第3話:ジョン。面会だ





 この辺りにさしかかると、銃を持った軍人顔負けの警備員が常に巡回していた。私たちは今、第一級の推定犯罪者の隔離フロアへと向かっている。何度も身分証を提示して、別の場所に設置された特別なエレベーターに乗った。冷えきったエレベーターから出た時、即時粛清が許可される推定犯罪者のいる階層へと到着したのが分かった。


「ここが彼の収容されている階だよ。絶対に問題を起こさないでね」

「分かっています」

「よし。何かあったらおじさんを頼って」


 二人の警備員に左右を挟まれた状態で、私たちは廊下を歩き出す。通路も壁も天井も真っ白だ。まるで柩の中だ。どんなことがあっても、この先にいる推定犯罪者――ジョン・ドウは脱走させないという意志が伝わってくる。


 ジョン・ドウ。このレイヤードでも数少ない第一級推定犯罪者。その圧倒的な殺人のセンスとあらゆる精神汚染を無効にする理性(そもそも汚染されるまともな部分がないので)、そして何よりも蛇のような犯罪に対する嗅覚というか、蛇の道は蛇と言うべきプロファイリング能力の高さから、特例として評議会の命令で生かされているのだ


 最後の分厚い扉を抜けて、私たちはフロアの行き止まりにたどりついた。全身を覆う特殊装甲を着た警備員が二人、シンプルな扉の前で私たちを待ち受けていた。身分証を提示する。


「面会時間は五分だ。ジョンに対してどのような発言や行動をしても構わないが、形式上のことだ。我々の指示には常に従ってもらう。よろしいか?」

「了解しています」

「よし。気をつけるように」


 私はハロルドと共に扉をくぐってその部屋に入る。目に染みる異常に明るい真っ白な部屋の中心で、一人の青年が椅子に座っていた。影が一つもできない、まるで手術室のような場所だ。


「ジョン。面会だ」


 警備員の声が空っぽなその部屋に響き渡る。ゆっくりと、「彼」が目を上げた。


 何重にも拘束衣を着せられた青年がこちらを見ていた。屈託のない美青年だ。どこにでもなじみそうで、どこにいても話題の中心にいて、誰にでも好かれそうな好青年。それがジョン・ドウだ。つやのある金髪に色白の肌。人好きのするやや垂れ目。拘束衣を除けば、人畜無害な青年にしか見えない。さしずめ人間が大好きな大型犬だ。


 彼にほほ笑まれれば、大抵の人間が一瞬で心を許してしまうだろう。犬が尻尾を振って近づくようなものだ。だが、このジョン・ドウは犬どころか毒蛇だ。正真正銘の殺人鬼。殺人嗜好症。生粋のシリアルキラー。度し難いサイコパス。人体解剖マニア。幸い、過去に私が路上で精神純度の検査を強制した結果、誰一人殺すことなくここに収監された。





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