なぜ『あの植物はヤバい!という嘘』は解かれないのか 作られた危険な野草・ミントとナガミヒナゲシ

オドマン★コマ / ルシエド

ミント&ナガミヒナゲシについて

 貴方は推しの植物研究者はいますか?

 私はいます。

 その1人が、現在東京農工大学名誉教授・鯉淵学園教授・他感作用研究所所長の『藤井義晴先生』です。文部科学大臣賞、国際アレロパシー学会モーリッシュ賞、日本雑草学会業績賞を貰ってる結構すごい人ですよ!


 貴方はどうですか?

 推しの研究者はいませんか?

 いませんかそうですか。

 ブルーアーカイブで推しを作るくらいのノリで、各分野ごとに何人か推しの研究者作っても良いと思うんですけどね。


 ちなみに私のブルアカの推しは杏山カズサです。

 すみません、隙あらば自分語りしてしまう厄介なオタクで……今回はミントの話とナガミヒナゲシの話をちょっとするので、この辺を専門にしている藤井義晴先生に関連する研究からちょちょいと引用していきます。


 ウマ娘の劇場版がバズってるのに相乗りして史実の競馬引用語りするタイプのオタクみたいな引用を連続していきます。たぶん。




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 では前フリの長めのトークをします。

 皆さん大好きミントの話です。

 あるいは皆さん大嫌いなミントの話です。


「ミントはあまりにも強いのでその辺に撒くとあっという間に他の草を駆逐してミント一緒にしてしまう、ミントテロだ」


 というネットの主張を見たことがありますか?

 デマです。


「ミントってそんな強くないよね」


 というネットの主張を見たことはありますか?

 事実です。


 前者は2chなどを発祥とする言論で、後者はそれに対するカウンター、あるいは前者からミントのアレコレを知った人の検証によって拡散された言論です。


 ミントが本当にそんなに強いなら、とっくにミントが環境で支配的になってると思いませんか? それが答えです。


 何故、ミントはミントテロ脅威論で言うほど強くないのか。何故、そんなに強いと語られがちなのか。実際はどのくらい強いのか? その詳細は……


(待ちなさい)


 も、もうひとりのボク……?


(その前に注意事項を置いておくべきです)


 そうですね。


 知らないことは罪ではありません。

 知ってる人の方が偉いとか、そういうことは絶対にありません。

 知識は渡していくものであります。


 知識は誤解を解くために使われることはあれど、マウントを取るためのものではありません。


 正しい知識でマウントを取られると意固地になって反抗する人種……というものは珍しくないため、今回解説する内容を『誤解を正すため』に使う時は、言葉を選ぶことを推奨します。


 世間に蔓延した誤解を解くために必要なのは、正しさによる論破ではなく、知識を共有し思考の道筋を提示する協同です。


 そして知識、研究は、時代の流れと共にアップデートされるものであり、専門家ですら、いや、専門家だからこそ意見を修正することはあります。


 現在(2024年6月)時点に存在する研究は、あくまでその時点で考えられる正しさを導き出すものでしかなく、未来でその正しさは覆されるかもしれない……ということを覚えておいていただけると、嬉しく思います。


(OK GOOD)


 ありがとう、もうひとりのボク……!




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 まず、何故ネットでのミント最強論が途絶えないのでしょうか。

 まず1つ、最初に覚えておくべき単語があります。『アレロパシー』です。


 植物は自分の身を守るため、より広くに広がっていくため、周辺環境を自分に有利なものに変えるため、周囲に生成した物質をバラ撒きます。

 これを『アレロパシー活性』などと言います。


 イメージとしては、体内で作った毒をバラ撒くとかそういう想像をすれば良いと思います。

 受動的で自分から何も動かないように見える植物が持つ、ゆったりとしていてそれでいて確かな能動的攻撃手段。それがアレロパシーです。


 ソシャゲで全体攻撃キャラって強いですよね?

 当然、アレロパシーも強い性質です。

 何せ周囲全体を攻撃できるわけですからね。

 害虫を殺し、病原菌を殺し、時には動物の体調も悪くし、周辺植物の発芽や根の伸長を妨害して、『自分の種』の楽園を作る能力です。


 自分には効かず、敵にだけ効く毒をバラ撒けたら、それだけでその場の環境を支配できると思いませんか?

