第30話:絶対に君を危険から守ってあげるよ
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「メアリー、相変わらず君は正しいよ。僕としては論破されて反論もできない」
嘘をつくな、と私は肩をすくめるジョンに内心で毒づく。こいつは本質的に自分の欲求以外どうでもいいサイコパスだ。昆虫と同レベルの本能だけで生きている。
「それで? 今回君が頭を悩ませている理由は?」
「多いのです」
「多い?」
「ええ。異能による事件の発生件数が。まるで誰かが異能を配っているかのように」
異能を有するだけで、基本的にレイヤードでは推定犯罪者として扱われる。その異能で犯罪を犯す可能性が高い、という理由だ。
「レイヤードの秩序に反抗するためかな?」
「それは分かりません。断言するには情報不足です」
いや、私は事件が急増した理由を知っているけどね。でもいきなり核心に至るわけにはいかない。今のメアリー・ケリーが持ちうる情報では、真実にたどり着くはずがないからだ。オルタナティブ・サイコというゲームでこの世界を体験済みでよかったと心から思う。これから起こる可能性の高い事件の数々に、あらかじめ心の準備ができる。
「異能は通常の論理を超えて発現します。頭が痛いですね」
私がそう言った時だ。机に向かう私の背にジョンが回ると、親しげに両肩に手を置いた。
「大丈夫、メアリー」
ジョンの囁きが頭の上で聞こえる。心から私を気遣っている仕草がかえって不気味だ。
「何があっても僕が守ってあげよう、安心して?」
「どういう風の吹き回しですか?」
「まだこれは予感だけど――君は僕にとってかけがえのない人間になるかもしれない。こんなに生きた一人の人間に関心を抱けるなんて、エシックスにいた時は思いもよらなかったよ」
首筋をジョンの指先が這った。明らかに私の頸動脈の形をなぞっている。何が「かけがえのない人間」だ。お前にとっては「かけがえのない素材」の間違いだろう。
「ありがとうメアリー、僕を見つけてくれて。絶対に君を危険から守ってあげるよ」
私はなれなれしく囁くジョンの手を払って、自分の首筋を守る。
「では、捜査の際には私の指示に従順に従って下さい」
お笑いぐさだ。危険から守る? 私にとって今一番の危険と言えるのは、そんなことを口走っているこの未遂の殺人鬼――ジョン・ドウだからだ。
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