第4話:そしてバッドエンドに一直線
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でも、私がかつてプレイしていたオルタネイティブ・サイコでは違う。プレイヤーは主に捜査官でプレイするけど、バディとしてジョンを選択すれば、要所では彼でプレイできる。ジョンのパラメーターは攻撃特化で、狂った反則的スキルを持っている。敵を殺せば殺すほど攻撃速度と攻撃範囲と攻撃力が上昇する。
さらに死体を解体しても一定時間ステータスが大幅上昇という壊れた性能だ。なら、オルタネイティブ・サイコにおいてジョンとコンビを組めばゲームは楽勝かと思えばそうではない。ゲームにおいては捜査員と組む推定犯罪者には「依存度」というパラメーターもあり、要するにあまり彼らを使いすぎるとプレイヤーを溺愛してくるという意味だ。
ジョンはこのパラメーターの上昇スピードがバグかと思えるくらい早い。簡単に言えば調子に乗って使いすぎるとすぐに暴走し、送り返されたエシックスから脱獄してしまうのだ。その際ジョンでプレイできるけど、並み居る警備員や防衛機械を鼻歌交じりに解体していくジョンには鳥肌が立つ。こいつにとっては虐殺など落書きみたいなものだ。
そしてバッドエンドに一直線。プレイヤーである捜査官の家にジョンがやってくるところで、ゲームは唐突に終わる。エンディングで明かされた第三者による報告書が、その後に起きたおぞましい惨劇を匂わせているのがまた怖い。ジョンが立ち上がった。一斉に二人の警備員が銃を突きつける。数歩歩いてジョンは立ち止まった。
「こんにちは、ジョン・ドウ」
イニシアチブはこちらにあることを知らしめるべく、私は先手を取って彼にあいさつした。
「やあ、こんにちは。可愛いお嬢さん」
にっこりとジョンは満面の笑みを浮かべた。花束を差し出しかねない親しげな態度だ。
「会えて嬉しいよ。ここに閉じ込められていると、女の子に会えるのは本当に久しぶりなんだ」
私はジョンの会話に乗らないよう注意しながら言葉を続ける。
「私のことを覚えていますか? 私はメアリー・ケリー。アウトカム所属の犯罪捜査官です」
ジョンの目が細められる。真顔でじっと私の顔を見て、鼻をひくつかせる。こいつ、視覚よりもむしろ嗅覚で人を区別しているのか? ますます犬みたいな奴だ。
「ああ、なるほど」
すぐにジョンは人なつっこい笑みを浮かべる。本当に今思い出したのか、思い出したふりをしたのか分からない。
「君は確か、僕に道ばたで精神純度のチェックを強制した……うん、思い出したよ」
「それはよかった。自己紹介の手間が省けます」
ジョンが笑みをやめた。
「君のせいで僕はここに閉じ込められている」
一瞬息が止まる。こいつの「異能」を私はゲームでプレイしたから知っている。でも、このメアリー・ケリーとしては知らない。ジョンはあっさりと捕まったからだ。だから私は知らない振りをしなければならない。はっきり言おう。今ジョンがその気になれば、私を一瞬でひき肉にすることだってできる。恐怖で鳥肌が立つけど、懸命に我慢する。
「私のせいではありません。あなたの精神純度の低さ――推定犯罪者として区分される低俗な精神性故です。私はレイヤードの秩序を守るためにあなたを逮捕しました。今ここにいる原因は全てあなたにあります」
私は判で押したような、レイヤードの犯罪捜査官として模範的な回答をした。勇気を振り絞ってジョンと目を合わせる。
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