 植物が自然に獲得した形質の中でも、指折りにすごい仕組みだと思います。


 まあ、植物は自分が発したアレロパシー作用で自家中毒に近い状態になって衰弱する例も多々あるんですけどね! アレロパシー自爆で自滅はあんま珍しい事案でもないようです。


(敵も自分も同種の仲間も皆やられる毒をバラ撒いて全滅だぁっ!)


 もうひとりのボク!

 遊戯王のブラックホールかな?


 ともあれ。

 このアレロパシーという概念をまず頭に入れておきましょう。

 それだけで割と色んな話についていけます!


 さて、ネットでヤバい植物扱いされる種を見ると、基本的にヤバいとされる植物はこの辺りの特性を強調されています。


・繁殖力が強く、すぐ拡散する

・生命力が強かったり、根から再生するので、根絶が難しい

・周囲の植物などにアレロパシーで攻撃する

・人に有毒な特性を持っている


 うーむ。

 確かにこの辺の特性を兼ね備えてたらヤバそうですね。めっちゃヤバそう。


 ではちょっと視点を変えますか。

 上記の基準は、アマチュアがミントなどの雑草をヤバいヤバいと判断するものです。

 では、


「プロもそういう基準で判断しているのか?」


 という疑問が出るのも当然ですよね?

 答えは「イエスでもありノーでもある」です。


 なんて曖昧な答えだ……!

 気分は汚職がバレた政治家ですよ。

 どちらもありうる、そんだけです。


 たとえば、長らく専門研究で使われてきた『改良FAO方式』による評価項目を見てみると、上記の「ネットでヤバい植物だと言われる基準」だと評価項目が全然足りません。これに加えていくつかの評価基準を足す必要があります。

 大雑把に、


・水生植物かどうか

・交雑の危険がある同種雑草があるか

・人間の活動で広がるか

・棘や針を持つか

・他の植物を覆って枯らす特性があるか

・種子が一年以上生存できるか

・切断や火に耐性があるか


 あたりが足りていませんね。

 こういう、を各種評価して、相対的に脅威度が高いものが法律で指定され、規制され、「できる限り抜いてください」と呼びかけられるようになるわけです。

 相対的。

 そう、相対的です。


 ミントは相対的に弱い位置付けなんです。


 だから法で指定も規制もされず、果樹園の地面に直接蒔く農法が推奨され、家庭菜園に置くことがリスクだと判断されておらず、比較的どこでも買えるんです。

 「ミントはこれがヤバいんだ」という主張に「それ他の雑草にも無い?」って返されたら、話はそこで終わっちゃうんですよね。


 ミントテロ?

 面白い風評ですよね。

 ミントがどのくらい強いのか知らない人達が、ミントの相対的な安全さと管理のしやすさを知らないまま、トンチンカンな危険性を語ってるのは、現代の喜劇の一種であるような気すらします。


(でもこの前、畑一杯にミントが広がってヤバいっていうバズツイとニュース見たよ……と言う人が居るかもしれませんよ)


 もうひとりのボク!

 確かに耕耘直後の畑にミントを撒いたら、畑いっぱいにミントが広がるかもしれません。

 でもよく考えてみましょう。

 それ、他の植物でもそうなるんじゃないですか?

 ミントに限った話ですか?


 まあミントに覆われた畑も、いずれは他の植物が流入すれば、ミントが負けて一掃されたりします。他の土地と同じように、ですね。

 ミント関連はこういう『よく考えないとミントすげーで終わるだけの話』が結構あります。


 あ!!!!!!!!!


 見てください、『畑一杯にミントが』の案件をテレビ放送した『グッド!モーニング』2024年5月22日放送内に、藤井義晴先生が出てますよ!


