第20話:ジョン・ドウはサイコパスですが、私の命令には従います
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「ジョン・ドウと親しいふりをして下さい」
後日、私はガラテアの所属する事務所の一室で、彼女に協力を頼んだ。
「ただし、彼は第一級推定犯罪者です。彼を信頼しないで下さい。彼は致命的に他者と共感できない人間です。どれほど親切にしてきても、それは単なるエミュレートです。彼のことは人間のふりをする機械と思って下されば結構です」
冷静に考えれば、会話するだけで精神純度を低下させる第一級推定犯罪者を友人役としてガラテアにあてがい、おとり捜査のようなことをするのは正気ではない。しかし、私は上級市民にしてアウトカムの犯罪捜査官だ。一般市民が私の捜査方法に文句は言えない。仮にガラテアの精神純度が下がっても、私にはその数値を書き換える権限がある。
「……分かりました。それで、犯人が捕まるなら」
渋るかと思いきや、ガラテアは少し悩んだだけであっさりと了承した。
「ずっと……今も見張られている感じがしますから。もうこういうことは終わりにしたいんです」
ガラテアは不安そうに肩を振るわせる。しかし、その犯人がプロデューサーのコナーであるとは思っていないようだ。
「検挙した犯人は即時矯正されます。場合によっては記憶の消去も行いますので、二度とあなたを脅かすことはないでしょう」
私はすぐにフォローする。ストーカーに対してレイヤードの刑法は容赦ない。犯人は被害者に対する記憶を抹消されるだけでなく、再犯できないよう性格や性癖まで改ざんされてしまう。
「……ですが、その……推定犯罪者ですよね、ジョンさんは。できれば、アウトカムからほかの人を呼んでいただきたいのですが……」
ガラテアの困惑も分かる。評議会はストーカーの頭の中身を壊すことはためらわないくせに、ジョンの殺人嗜好を少しも抑制していない。ジョンがシリアルキラーであることは知られていないが、ガラテアも不安だろう。
「本件は私に一任されています。他の捜査官は別の事件に従事していて、協力は指示されていません。ジョン・ドウはサイコパスですが、私の命令には従います」
私は空約束をする。本当は少しも従わなかったけどね!
「彼には言い聞かせてあります。あなたと親しいふりをしろ、犯人を確保しろ、何があってもあなたを守れ、と」
結局最後は、私は四角四面なメアリー・ケリー捜査官を演じるしかなかった。
「お気になさらず。何かあっても彼は市民ですらありません。補充などいくらでもできる備品同然ですから」
そこまで請け合ってようやく、ガラテアは安心した様子だった。つくづく、ステージの上の天真爛漫さとは正反対の、等身大の女の子といった感じだった。
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