第15話:壊れたオモチャに用はない





「私はこう判断します。――ガラテア本人があれを書いたという可能性も考えて、鎌をかけてみたのでしょう?」

「あははっ、分かってるじゃないかメアリー。やっぱり君は捜査官なんかよりも、よっぽど犯罪者の方に寄った考え方をしているよ。ブラボー」


 ジョンは心底愉快そうに笑った。料理の本を閉じて私を熱っぽく見つめてくる。


「犯罪者の検挙のためには、彼らの思考を知らなくてはなりません。私は彼らのような考え方はしませんので」

「ああ、そうだね。君は凡庸な犯罪者になりそうだ。それよりも――今みたいに足を踏み外さないように健気に頑張っている方がよっぽど魅力的だよ」


 ジョンの嗜好には反吐が出る。他人を自分の興味の材料としてしか見ていない。


 仮に犯罪者になった私を見たら、つまらなそうに一瞥して首を刎ねるだろう。壊れたオモチャに用はない、ということだ。それよりも、犯罪者の狂気に勇気を振り絞って突っ込んでいく私の方が、ジョンの好みに違いない。そうしている限り、私はこいつに殺されることはないだろう……たぶん。逆に興味関心を持たれているという可能性も高いが。


「それはともかく、あの脅迫状はガラテアの自作自演だと思いますか?」

「全然。彼女は普通の善良な市民さ。犯人は別にいる。さて、どうする? もう少し焦らせば、そいつは無視されたことに我慢できなくなって飛び出してくるかもしれない。分かりやすい脅迫状を出してくるだろうから、その変化は一目瞭然だ。僕たちは座ってただ待つだけでいい」


 要するに、本当にガラテアに危害が及ぶようになってから出動すればいい、とジョンは言っているのだろう。私は考える。ストーカーの被害は悲惨だ。何かあってから動いても遅い。


「私は彼女を警備します。急激な精神純度の低下により、犯人が凶行に及ぶ可能性は無視できません」

「真面目だね、メアリーは。そんなに歌姫様を守りたいのかい?」

「当然です。私はこのレイヤードのために働く義務と責任があります。ならば全力で市民の秩序正しい日常を守るべきです」

「素晴らしい心がけだ。君の市民ランクが高いのもうなずけるよ」


 ジョンは再びソファに寝転んで料理の本を広げるが、私はその側に立つ。


「何をしているんですか。あなたも同行するんですよ。今すぐです」

「はいはい。分かったよ。まあいいか。メアリーと一緒ならきっと面白いものが見られそうだ。期待しておくよ」


 ジョンは気だるげに立ち上がると、ゆるめていたネクタイを締める。私は引き出しから拳銃を取り出してホルスターに入れる。今回の犯人はもう分かっている。後はどうやって、彼をおびき出すかだ。





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