 TV側から「ミントヤバい」的なコメントを求められてたっぽいですけども、専門家が「ミントは格別ヤバい」とか言うわけないので、ほぼ当たり障りのないコメントを喋ってるシーンしか映ってない藤井義晴先生ですよ! 可愛いですね。


 『ミントテロの脅威』っていうニュースタイトルなのに、ニュース内でニュースキャスターと藤井義晴先生がミント全然ない草ボーボーの場所をずっと歩いてて、ようやくミントが固まってる場所を見つけた! 他の雑草に押されて一部でしか繁茂できてないミントを指差して『ミントテロの脅威』を語ってるの虚しくならへんか? TV局の皆さん。


 あっ、藤井義晴先生が当たり障りのないコメントしかしてないのに、ググっても詳細が全然出て来ない怪しい人物が専門家面して出て来て、TV越しにミントのヤバさを語り始めた! マジでなんか謎の人物が! ミントの脅威を! ニュースタイトルの『ミントテロの脅威』の完成だー! ……なんなんですかねこれ?


(テレビは面白ければ良い、のノリで正確性をそっちのけにして危機感を煽ることが結構あるんですよね。本当に危険な外来種として指定されてる植物ならいいんですが、ミントはそうじゃないし……)


 もうひとりのボク!




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 まあミントテロ脅威論がデマというだけで、ミントが自然界最弱というわけではありません。

 後述しますが、香辛料植物の中でのアレロパシー測定ではトップクラスですし、普通に慣れてない人だと除草するだけで面倒臭いですしね、ミント。


 と、いうか、ミントに限らず雑草はことごとく面倒臭いと言っていいところです。毎年雑草刈りに駆り出される皆さん、お疲れ様です。私もこの日本のどこかで汗と泥にまみれております。一緒に頑張っていきましょう。


(ミントが弱いのか強いのかどっちかの主張に固めて語ってください)


 うるさいですねもうひとりのボクは……

 意見ってのは偏るのが1番危険なんですよ……

 ミントより強い草も弱い草もいて、ミントはさほど脅威があるわけでもない枠というだけのことなんです……


 たとえば、東京農工大学動物医療センターの庭で、アレロパシーの強さを測定する実験がありました。期間は5年間です。

 実験対象はクリーピングタイム、シバザクラ、ヒイワダレソウ、マツバギク、リュウノヒゲ、ヤブラン、そしてロイヤルペパーミントです。


 これらを植えてどんな雑草が生えるか、どんな雑草が生えないか、そして調査対象のアレロパシーが他の植物にどんな影響を与えるのか……1回で5年もかかる実験ですね。


 そして、その結果ですが。

 ミントだけ完璧には出ませんでした。

 何故か?

 途中でミントが雑草に負けて全部枯れたからです……おお、ミントよ……か弱き草よ……ちなみに他の植物は全部生き残って5年分のデータはちゃんと取れたみたいですね。


(じゃあ具体的にミントはどのくらいの強さなんだろう?)


 良い質問です。

 東京農大・農環研共同研究の『香辛料植物のアレロパシー』によると、ミントの中でもアレロパシーが強いスペアミントは、レモンユーカリ、カモミール、アニス、バーネットと並んで評される阻害効果を発揮したとされています。

 香辛料植物の中では強い方、くらいの認知が正しいと思われます。


 ミントは脅威と言うほど強くはないもの、ミントに負ける植物は多くあり、ミントが完全に無害であるとまで言うと逆方向の間違いになってしまいます。そこは気を付けポイントですね。

 弱い花とミントを並べて植えたら花は弱ってしまうでしょう。


 ほどほどの強さ、ほどほどの弱さ、危険はない。ってところでしょうか。


(行き過ぎが良くないだけで、何事もちょうどいい塩梅というものがあるんですよね)


 私の脳内のイマジナリー藤井義晴先生!


 そうですね!




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 と、いうわけで。

 ミントの生命力、繁殖力、除草難易度、他植物に対する影響力を考えると……


「他植物との競合に弱い野菜を育てている土にミントを撒くのは有害。ただしミントのアレロパシーはちょうどいい強弱のため、農地に直接蒔く農法は全然存在する」


「ミントの除草は相対的にはそこまで難易度が高いものではない」


「専門研究においてはミントはむしろ雑草・害虫対策の有用さを評価されており、制御可能・比較的低リスク高メリットな植物として扱われることが多々ある」


「自然界でミントが無双することはない。無双できるほど強くはない。そのため生態系を破壊する危険性は高く見られていない」


 という感じになります。


 さて、ミントテロ系のデマは有名です、が。

 『どうでもよくない?』って思いませんか?

