第14話:じゃあここでクイズ





 ガラテアが帰ってから、私は自分の事務室に戻った。改めて、レイヤードではコンピュータ関連の技術があまり発達していない歪さを実感する。論理やその媒体がコンピュータの代わりになっているのもあるし、評議会の情報統制の結果もあるだろう。デスクで法律関連の紙の書類に目を通しつつ、ジョンに質問する。


「ジョン、なぜガラテアを脅したのですか?」

「え? 何の話?」


 私が仕事で忙しいのに、ジョンはソファに寝そべって料理の本を見ながら平然と答える。読書の時はジョンは眼鏡をかけている。ゲーム本編と同じく、ジョンの趣味は料理だ。頼まれなくても新作の料理を作ってくれるし、しかもレストラン顔負けの美味しさだ。……それはともかく。


「とぼけても無駄です。あなたに求められているのは犯罪者と推定犯罪者のプロファイリングです。捜査に必要なことだけ発言しなさい。ガラテアに不要な心労を与えることは、彼女の精神純度の低下を招きます。到底看過できません」

「まあ、普通の捜査官ならそう言うよね。じゃあここでクイズ。なぜ僕はガラテアを恐がらせたのでしょうか?」


 ジョンはにこにこ笑いながら問いかける。その目は昆虫の複眼のように空虚だ。私はため息をつく。こいつの思考回路はどうなっているんだ。喜怒哀楽が全部他人事だ。


「普通の捜査官でしたらこう答えるでしょうね。『ジョン・ドウは、自分がいかに危険な第一級推定犯罪者であるかを誇示し、恐がられて承認欲求を満たしたいから』と」


 わざと私はジョンの気に障るようなことを言う。要するに「お前は自分がイカれた人間だって精一杯他人にアピールして驚かれたいだけのみみっちい奴だ」と暗に言ってみたわけだ。自分がひとかどの者だと思い込んでいたり、サイコパスであることがちっぽけなアイデンティティである奴なら、図星を突かれて顔を真っ赤にするはずだ。


 しかしジョンはまったく表情を変えない。馬耳東風にもほどがある。


「うんうん。もちろんメアリーはそう思ってないよね?」


 ああ、そうだとも。こいつが殺人を犯したいのはトラウマやコンプレックス由来ではなく、ただの性癖だ。他人に誉められても怖れられても喜んだり悲しんだりはしない。他人の声なんて、こいつには雑音でしかないはずだ。





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