第38話:正気? そんな殊勝なものがジョン・ドウにあるとでも?
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丁寧にカーテシーで挨拶するメイドたちの表情には、突如殺人鬼の生贄にされた恐怖はない。
「彼女も、彼女も、彼女もだ。どうだい、君の好みに合致しただろうか?」
まるで皿に盛った料理を勧めるかのようなメイガスの言葉に、ジョンはただ「なるほど」とだけ言う。目を輝かすこともなければ、逆に怒るわけでもない。敢えて言うなら無関心だ。
「後腐れは気にしなくていい。何しろ彼女たちは人形だ。しかし私の異能を見ただろう? 人形とはいえ本物の人間となんら変わりない。皮膚も、骨も、肉も、血も」
あのメイドたちはいずれもメイガスの操る人形だ。操ると言っても、ある程度自立した思考を与えているようだ。それこそ、無垢な犠牲者としてジョンにあてがうこともできるだろう。
「ああ、恐怖の反応が見たいの? それとも絶望の表情? 命乞いが聞きたいのかしら? 逆に喜んで殺されるようにするのも可能よ。あなたの好みに合わせて調整してあげる。好きなように切り刻んでいいのよ?」
ここぞとばかりに、メイガスはヴァイオレットの口を借りてジョンに提案する。その残忍な言葉に私は――
「――ふ」
笑った。
「どうだろう。ささやかな私からのプレゼントだ。君の欲望を満たすぴったりの贈り物と自負している」
「――ふふ、ふ」
「受け取ってくれるだろうか?」
セーブルの言葉についに私は我慢できなかった。
「ふふふ――あはははははっ!」
私は椅子に座ったまま大笑いする。
「あはははっ! あーっはっはっは! あはははは!」
明らかに不快そうなメイガスと両脇の巨漢と少年とは異なり、ジョンは大笑する私にほほ笑む。
「メアリー、君はなんて楽しそうに笑うんだ。僕まで心が躍るじゃないか」
私はハンカチで涙を拭ってからジョンに向き直る。
「嘘はやめなさい、ジョン。今あなたは――とてつもなく不愉快。そうでしょう?」
ジョンの笑みが忽然と消えた。
「そうだよ。僕のことを分かってくれるのは世界で君だけだ。親愛なるメアリー・ケリー」
「ええ、そうですよ。私はあなたのことを理解しようと努めます。身勝手な持論を押しつけ、薄弱な根拠を提示し、まるで自分が真理に到達しているかのように思い上がる門外漢とは違います」
見つめ合う私たちに、苛立った様子でセーブルが割って入る。
「ジョン・ドウ。君は第一級推定犯罪者でありながら、アウトカムに帰属するのか? 正気か?」
ずいぶんとまともな意見だ。ジョン・ドウという狂気の申し子と比べれば、メイガスのなんと陳腐なことか。
「正気? そんな殊勝なものがジョン・ドウにあるとでも? まさかあなたは彼とまともに会話ができると本気で信じていたのですか?」
メイガスをあざ笑う私に、とうとう両脇の少年と巨漢が激怒した。
「おい、いい加減にしろ!」
「さっきから調子に乗ってるな。少し痛い目に遭いたいか!?」
私の肩を乱暴に掴む巨漢をよそに、私はそちらを見ないで命じる。
「ジョン」
次の瞬間悲鳴が上がった。巨漢の片腕がずたずたに引き裂かれて血が周囲に飛び散った。
「お、お前――よくも!」
少年がナイフを取り出したが、再び悲鳴が上がる。今度は両腕を切り裂かれている。
「下がりなさい、二人とも」
ヴァイオレットが命じたので、二人は傷口を押さえながら客間から逃げていく。私は彼らの背中を見ながら持論を展開する。
「あなたは、とてつもない勘違いをしています」
そうだ。メイガスはジョン・ドウを何一つ理解していない。
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