 私もちょいと思います。


 だってネットでミントテロがーとかドクダミテロがーとか騒いでても、別に何か起こるわけでもないし、何か変わるわけでもないじゃん? って思うのが普通の考え方ですものね。ミントテロが実際はそこそこ失敗するというならなおのこと。


 法令で指定されてもいない、ネットでだけ恐ろしい植物扱いされてるものを撒くことに、「テロだテロだ」ってきゃっきゃ騒いでる人達に何の実害があるのか?

 ほっといてもよくない?

 躍起になる理由無くない?




 実は無いわけでもないんですよね、害。




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 皆さん、最近(2024年6月現在)のニュースでカメムシの大量発生を見ていませんか?


 見てる方はそのままどうぞ。

 見てない方は先に検索するといいかも。

 虫が苦手な人は見なくていいです。

 集合体恐怖症の人も検索しない方がいいかもしれません! 本当に! 察しましょう。


 平年比で富山は13倍、和歌山は43倍、宮城は60倍、京都は150倍、神奈川は192倍、熊本は280倍、香川は282倍だそうです。カメムシ。


 クソがよ(一瞬漏れる本音)。


 さて、これに対してこの手の防虫殺虫のプロのフマキラーの生活情報から引用がされました。


「カメムシはハーブのミントが苦手なため、ミントの苗を植えることで家庭菜園の被害を少なくすることができます」


 おお、という感じですね。

 手堅い手堅いアンド手堅い。

 ミントはその安全性ゆえどこでも買えますし、法令の規制も無く、プランターでも枯らす人は枯らす微妙な弱さくらいしかネックがありません。


 スペアミント等と比べるとペパーミント等はカメムシに対する効果が少ないと言われていますし、カメムシの種ごとに効きが違うとも言われているため、この簡潔な説明だと確実性は低そうですが、それでも分かりやすく有効な手立ての説明です。


 なんですけども。

 案の定、Twitter(自称X)で騒ぎ立てる人が出て来たんですよね。


「ミントを植えるなんてとんでもない! ミントテロを知らないのか! ヤバいよ!」


 で、これに乗っかった人達が大いに拡散して、あたかも『ミントのそういった脅威』が真実であるかのように賛同して、騙される人も出て来るわけです。


「ミントがそんなに危ないなら、カメムシ対策で植えるのやめよっ……!」


 と、言ったりして、ですね。


 うーん。

 この。

 何?


 まああえて解説するまでも無いと思いますが、これが発生し始めてる実害ですね。


 楽しいんだと思いますよ、ミントテロトーク。

 大袈裟で、大仰で。

 「知らない人に教えられる」のも気持ち良いんじゃないかって思います。

 アニメの都市伝説的な嘘話も、Twitter(自称X)だと定期的にバズりますしね。

 人間の本能なんだと思います。


 いやあでも、ミントの鉢植えを家庭菜園に置いてカメムシ除けなんてベターもベターなやり方ですし、それでミントが制御不能になった例っていくつ見たことがあるんですかね?


 北海道で道いっぱいにミントを植えて稲作の害虫防除に使って、それを『ハーブ米』とブランド付けして売ってる所があるのはご存知です?


 農業・食品産業技術総合研究機構の果樹研究所が「ミントの中でも特に強いアップルミントを果樹の根本か列間に50cmずつ植えると雑草と害虫への防除になります。以後管理は必要ありませんが、定期的に地上部から50cm程度で刈り取ってください」程度の技術指導して使わせてるのがミントですよ?


 何かしらの理由で放置した庭をミントで埋め尽くされた人が、「大抵の雑草はそんくらい蔓延るよ」「どっちかというと対処が不味かったよね」「ミントが特別ってわけじゃないよ」っていう知識を得る前に、『ミントは特別バケモノだよ』っていう虚構を吹き込まれた場合、次の機会で間違えないと言えます?


