第11話:向こうでまた会おう。愛してるよ、僕のメアリー
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ゲームのオルタナティブ・サイコは、当然だらだらと捜査官の日常をプレイさせることはない。適度にそういうところは省略され、プレイヤーはミッションを攻略していく感じだった記憶がある。私としてはテレパシー能力を持つエリー・ゴールドや、怪盗紳士を気取るアンドリュー・コリン・マクスウェルとかがプレイして面白かったキャラだ。
エリーはなんといっても可愛いし、異能「マスターキー」が制御不能で軽い人間不信に陥っているだけで、依存度も低くこちらを溺愛の対象にはまずしてこない。推定犯罪者というパートナーを知るには初心者向けに近いけど、戦闘力が皆無で序盤が厳しい。彼女のシナリオは、オルタナティブ・サイコの中では一番清楚でこそばゆかった。
マクスウェルは一見するとクールな伊達男だけど、実はレイヤードでは発禁の娯楽小説にはまった変態で、危険思想ということで推定犯罪者として扱われている。彼は理想の自分になれる異能「バルトアンデルス」を持っていて、おかげで物語の怪盗紳士になりきっている。変装も潜入もピッキングも自由自在だ。彼こそ初心者向けだろう。
ジョン・ドウは地雷そのものだ。戦闘力は全キャラ一位。戦闘では異能「アグノスティック」が猛威を振るう。ゲーム上では歪曲空間の広範囲攻撃で表現されるこの異能があれば、平均より体力や防御力が低いなんて問題にならない。ただし、ジョンは殺人中毒者だ。このシリアルキラーは、自分の欲求を満たすために人を殺すことを少しも厭わない。
プレイヤーが楽だからという理由でジョンを使いすぎると、あっという間に依存度がマックスになりバッドエンドだ。ノーマルエンドではジョンは死亡するものの、プレイヤーの精神を乗っ取ったことが暗示されるし、グッドエンドでもジョンは再び収監されるものの、レイヤードに模倣犯らしき存在が出現するというすっきりしない終わり方だ。
私が思うに、ジョンの正体は人間から人間に渡り歩く独立した多重人格みたいなものじゃないだろうか。だから正体不明だし、評議会も彼の過去を追跡できないし、おまけに自分の生死に無頓着だ。ルートによってはジョンを射殺することもあるけれど、笑みを浮かべて「向こうでまた会おう。愛してるよ、僕のメアリー」と言って死んでいく。
私はジョンを殺したくないし、できれば更生させたいと思っている。
「……どうすればいいのよ」
朝、私はベッドの上で頭を抱えた。オルタナティブ・サイコのノーマルエンドみたいに、朝に鏡を見たら自分の顔がジョンに見えて悲鳴を上げるようなオチは避けたい。私はそう決意しつつ、捜査官のペルソナをつけてベッドから起きるのだった。
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