閑話② このときの僕が原因で友人カップルが喧嘩した話

「……高梨さん。来てたんだ」


 通話に現れたのは高梨綾たかなし あや。彼女は汐野さんの大学の友達で、僕の中学時代の友人、溝之翔一みぞの しょういちの彼女である。


「そういえば、翔一さん最近見てないけど元気?」

「翔一くんは最近買ったゲームが忙しいだけよ。また近々顔を出すって言ってた」


 何となく予想はしていたが、僕の予想通りだった。翔一さんも遥斗や隼樹と同様にゲーム好きだ。というか、ここのグループに入っている人たちのほとんどはゲーム好きだと思う。実際、今のグループの母体は中学の同級生グループだが、そこから紆余曲折を経て、ゲーム好きなメンバーが残った感じだった。


「そんなことより、つぴくんまた変なことに巻き込まれたんでしょ? モモちゃんの言う通り、いい加減友達付き合い見直したほうがいいわよ。じゃないと、またこの前のストーカー事件みたいなのに巻き込まれるよ?」


 高梨さんは僕を問題ごとを起こした子供を叱る母親のように説教する。正論すぎて何も言い返せない。なんか今日は女性陣に説教されてばかりな気がする。

 いや、いつものことか。


「つぴくん、わたしたちがここで見守ってあげるからさ。今この場で連絡先ブロックしな」


 僕は高梨さんの冷徹な言葉に慄く。方法としては、彼女のそれが一番の最適解なのは自分でも分かっている。しかし、何もそこまでする必要はあるのだろうかと心が揺れる。


「おいおい、何もそこまでする必要はないんじゃねぇか?」


 隼樹が僕のカバーに入る。すごく珍しい光景だ。いつもであれば、人の揚げ足を取るか仕事の愚痴を延々と吐き続けるくせに。僕は若干の感動を覚えていた。


「オレもっとそいつの話を聞きたいしよぉ! オレはドン底に落ちていく人間を見るのが好きなんだ。つぴがそいつと絶縁しちまったら、そいつの末路が聞けねぇじゃないか」


 前言撤回。こいつは正真正銘の人間の屑ロクデナシだ。僕は呆れを通り越して感動していた。よくもまぁこの場面でこんなことを言えたものだ。その無神経さは敬意を表するレベルだと思う。


 場は静まり返っていた。先程の隼樹の発言で場が葬式のような空気になってしまったからだ。皆、呆れ返っていたからだろう。遥斗がボソッと「この人間のクズが」と呟いていたのを僕は聞き逃さなかった。そんな冷えた空気の中で、口火を切ったのは高梨さんだった。


「石黒はちょっと黙ってて」


 まずい。高梨さんは確実に怒っている。高梨さんは平静を装っているものの、その言動からは隠しきれない烈火のような怒りが滲み出ていた。


 見ての通り、隼樹と高梨さんはあまり仲が良くない。そもそも高梨さんや汐野さん達女性陣は隼樹のことを良く思っていない。彼のデリカシーの無い発言や身勝手な行動のせいで定期的に誰かしらは被害を受けているからだ。


 隼樹でも流石に高梨さんの態度に気付いたのか、「へいへい」と不貞腐れたように吐き捨てた。続けて、高梨さんは僕に言う。


「その子がつぴくんがとても仲良いのは知ってるけど、今のその子はつぴくんにとって悪影響だよ。だから縁切ろ?」


 高梨さんは僕へ手を差し伸べるかのように言う。彼女の言葉には有無を言わせぬ迫力があった。きっと彼女の言う方法が最善なのだろう。僕の心が揺らぐ。


 だが、僕は彼女の手を取る選択はできなかった。


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