青い目の案内屋「卒業式」

 ホワイトフィールド(WF)では各カレッジの卒業式をまとめて行う。これは首席発表とパートナー発表を一度に行うためである。講堂には多くのリルサンタが集まり、ステージには首席と学長が上がっている。

「首席、案内屋アトラス。貴殿は案内屋カレッジにおいて、非常に優れた成績を収めました。その功績を讃え、首席バッジを贈ります。おめでとう、アトラス。本当に、よくがんばりました」

 案内屋カレッジ学長、案内屋ヤマトが、アトラスの胸に金色のバッジをつけた。コンパスをモチーフにした、小さな丸いバッジである。

 アトラスは頬を赤く染め、涙で潤む目をヤマトに向けた。長い前髪の下で、深い海色の瞳が、今だけは真夏の海みたいに明るい色をしている。

「ありがとうございます、先生」

 ヤマトは優しく目を細めた。ヤマトの茶色の目も、少しだけ濡れて見える。


「運び屋ルドルフ、案内屋アトラス、作り屋マーク、手紙屋レット、飾り屋ディアナ、守り屋シドニー。以上、六名。本年度首席に、拍手をお願い致します」

 ステージにいる六名が、揃って一歩前に出る。ライトに照らされた六名の顔は凛々しい。壮大な拍手が鳴り響く。

 この首席たちが、未来のWFを牽引するのだ。パンデミックで住民の多くを失ったこの世界にとって、魔法力の強い優秀なリルサンタが育ったことは大きな希望だ。

 拍手はなかなか鳴り止まなかった。司会進行役は、床を這う長い長いリストを見ながら、大きな声で次の予定を告げる。

「続いて、運び屋と案内屋のパートナー発表を行います」


「運び屋イリス 案内屋ジアン」

 イリスとジアンが「はーい!」とハイタッチする。

「運び屋ティノ 案内屋ハムラ」

 うなずくハムラの肩を、ティノが叩く。

「運び屋ドミニク 案内屋フラッペ」

 よ、よろしくね。もじもじするドミニク。がんばろうね、と優しいフラッペ。

「運び屋シンイ 案内屋ハオユ」

 やった、ペアーになれた。シンイがハオユに抱きつく。

 およそ百五十組のペアーが発表され、最後に首席の二人が呼ばれた。


「運び屋ルドルフ 案内屋アトラス」

 ステージに残っている二人は、その場で向き合った。

「アトラスだ。よろしく」

 アトラスが右手を差し出す。長い前髪で両目がほとんど隠れている。

「ルドルフ。よろしく」

 ルドルフは握手しようとして、手袋を外していないことに気づいた。

「ああ!」

 思いついたように手袋を外す様子を見て、アトラスは不安になった。

(かなり優秀だって聞いたけど、全然そんな感じがしない)

「よろしくな!」

 ルドルフが晴れやかな笑顔で手を差し出す。

 二人がぎゅっと握手をした途端、小さな風が起こった。

「!?」

 アトラスは驚いた。足元から強い風が発生して、二人を中心に渦を巻く。

「く……」

 奥歯を噛み、アトラスは咄嗟に水魔法を使った。吹き飛ばされないように、まずは足場を氷で固める。アトラスが生成した水は即座に固まり、足元から後ろに向かって、氷の塊が広がっていく。

 やっと風が治まった時、アトラスの長い前髪はボサボサになっていた。ほとんど隠れていた青い目が露出している。呆然として呟く。

「なに……今の……」

 ルドルフはサンタ帽を揺らして、頭をかいた。

「えへ。ごめん。驚いた?」

 ルドルフの後ろに、舞台袖にいる司会進行役が見える。彼の髪もぐしゃぐしゃになっていた。さらにその後ろ、カーテンの脇から、裏役のリルサンタたちが顔を出す。みんなこの騒動に興味津々だ。アトラスは強い苛立ちを覚えた。

「はあ?」

 何こいつ。むかつく。

 第一印象は最悪だ。

 ルドルフはにこにこしている。

「その目。隠さないほうがいいよ!」

 アトラスは握手していた手を離し、ムッとして前髪を撫でつけ、目を隠した。

「……さっきの魔法、ぼくを試したの?」

「力が暴走しただけだよ。ちょっと力が強すぎるんだ、俺。アトラスも魔法力が高いから、接触と同時に暴発した」

 首席なのに、自分の力のコントロールもできないなんて。

 アトラスはため息をつきそうになるのを堪えて、俯いたままルドルフを見据える。低い声で言った。

「先が思いやられるよ」

 バキッ。靴を氷から外して、アトラスはステージを下りた。

 他の首席たちは無言でそれを見送る。

 飾り屋首席、ディアナがステージに残った氷を見る。

「溶けたら水浸しね」

「わぁ……」

 大きな翼のように広がっている氷の塊を、ルドルフは感心して見つめた。

(完璧に凍っている)

 アトラスは優秀だ。強風を察知し、即座に氷で足場を固定していた。

 氷魔法は水魔法の第二段階。水を生成しながら凍らせるのは高度な魔法力コントロールが必要だが、アトラスは速やかに魔法を発動し、水を氷へ変化させ、ルドルフの起こした強風にも折れない強度の氷を作った。

 危険なフロンティアを旅する時も、アトラスなら上手く案内してくれるだろう。

 プレゼント配達、楽しみだな。

 ルドルフは期待に胸を膨らませて、赤くなった鼻をこすった。



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