第9話:メアリー、夕食の時間だよ
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「……ふう」
自宅で私は、推定犯罪者の更生プロジェクトについての分厚い書類に目を通し終えた。コーヒーはすっかり冷めていて、しかも雑に煎れたのでおいしくない。評議会とアウトカムの間には官吏がいて、これがまた仕事を煩雑にしている。役所の悪いところを全部組み合わせたような彼らは、レイヤードというディストピアの象徴だ。
それにしても、ジョンに捜査の補佐に当たらせるなんて、正気とは思えない。プロファイリングをさせたければ、エシックスでやればいいのに。やはり、闇から闇に葬りたい事件が多い、ということか。私はオルタナティブ・サイコでプレイヤーとして体験した事件を思い出す。いずれも例外なく奇怪で歪み、狂った事件の数々を。
その時ノックの音がした。
「メアリー、入ってもいいかい?」
ドアの向こうからジョンの声がした。
「ええ、どうぞ」
私は書類を引き出しにしまいつつ入室を許可する。ドアが開いた。
「久しぶりの自由には慣れましたか、ジョン……ジョン?」
なんとジョンはエプロンをしていた。似合うような似合わないような。
「その格好はなんですか?」
「どう? 似合う? じゃなくてメアリー、夕食の時間だよ。集中していて忘れてた?」
そう言われて気がついた。時計を見るといつの間にか夜だ。
「ああ、もうそんな時間でしたか。あなたが作ったのですか?」
「うん、暇だったからね。キッチンにある食材を適当に使わせてもらったけど、いいよね?」
「そういうことは先に言ってください」
「あはは、ちょっとびっくりさせたかったからね。どう? 手は空きそう?」
陽気な好青年としてふるまうジョンに私は気を許さずに答える。
「ええ。せっかく作ってくれたのですから、温かいうちにいただきましょう」
確かにオルタナティブ・サイコでもジョンは料理上手という設定だった。それがここでも再現されているだろうか。
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