第7話:生けるバイオハザード
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今回の推定犯罪者更生プログラムに参加している捜査官は、私だけではない。以前リストを見たけれども、何人かゲームでプレイしたことのある推定犯罪者の顔写真があった。他人の思考を読み取ってしまうテレパシー能力者、エリー・ゴールドや、怪盗紳士を気取るアンドリュー・コリン・マクスウェルは個人的に思い入れのある人物だ。
けれども、私の担当するジョン・ドウはその危険性が桁違いだ。エリーは人間不審なだけだし、マクスウェルは彼の美学が評議会の逆鱗に触れただけで、人間としては問題ない。一方でジョンはというと、思想も実害も最悪だ。下手に親しくなると彼の狂った思考に呑み込まれるし、異能を使われたらレイヤードに現存する武装では対処は不可能だ。
そんな生けるバイオハザードのようなジョン・ドウを、評議会は私一人で制御できるとは思っていないらしい。いや、そう思っているなら最初からエシックスから出すなよ、と思うのだけど。評議会はジョンに特殊な首輪をつけた。物理的なものではないけれども、これが彼の首にはまってる限り、ジョンが脱走することはないと思いたい。
「論理」。それは森羅万象に干渉する現象をプログラム化したもので、レイヤードではごく普通の技術だ。「理学」として一般人も学べる。魔術や超常現象と思えば一番近い。
「ああ、結構邪魔だね、この論理」
私が運転する車の助手席に座ったジョンが、手で自分の首を撫でている。そこには論理で刻んだ黒いチョーカーのような線が一周している。
「ジョン、あなたの頸部には逃走防止用の論理が施術されています。便宜的に首輪と呼びますが、その論理のパターンを更新する頻度は一日に一度。怠った場合、あなたは脳が腐蝕して死にます」
私は虚実を交えて説明する。
「つまり、君を殺して逃げたら僕は死ぬ、ということだね」
生殺与奪が握られていることを知っても、ジョンはどこ吹く風だ。
「ええ。私の心臓に刻まれ、私の生命活動とリンクした論理だけが首輪のパターンを更新できます。あなたの協力次第で、この更新の頻度を減らすこともできます」
私はこれ以上ジョンが興味を示さないよう祈った。何しろオルタナティブ・サイコというゲームの後半では、ジョンがこの拘束を自らの異能で無効化するシーンがあるからだ。
「それにしても、これからどこに向かうんだい。まさかさっそく捜査に参加しろ、とは言わないよね」
幸い、あっさりとジョンは首輪への興味を失った。こいつは自分の異能を本能的に使っているだけで、それを研ぎ澄ます気はないからだ。そもそも、異次元から出現するナニカを、殺人のための刃物にしか使わない時点でジョンの無関心さが知れる。
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