 って思ったりもするわけなんですよね。


 なんじゃあネット民の脳内ミントは。

 そんなミントどこにあるんじゃぁ。

 見せてみぃ。

 「放っておいたら庭がミントでこんなことに!」ってそれはミント以外の雑草でもそうなるわ!

 って思ってる人は結構居るわけなんですな。


 誤情報は行動を縛ります。

 虫の専門家が「カメムシの大量発生が来ます」と警告して、植物の専門家が「ミントが有効です」と知識を提供して、そこに横から突っ込んできた素人が「待って! ミントテロが起こるよ! 危険!」って言って妨害してるの、どう思いますか?


 幸いまだ冗談で済む範囲の話ではありますが、今度もそうであるとは限りません。

 『事実に即していない嘘の知識が常識として定着するといずれ実害は拡大していく』という危うい慣例が、今回ミントとカメムシで表出したように思えます。


 今回の話の本題はそれです。


「何故こんな、植物の嘘の情報は拡散され、訂正されないのか」


 個人に対する誹謗中傷と、特定植物に対するデマの拡散は、被害者がという一点において明確に異なり、だからこそ積極的に修正されることはありません。

 『被害者のためにこのデマの訂正を周知させよう』って思う人が居ないからです。


 目立つ重大な損失が発生するまでは、拡散されたデマが修正されることは無いのです。


 これはとても重要なポイントです。


 さて。


 分かりやすいミントの話で話の骨子が掴めたと思うので、後半戦に入りましょうか。


 ナガミヒナゲシと藤井義晴先生の話です。


 もう名前覚えましたか?

 藤井義晴先生、藤井義晴先生ですよ。

 「またかよ」と読者の方に言われているかもしれませんが、こっからが本番です。


 何故、こんなにも繰り返し藤井義晴先生の名前が繰り返し出て来ると思いますか?


 理由は単純。


 ミントが、『公式の基準に照らし合わせれば脅威に数えられない植物』であるならば……藤井義晴先生は、『どの植物が脅威かを決める人』だったからです。




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 ナガミヒナゲシは、結論から言えば、上記のミントより過激な捏造が行われ、過激な捏造ゆえに大きな反発を招き、徹底した反論が行われ、今ではデマ元の撤回も行われたものの、未だにデマが広がっている草であり花……というものです。


 「ナガミヒナゲシ チラシ」あたりでGoogle検索すれば、諸悪の根源である嘘情報チラシがヒットすると思います。


 現在、ナガミヒナゲシに関する過剰な脅威論を諌める活動をなさっているのが藤井義晴先生です。

 そして、十数年前、『ナガミヒナゲシは危険な植物かもしれない』と提言した人達の1人もまた、藤井義晴先生です。


 ナガミヒナゲシは藤井義晴先生の手で危険な植物として知られ、藤井義晴先生の手で危険な植物であるという誤解を解かれている真っ最中……と言うこともできるわけですね。


 分かる人にしか分からないと思いますが、仮面ライダーアマゾンズの鷹山仁が、今の藤井義晴先生にあたります。

 ……本当に分かる人にしか分からなそう。


 藤井義晴先生の肩書きに『ナガミヒナゲシの第一人者』というものがありますが、彼はそれを名乗るに足る過去と実績を持っています。




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 ナガミヒナゲシは、


「最近日本に入って来た危険な外来種」

「毒を持っているため危険」

「アレロパシーで周囲の植物を駆逐するため生態系を脅かす」


 という風に語られていました。


 結論から言えば、これ全部嘘です。


 え? と思われるかも知れませんが、全部嘘です。マジのマジです。

 ナガミヒナゲシの(嘘ではない)特筆すべき脅威要素は『膨大な種子数』などが挙げられますが……これも後述の理由から過度に恐れる必要は無いものです。


 一つずつ整理していきましょう。


 まず、「最近日本に入って来た危険な外来種」というものですが、ナガミヒナゲシは1961年に東京で初めて確認され、2000年以降に全国に一気に拡散、数年後の調査でその事実が確認され、2010年あたりに大手報道で警告がなされました。


