第2話 センセイ
「ちょっと待って。ごめん僕ゆーじの言ってることが全然理解出来ない。そもそも日本経済の不況とそのセンセイって人にどんな関係があるわけ? その人は救世主か何かなの?」
僕は勇次郎に向かって早口で捲したてる。今思えば僕の脳裏にある仮説が真実であることを信じたくなかったのかもしれない。
「ねぇ、悪い冗談はやめてよゆーじ。今どきそういうの流行らないよ? この話やめてもっと楽しい話しようよ。あっ、そう言えばね、僕の友達の……」
「俺は嘘なんかついてないよ、つぴちゃん」
無理矢理に話題を変えようとする僕だったが、それを途中で遮って勇次郎は話し始めた。
「確かに俺の説明が悪かったよ。流石に端折りすぎた。だから、今からつぴちゃんにもわかるように説明するね」
そう言って勇次郎はコホンとわざとらしく咳払いをした。
「まず、年金がもらえないって話だけども、これから俺達は国の手を借りずに自分たちで金を貯めていかなきゃならないんだ」
ここまでは勇次郎も間違った事は言っていない。
「続けて」
「だけど、普通に働いて金を貯めるんじゃ老後に安定して生活を送れるくらいの資金は貯まらない。第一、俺が今後働くであろう医療関係職は賃金が仕事の量に見合ってないし、俺等の住むド田舎は最低賃金も安い。だから、金をたくさん集めるには高給取りになるか、普通の収入に加えてプラスアルファで稼ぐ必要が出てくるんだ」
「まぁ、確かにそういう考え方もあるよね。んで、ゆーじはそのプラスアルファで稼ぐ方を選んだってわけ?」
「流石!物分かりがいいねつぴちゃんは」
なぜだろうか。僕は単純なので、いつもならあ褒められるとすごく喜ぶのだが、今の勇次郎に褒められても全く嬉しくない。
「まさかと思うけど、プラスアルファで稼ぐ方法を教えてくれたのがそのセンセイって人とか言わないよねゆーじ?」
「よく分かってるじゃないか、つぴちゃん! そうなんだよ!」
僕は頭を抱えた。うっすらとその疑惑は出ていたけれども、まさか本当にそうだなんて。
「先生とはこの前マッチングアプリで出会った女の子に紹介されたんだ」
出会い方も最悪じゃないか。僕は内心毒づいたが、声には出さなかった。
「先生に出会って俺は世界が変わったんだ。先生は俺に株で稼ぐ方法を教えてくれた。もう徐々に成果は出始めてる。まだ、つぴちゃんに『胸を張って報告できない』けど、近い内に変わりそうなんだ」
よりによって株か……。今になって僕は事態の深刻さを理解し始めていた。もしかすると勇次郎は危険なことに頭を突っ込んでいるのかもしれない。
「ゆーじ。先生にいくら支払った?」
僕は頭を抱えながら勇次郎に質問した。
「だいたい30万だね」
勇次郎はケロリと何事もなかったようにそう答えた。
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