第41話:君の頭蓋骨の中には何が詰まっているんだい?





 メイガスが用意した屋敷。それをほんの数分で瓦礫の山となっていた。私の周りだけを残して、全て切り刻まれた破片となってその場に積み上げられていた。


「逃げられたようですね」


 ヴァイオレットはただの人形になって転がっている。


「捕まえたかった?」

「レイヤードのどこかにいる本物を見つけない限り、あの犯罪者は捕まえられません」


 メイガスの正体はゲームで見たから知っている。あれは双子の男女だ。二人で一つの異能を使っている。


「レイヤードの秩序を脅かす異能の発現、捜査官の拉致、危険思想の発言。以上より、自称『メイガス』を推定犯罪者ではなく犯罪者として分類します」


 立ち上がって服の埃を払う私に、ジョンは近づく。


「それにしてもメアリー」

「なんでしょう」

「拉致されても怯えるどころか悠然としていて、しかも粗雑な解体を間近にしても子猫の喧嘩を見ているかのように落ち着き払っている。実に君は興味深い。君の頭蓋骨の中には何が詰まっているんだい?」

「ただの脳ですよ。一般の市民と何も変わりません」


 極力つれなく振る舞う私に対し、ジョンは目を輝かせて私に手を伸ばす。


「だからこそ、この目で見てみたい」


 私は一歩下がった。


「許可しません」

「それは残念だ。きっと君は大脳や小脳――海馬さえも美しいフォルムに違いないのに」


 まったく、すぐこれだ。ジョンは面倒くさがりなだけで、本気を出せば極めて精密な外科手術のメスのようにアグノスティックを使うこともできる。


 何しろこいつは――人間を生きたまま、骨格と筋肉と内臓と神経に腑分けすることだってできる。神経の伝達を阻害することによってわずかな痛みさえ感じさせず、むしろ脳の特定の場所を刺激させることによって極上の快楽を味わわせつつ。オルタナティブ・サイコで、ジョンの依存度がボーダーラインを突破した後にはそういう描写が挟まれる。


 プレイヤーの見えないところで、ジョンはプレイヤーが担当した事件の犯人を解剖の練習台にしていく。歪んだ愛情を注ぐプレイヤーを、同様の方法で隅から隅まで堪能し味わい尽くすために。私は吐き気がしつつ手を差し出すと、ジョンは嬉しそうな顔で手を取って立ち上がらせた。まるで淑女にかしずく騎士だ。そんなにスキンシップが好きか。





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