第35話:待ってたわ。アウトカムの飼い犬さん
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メイガス。異能「グランドオペラ」を有する「傀儡の魔術師」。オルタナティブ・サイコではプレイヤーに敵対するキャラクターで、最近異能をレイヤードにばらまいている黒幕の側にいる。シナリオによって立ち位置が変わるキャラで、熱心な信奉者だったり、単に利用しているだけだったり、それなりのビジネスパートナーだったりする。
その異能は、木製の人形を人間に偽装して操るというものだ。しかも、人形だけでなく何人もの犯罪者と推定犯罪者が仲間にいるのが厄介だ。私としては、今自分がどのシナリオにいるのか分からない以上、極端にメイガスを刺激したくはない。そもそも、私が本当にオルタナティブ・サイコというゲームの世界にいるのか、それも怪しいのだが。
拉致された私が乗っている車が止まった。ドアが開いたので外を見る。森の中にある屋敷だった。無駄に凝っている。
「降りろ」
運転手の顔色の悪い男がそう言うので、私は立ち上がる。
「ええ。ちょうど脚を動かしたかったところです。何しろ窮屈でしたので」
扉が開くと、クマのぬいぐるみを抱っこした少女がメイドを引き連れて待っていた。
「待ってたわ。アウトカムの飼い犬さん」
典型的な上流階級の息女、といったデザインの服装の少女は、顔立ちに似合わない不敵な笑みを浮かべて私に挨拶する。私は努めて四角四面の態度で一礼した。怖がる必要はない。この場面はオルタナティブ・サイコで体験している。私はただの人質であり、危害は加えられない。そう信じるしかない。
「初めまして。アウトカム所属の犯罪捜査官、メアリー・ケリーと申します」
「まあ。自己紹介も型通りね。私はヴァイオレット。よろしくね」
「ええ。あなたが私に危害を加えないのならば、ですが」
私がそう言うと、わずかに少女は不快そうな顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「じゃあまずはお茶にしましょう? 私たち、お友だちになれそう」
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