第3話 30万の入会金
「30万!?」
僕は通話越しに素っ頓狂な声をあげる。驚きのあまり、危うく電話を落としそうになってしまった。大学生にとって――いや誰にとっても30万は大金だ。一体勇次郎はどこからその金を捻出したのだろうか。
「えっ、まさかと思うけど消費者金融で借りたりとかしてないよね……? 」
「まさか。俺は自分のお金で支払ったよ。まぁ、俺の友達に消費者金融で借りて支払ったやつはいるけど。あいつはスゲェよ。俺あいつ見てると尊敬したくなってくるもん」
そうして、その消費者金融で借りた友人とやらの話を悦に浸ったように話す勇次郎を、僕は冷めた目で見ていることに気づいた。いつもの勇次郎とは違う、まるで知らない他人を見ているかのような気分だ。
「その消費者金融で借りたお友達ってのは僕の知り合いだったりする?」
「あー、つぴちゃんは知らないかも。いや、この前話したかもしれない。カイトってやつなんだけど」
カイト。僕はその名前に聞き覚えがあった。
「もしかして竹田と同じ大学のやつだったりする?」
「おぉ、よく知ってるね。そうだよ」
僕がそのカイトという人を知っていた理由。それは、数日前に僕のインスタアカウントにそれこそカイトという名前のアカウントからフォローが来ていたのだ。知り合いのフォロワーは勇次郎と友人の竹田のみだった。
そのときちょうど竹田と通話中だったのだが、竹田にこのアカウントの主について尋ねたところ、先程までの明るい喋り方とは打って変わって真剣なトーンになり、僕に「つぴちゃん。そいつ俺の友達だけどフォローしないほうがいいよ」と言った。何故なのか理由を聞いても、竹田ははぐらかすばかりであまり教えてくれなかった。
今思えば、竹田はもうこのときに勇次郎の状態について知っていたのかもしれない。この後で詳しく聞いてみようと僕は思った。
「んで、その30万は何に使ったの?」
「入会金だよ。教えを乞うんだ、何事も無料ってわけにはいかないでしょ? 先生の教えに従って俺も株をやり始めてからちょっと経つけど、この調子で行けば30万もすぐに取り返すこともできるかもしれないんだ」
本当にそうだろうか?
僕は株については全くのド素人だが、始めたばかりの素人がすんなり稼げるほど甘いものではないのは知っている。もし、そんなにすんなりとかせげるものなら、全ての人は職を捨ててそれをやっていることだろう。だから、僕は勇次郎は先生とやらに騙されているのではないかと思った。
「ねぇ、なんで俺がつぴちゃんにこの話をしたと思う?」
「…………もしかして勧誘されてる?」
「そう!やっぱ物わかりがいいねつぴちゃんは!つぴちゃんにも俺と一緒に先生との下で学んで一緒に切磋琢磨しあえるライバルになって欲しいんだ!」
僕はこのとき初めて、親友のことが気持ち悪く思えた。
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