 ナガミヒナゲシは60年以上日本に居るので、ネットで拡散された「最近日本に入って来た危険な外来種」というのは普通に嘘です。


 また、この『00年代以降に全国に拡散した』という事実をもって「最近日本で爆発的に拡散したため危険視され」といった言い回しを用いる人も居ますが、ナガミヒナゲシは農環研の研究結果が出てから十年ほどの間危険視されておらず、また大手報道で警告がなされてから数えても数年間危険視されておりません。


(そもそも60年前に日本に入って来て20年前に全国拡散開始して……って植物、『最近』ですかね? まあ、『最近』日本に入って来た外来種という風に語らないと、「昔から日本に居て放置されてるのに日本の環境を支配してないのおかしくね? 危険な植物なんだよね?」っていう指摘が入るからかもしれませんけども)


 そうだぞもうひとりのボク!


 実のところ、ナガミヒナゲシが一般に危険視されたのは「最近日本に入って来た」からではなく、「最近チラシで積極的に誤情報を拡散した人が居たから」です。


 いや、そのチラシが拡散されたのは2016年なので、『全然最近じゃないじゃん』って言われたら何も反論できないんですが、どうしよう? どうしましょう。


(でも仮面ライダーエグゼイド放送年が2016年ですよ)


 お黙ってもうひとりのボク!

 いや待ってください、私はおじさんじゃない。

 私はおじさんじゃないが?

 でも感覚的には2016年はちょっと最近。


 こほん。

 ただ、そのチラシの話をこの段で語ると長くなりすぎるので後の解説に回します。

 ここで理解しておくべきことは「最近日本に入って来た危険な外来種」というのが虚偽である、ということだけでいいでごわす。




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 では次!


 「毒を持っているため危険」ですね!


 ナガミヒナゲシの毒性を警告するものとして、最近で1番人の目に触れたのは、『鎌倉殿の13人』にツッコミを入れていたウラケン・ボルボックスさんによる自著を引用した『ナガミヒナゲシは危険な植物』ツイートなどが挙げられますね。


 この手の本は分かりやすく、身近に潜む危険を周知させるために一役買っている……ものの、それらの脅威を誇張しがちであり、誤解を招きやすいという部分を留意しておかなければなりません。


 本の内容が特筆して間違ってなくても、ですね。表紙に『危険な毒を持つ生物が』と書いてあり、その本にナガミヒナゲシが掲載されていれば、本の中で『こういう猛毒を持ち』みたいな記載がなかったとしても、ナガミヒナゲシが危険な植物としてのイメージを持たれたりするでしょう?


 ウラケン・ボルボックスさんの本に限りませんが、この手の本が拡散した誤解は、度々数年後に様々な形で指摘が入るものです。慣例ですわね。


(誇張してるだけなら善良な方の本で、インパクト優先で普通に嘘を書いた本を出す人も居ますからね。取り締まる法もありませんから)


 イマジナリー藤井義晴先生!

 そうですね!


(では、ナガミヒナゲシの実際の毒性ってどのくらいなんでしょうかね)


 もうひとりのボク!

 ナガミヒナゲシの毒はどのくらいなのか?

 東京農工大学大学院農学研究院の吉川正人准教授は、2024年4月にこうおっしゃられています。


「(草の汁に触ると)皮膚の弱い人なんかは、かぶれる可能性はあります」


 ……うーむ。

 まあなんかちょくちょく居る雑草レベルの毒性ですね。普通。

 皮膚が弱くない人はそれだけでノーダメージになっちゃうやつ。


 毒性に対する評価は人それぞれ、だとは思いますが……少なくとも身近に潜む危険な植物を紹介する本や、危険な毒を持っている植物を紹介する書籍で紹介されるもののようには思えませんし、毒性を強調して危険だ危険だとTVニュースで騒がれるもののようにも思えません。


 例示ですが、「雑草取る時には軍手しようね」と言われるのは、ナガミヒナゲシくらいの毒性のやつはちょくちょく居るからですね。

 汁に触れた時、肌の弱い人はかぶれがちなので、夏に暑くても軍手は脱いではいけないのです。


 余談ですが、藤井義晴先生へのメール問い合わせ返信によると、ナガミヒナゲシ自体はその成分ゆえ食用に向かないもの、中東地方ではナガミヒナゲシの種子を食用にした記録があるそうです。

 何でも食うのぅ、日本人。


 まとめると、「毒を持っているため危険」という評判に対しては、『雑草によくあるラインの毒性』という結論になります。


(Wikipediaのナガミヒナゲシのページの毒性関連記載についても補足しておいてください)


 イマジナリー藤井義晴先生!

