第1話 2人の前世の記憶

(アウロラ視点)

 

 食事を食べながら、目の前にいる家来をから適当に選んで指をさす。


「あなたとあなた、それからあなた。 全員クビよ!」


「お、お許しくださいアウロラ様! もしここをクビになったら私は……」


「うるさいわね。私に逆らうとはますますクビよ」


「そ、そんなぁ」


「ざまあw!」


 私がパンパン、と手を叩くと兵士がやってくる。


 そして私が首を宣告した家来3人は涙を浮かべながら連行された。


「では私はこれで」


 苦手なニンジンを残して、私は立ち上がる。


 私はアウロラ=ノクストン。


「西の王国」グランディネ王国三大公爵ノクストン家の令嬢、つまりこの国の絶対的権力者の1人である。


 兵士を連れて廊下を歩き、上機嫌に鼻歌を歌う。


「今日もしっかり無能をクビにできて気分がいいわ」


「さ、左様でございますか……」


 冷や汗をかきながら兵が答える。


 その時だった。


 兵の方を振り向きながら歩いていたせいで、進行方向の棚に気付かずぶつかってしまった。


 するとそこに置いてあった巨大高級ツボが私の方に倒れてきた。


「うおっ!」


 私は倒れてきたツボを後ろ手に抑えようとするが当然抑えきれない。


 まずいっ!


 そのとき私は咄嗟に舞踏の練習を思い出す。


 そうだ、ダンスのように体を回転させながらツボの方向をそらせば……


 私は得意の舞踏の要領で、ツボの向きをくるりと変える。


 すると、そのままツボは私の後ろを歩いていた兵士の方向に吹っ飛び、彼の頭に直撃して粉々になった。


 直撃した兵士はバタン、とそのまま倒れ込む。


「ふぅ、危ない。舞踏が得意で助かったわ」


 ふと見ると、ツボが当たらなかった方の兵士が倒れた仲間を見て慌てている。


「ほら、あなた行くわよ」 


「いえしかしその、お嬢様、倒れている彼は……」


 私は兵ににじり寄る。


「なにかしら? まさかあなたもクビになりたいの……きゃっ」


 しかし私は、言い終わる前にツボの破片に足を滑らせて転んだ。


 そのまま頭を強打する。


「あ痛ったぁっ!」



 ──その瞬間だった。頭の中に見覚えのない記憶が蘇る。


 日本、会社、ゲーム……。


 これは、前世の記憶? ゲーム、そう、ゲーム。


 主人公は、貧乏貴族のサラ。そのサラが王子エクラ=グランディネに見初められる乙女ゲーム。


 そしてサラをいじめていたのがアウロラ=ノクストン……私がプレイしていた西洋ファンタジー乙女ゲームの悪役令嬢。


 最終的には、東西大戦と呼ばれる戦争の渦中で内乱が起き、恨みを買っていたアウロラは速攻で処刑される。


 そんな、極悪非道の令嬢……ちょっと待て、じゃあ私はもしかして……



 ゲームの悪役令嬢に転生した!?



  - - - - -



 ゲームの悪役令嬢に転生した!?


 私の名前は黎明黎音リーミン・リーン


「東の帝国」レイ帝国左大臣の令嬢、つまりこの国の絶対的権力者の1人である。


 そのはずだったのだが……先ほど柱に頭をぶつけたとき、別人の記憶が脳裏に流れ込んできた。


 そう、前世の記憶である。


 前世の日本で私がプレイしていた東洋ファンタジー乙女ゲームの悪役令嬢、黎明黎音リーミン・リーン


 彼女はまさに私と同じ名前、しかも私と同じレイ帝国 左大臣の娘だ。


 最終的には、東西大戦と呼ばれる戦争の渦中で内乱が起き、恨みを買っていた黎音は速攻で処刑される。


 だが、しかし……いや、ここまでくると間違いない。


 あまりにも似過ぎている。


「黎音様、どうしました? 先ほど頭をぶつけてから様子が……」


「ああ、いえ少し考え事をしていただけです」


「左様ですか」


 世話係の官女に声をかけられ、一旦誤魔化す。


 現状私は左大臣の娘にも関わらず裏では悪女と囁かれ、宮廷内で著しく嫌われている。


 このままではゲーム通り処刑は免れない。


 が、いきなり悪い噂を打ち消し好感度を上げるというのも容易ではない、か。


 さてどうしたものか……。






■あとがき - - - - -

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!


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また次回もお楽しみに!

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