青い目の案内屋「擬似フロンティア」

 部屋の中は広大な森の世界だった。曇天で薄暗い。アトラスは歩き出そうとするルドルフを手で制する。

「待て、ルドルフ。ぼくの指示に従って。ここは天才作り屋ハールが作った擬似世界だ。フロンティアを模している以上、どこに危険があるか……」

 と言ってる側から、ルドルフはずかずかと森に入っていく。

「おい! ルドルフ、止まれ!」

 アトラスは慌てて追いかけた。

 大きな樹木の前で立ち止まり、ルドルフは枝を見上げている。

「作り屋ってすごいな。全部本物に見える」

「ルドルフ、ちゃんと聞いて。フロンティアは常に変動している。道を見つけて、人間界まで行けるのは、案内屋だけだ。迷いたくなければ、ぼくの指示を聞いてくれ。訓練でこんな調子じゃ、本番では命がいくつあっても足りない」

 ルドルフはゆっくりとアトラスを向いた。

「その目を隠すのさ、やめなよ」

 ルドルフは笑顔だった。でも、目は笑っていない。

「は……」

 アトラスは一歩、後退する。違和感、違和感、違和感!

 何かがおかしい。危険信号だ。

 ルドルフは微動だにせず、固まった笑顔で言う。

「案内屋なのに目を隠していたら、大事なことを見落とすだろう? アトラスの黒髪は綺麗だけどさ、そんなに前髪を伸ばさなくてもいいんじゃない?」

 アトラスは両手の拳を握りしめて、ルドルフをじっと見る。

「君には関係ないだろ……余計なお世話だ」

「でも、俺はアトラスのパートナーだ。命を預け合う相棒だろ?」

 いつから? 最初から……?

(こいつ、ルドルフじゃない)

 見た目も声もそっくりだ。でも、違う。歩き方も、立ち姿も、感じる魔法力も。ルドルフの方が魔法力自体は強いけれど、目の前にいる偽物のほうが、格上だ。ものすごく洗練されている。父のルーペより強いかもしれない。

「その帽子……どうしてそんなに古いの? 他の運び屋の帽子とデザインが違うよね」

 アトラスは受付前にしたのと同じ質問を投げてみた。偽物ルドルフはほんの一瞬、瞳をかすかに左右に揺らしたが、すぐに答えた。

「父親の、形見なんだ」

 アトラスは笑顔になった。

「君のこと、もっと教えてよ。ぼくたちは命を預け合う相棒だから、お互いのことをよく知るべきでしょ?」

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