 わかりました!


 ナガミヒナゲシのWikipediaページに2010年5月24日、ある情報が書き込まれます。


「ナガミヒナゲシはアルカロイドを含まないのでアヘンの材料となるケシと違い栽培は問題無い」


 出典はありませんでした。

 この記載は2014年5月6日に出典が記載されるまで出典無しのまま放置されていました。

 怖いですね。


 しかも、2014年5月6日に追加された出典には「アヘンの成分はない」「麻薬成分はない」という記載があるのみでした。

 なんと、『ナガミヒナゲシはアルカロイドを含まない』という記載が無いソースが、『ナガミヒナゲシはアルカロイドを含まない』という文章のソースとしてくっつけられてるんです、Wikipedia。

 怖いですね。


 そして、Wikipediaのナガミヒナゲシのページはそのまま放置されています。

 14年ものの熟成された誤情報です。

 怖いですね。


 推定になりますが、Wikipediaのこの辺を参考にして書かれた書籍もあるっぽいんですよね。「ナガミヒナゲシには毒があるらしいけどナガミヒナゲシはアルカロイドを含まないとかWikipediaに書かれてるから、植物の毒の本なのにナガミヒナゲシの毒について解説できねえ!」って叫びが聞こえてきそうなページも見ました。

 怖いですね。


 では、ここで藤井義晴先生へのメール問い合わせの返信から一文を抜き出して見てみましょう。


「毒性がないと書いてある資料もあるようですが、ナガミヒナゲシには、あへんの成分を含んでいないとされていますが、ケシ科特有のアルカロイドが含まれており、」


(に、認識されてる……!)


 そうだぞもうひとりのボク!

 ナガミヒナゲシ研究の第一人者である藤井義晴先生からすれば、「何がどうなってそうなったんだろう」という気分でしょうか。


 っていうか『アヘン成分が含まれていなくてもケシ科特有のアルカロイドが含まれていることはある』という部分を周知しないと一生この手の誤解って出てくるんでしょうね。たぶん。


(そもそもみんなアルカロイドってやつがよく分かってないんじゃないでしょうか)


 なんとなくそんな気はしてるぞ、もうひとりのボク!

 私も実は別に専門じゃないからアルカロイドには詳しくないぞ!

 でもアルカロイドなんかについて詳しく知らなくても普通に楽しく生きられるのが人間社会のいい所だとも思うぞもうひとりのボク!


 知らんことは知らんままでもいい、ってのは社会が含有しておくべき優しさでもあるんですよ。


 とりあえずまとめると、


「凄まじい数の種を生み出し、人間の活動を利用して拡散する。しかし競争力はそこまで強くはないので、日本では環境を制圧するほどではない」


「毒性はいわゆる『軍手で対策した方がいい』ライン。肌が弱い人は気を付けた方がいい、そうでない人にはおそらくノーダメージ」


「庭、ガーデニングをしている土、畑などに跋扈するとリスクが発生する。他の雑草同様、種や根に注意して除草しましょう」


「ミント同様対策をしなければならないほど危険ではないが、ミントほどには有用な利用法が研究・発見されておらず、使い途はさほどない」


 こんな感じでしょうか。




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 では最後です。「アレロパシーで周囲の植物を駆逐するため生態系を脅かす」という所ですね。


 ではアレロパシーのおさらいです。植物が全体に何かしらの作用を持つ物質、たとえば毒をぶちまける毒の全体宝具……じゃなかった、全体攻撃みたいな作用を起こすものです。


 アレロパシーは植物を腐らせる菌を殺したり、植物を食う虫を遠ざけたりと、様々な防御手段としても使われますが、他の植物をその環境からどけて、自種がそこに広がっていく目的でも使われます。


 たとえば、根が伸びるのを妨害する。

 たとえば、芽が出るのを妨害する。

 たとえば、DNA複製を妨害する。

 そうやってその土地の競合対象である他の植物を攻撃するのです。


 では、ナガミヒナゲシのアレロパシーの強さは、どのくらいのものなのか?


