第3話 緊急招集

(三人称視点)


 その日はニワトリの鳴き声よりも先に人の悲鳴で始まりを告げた。


 王女が、誘拐された。


 その事実は、王宮に未だかつてない動揺をもたらした。


 まず、そんな事実が広まっては王国の威信に関わるため、中級貴族以下へは情報が広まらないようかんこう令が敷かれた。


 そして上級貴族は王宮へと招集された。


 王宮の大会議室で、上級貴族が一堂に会したのだ。


 しばらくして、国王がおごそかな空気の中 口を開く。


「……では、会議を始める。今日は全員そろっておるのか?」


「いえ、は欠席しています。重い風邪とのことです」


 現場にいる全員がため息をつく。


 次に聞こえてくるのは不満の声だ。


「国家の一大事だというのにまったく、ノクストン公爵は王国上級貴族としての自覚かかけていらっしゃるのではないか?」


「どうせ今日もあの性格の悪い娘・・・・・・の相手でもしているのだろう。風邪で休みは今月に入って5回目だぞ? はは、本当なら毎晩氷風呂でも入っているのではないか?」


「しかし来ないものは仕方あるまい。では、会議を始める」


 そうして、緊急会議が始まる。


 初め、緊急会議の雰囲気はさながら通夜であった。


 何せ、王女が誘拐されてしまったのだ。


 特に娘を溺愛していた国王はかなり落ち込んだ様子である。


 しかし、心の中でほくそ笑む者も多くいた。


 対帝国開戦派だ。


 なぜなら、誘拐犯の正体は東方人であることが判明したからだ。


 東方人ということは高確率で帝国人であり、帝国人が王女を誘拐したとあれば開戦のきっかけには十分である。


 開戦派の上級貴族、ヒゲを蓄えた侯爵が口をひらく。


あやつら帝国ついに我が国敵国の王女を誘拐するという暴挙にでおった。こうなっては何としても東の帝国に近衛軍を派遣し、王女様の即時返還を要求するべきだ」


 しかしすぐさま反論が来る。


「待て、そんなことをしたら本当に全面戦争になるぞ。ただでさえ帝国とは緊張関係にあるのだ」


 事実、無断で近衛軍を派遣することは帝国のメンツを潰すばかりか自治権に干渉することに他ならない。


 対立を深める東西の大国間でそれが起きれば、それはすなわち戦争の始まりを意味する。


「そうなれば戦えば良い。帝国はどうせいつかは潰さねばならない敵なのだ。いい機会だ」


「そうだそうだ、王女様を奪った奴らをやすやすと見過ごすなど、それこそあり得ない話だ!」


 開戦派はそう勢いずき、通夜状態だった会議が白熱し始める。


 だが、再度反論が返される。


「気持ちはわかるが、明日から戦争というのもまた難しいだろう。今年は飢饉もあって国民は疲弊している。そもそもの話、犯人が東方人と確定したわけでもあるまい」


 そう意見する慎重派をヒゲ侯爵は笑い飛ばす。


「はっ、確定したようなものだろう。現場には帝国金貨と東方人の黒い毛髪が見つかっているんだぞ。こんなの特定してくれと言わんばかりだ」


「だから、そんなあからさまなミスをするわけがないといっているんだ。大体、東方人だったとして帝国政府とは別の過激派の仕業しわざである可能性も十分あるだろう」


「同感ですな。あるいは分断を煽る何者かの自作自演。例えば貴殿らのような開戦派のな」


 その瞬間、開戦派は一斉に立ち上がる。


「「貴様!」」


「── おい! 王の御前であるぞ! わきまえよ!」


 複数人での言い争いを見かねた国王の側近が、大声を出す。


「「し、失礼しました」」



 静かになった議場で、だまって端に座っていた名家・モルゲンリート公爵が口を開く。


「ワシも近衛軍の即時派遣には反対じゃ。しかし、帝国の良心に期待するだけというのは無理があるのもまた事実。どれ、ここは一度、使節を送って向こうの言い分を聞いてみるというのはどうじゃろう」


 その意見を聞いて、一時議場は納得感ともいうべき空気に包まれた。


 しかし、1人が疑問をていした。


「公爵。おっしゃることはごもっともなのですが、その使節というのは誰がやるのでしょう?」


 その言葉を聞くと同時、場に再び沈黙が訪れた。


 現在王国は帝国とかつてない緊張関係にあり、帝国内には反王国過激派も多く存在する。


 すなわち、帝国に直接おもむくだけでも極めて危険な仕事なのである。


 1人が口を開く。


「低級貴族でも適当に見繕って送るというのはどうだ」


 名案に思えたが、すぐさま否定される。


「低級貴族に情報を漏らすのは得策ではない。しかもそれではプライドの高い帝国がまともに取り合わんかもしれん。せめて上級貴族以上でなければ」


「それもそうか……では多数決で決めるというのは」


「しかし、ノクストン公爵が欠席している。その状態で多数決というのも……」


「あんなやつ、無視すればいいだろう」



 再びあきれムードが漂い始めたそのとき、ある者が名案を口走った。


「では、そのノクストンの性格が悪い娘に使節をやらせるというのはどうだ? 容姿が整っているから見栄えだけはするし、公爵家の娘という格も丁度いい」


 それを聞いた途端、議場がざわめき出す。もちろん肯定の意味だ。


「なるほど!」

「そうだ!」

「それにしよう!もし文句を言おうとこんな大事に欠席する方が悪いのだ」

「国王様の勅令であるとおだてればすぐ乗ってくるだろう」

「名案だな」

「ちくわ大明神」

「誰だ今の」


 その案はすぐさま可決された。






■あとがき - - - - -

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また次回もお楽しみに!


※本話(第3話)は6/18に一部改訂しました。物語の大筋には関わりませんのでご安心してお楽しみください

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