、物が何も置かれていない、大きな部屋だった。

「ハールが作った擬似フロンティアは、ルドルフが体験中なんだ。迎えに行ってあげてね」

 偽物のルドルフはいつのまにか消えていた。アトラスの前には一枚のドアが立っていた。

「たいへんな運び屋とペアになっちゃった……ぼく、ちゃんと昇進できるのかな?」

 若干の不安を覚えつつ、鍵穴に鍵を挿入する。

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