第18話:今一度だけ警告しておきます





「そ、そうですか。ありがとうございます。ガラテアも――安心することでしょう。彼女のメンタルはあの脅迫文でかなり参っていましたからね」


 わずかにコナーの口調からは、残念そうな感情が見える。


「――いや、逆だよ」


 その時、突然ジョンが口を挟んだ。


「むしろ、ガラテアは精神的にこれからかなり追い詰められるだろうね。かわいそうに」


 誰が自分の意見を言えと言ったんだ。


「ジョン、静かにしなさい」


 私はジョンの方を見ないでそう言うけれども、彼は聞き入れない。


「考えてみてよ。アウトカムの捜査官に身辺を嗅ぎ回られるんだ。個人の精神純度を強制計測だけじゃなくて、口頭での質疑応答で決定する権限のある捜査官がだよ?」

「ジョン。もう一度言います。黙りなさい」

「誰だって秘密の一つや二つ、後ろ暗いことの一個や二個はある。さて、君の大事な歌姫は、アウトカムの無言の圧力にどれくらいストレスを感じるだろうね。僕が思うに――」

「ジョン! いい加減にしなさい!」


 私はつい大声を出してしまった。このサイコパスが勝手に動き出したら、誰にも止められないと知ってるからだ。脱走した毒蛇同然だ。


「僕の言いたいことはそれだけさ。はいはいごめんねメアリー、もう黙るよ」


 いけしゃあしゃあと謝るジョンに、私は詰めよる。


「あなたのような都市に適応できない非生産者が、他人の心配をする必要はありません」

「僕なりの今日のコンサートに対する謝礼みたいなものだよ。そう怖い顔をしないでよ、メアリー。君の可愛い顔が台無しだ」


 歯の浮くようなお世辞を無視して、私はジョンに事実を突きつける。


「今一度だけ警告しておきます、ジョン・ドウ。評議会に提出するあなたについての報告は、私に一任されています。矯正不可能と書いて、あなたを今度こそエシックスの最下層に永久に拘禁させることもできるのですからね」


 この警告が通じるだろうか。私は内心で祈るしかない。


「君はそんなことをしないよ、メアリー」


 ジョンはただ楽しそうに笑うだけだった。


「君は僕を必要としている。違うかい?」


 何もかも見通したような顔のジョンに、私は感情を込めずに応えた。


「ええ、必要です。迅速かつ円滑な犯罪捜査のための備品として、ですが」


 バチバチと火花を散らす私たちの横で、コナーは困り果てていた。





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