(あんま強くはないんですよね)


 そうなんですよね、もうひとりのボク。


 ナガミヒナゲシはアレロパシーが強い……みたいな検索結果はいくらでも出て来るんですが、誤情報です。


 では、恒例になった藤井義晴先生の対ナガミヒナゲシアレロパシーコメントを見てみましょう。


「周辺の植物をアレロパシーでばたばた枯らすように思われているようですが、それほど強い現象ではなく、生育を少し阻害する程度と考えています」


 はい。


「たしかに、ナガミヒナゲシや、他のアレロパシーが強い植物で、周囲に他の植物が少ない現象が見られますが、それは、ほとんどが光の競合によるもので、アレロパシーの寄与はその一部と考えています」


 だそうです。


 先程、ちょこーっと書きましたが、専門家が植物の危険度を評価する項目にこういうものがありましたよね?


・他の植物を覆って枯らす特性があるか


 これですこれこれ。

 道を歩いていて、ツタが壁を這っているのを見たことはありませんか?

 ツタと葉が巨木を覆っているのを見たことはありませんか?

 地面の小さな雑草を影で覆う背の高い植物、葉の大きな植物、上に伸びてから横に広がる植物を見たことはありませんか?


 植物の生育には太陽光が必要なことが多いです。では、それを遮られたら、植物は枯れてしまう……そういうこともあるでしょう。

 つまり、他の植物が得ようとしていた日光を自分だけが独り占めできれば、それだけで他の植物への間接的な攻撃になるわけです。


 ナガミヒナゲシは土地の栄養状態によって15cmから60cmまで伸び、同種でその場の太陽光を独占し、背の低い植物から光合成のチャンスを奪います。


 これが他の草の生育を邪魔し、それが強いアレロパシーを持つ可能性として誤認されていた……ということらしいですね。


 では、ナガミヒナゲシのアレロパシーと、被覆効果の合わせ技による、他植物への影響はトータルでどのくらいになるのか?

 藤井義晴先生の見解から引用してみます。


「ナガミヒナゲシが在来種に及ぼす影響については、今後研究しないわかりませんが、個人的にはそれほど影響がないのではないかと考えています」


 ……。

 はい。

 まあ、そういうオチですね。

 他種との競争力が相対的に低く、在来種の脅威にならない。これがナガミヒナゲシが法で指定される外来種にならない理由です。


(ぶっちゃけ藤井義晴先生のこの文章が拡散されて周知されるだけで全て解決するんですけどね)


 身も蓋もないことを言うなもうひとりのボク!

 まあそうなんですけどね。

 ナガミヒナゲシ研究の第一人者が在来種への影響は無いんじゃないかって言ってるんですから、これが知られるだけでどうとでもなるんです。

 でも、現実は今もナガミヒナゲシの危険性を喧伝する人はSNSなどで絶えず見られます。


 『なぜそんなことに?』。


 この疑問に答えることは容易です。

 本当に余談の話にしかなりませんが。

 と、いうわけで。


 時系列順に、何故こうなったかを軽くまとめていこうと思います。


 藤井義晴先生がナガミヒナゲシを危険であると判断した時から、藤井義晴先生がナガミヒナゲシの危険性認識を払拭しようとしている現在に至るまでの、簡潔なお話です。




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 先に書いた通り、ナガミヒナゲシは映画『モスラ』で大人気怪獣モスラが誕生した1961年に東京で初めて確認され、2000年以降に全国に一気に拡散しました。

 あ、モスラの話は先に書いてないや。

 まあいっか。

 ナガミヒナゲシの流入と拡散の間にそれなりの期間が空いた理由は、地球温暖化による環境の適正化などが挙げられています。


 拡散の情報を受け、2005年に農業環境技術研究所が『リスク評価が必要である』と記載、外来生物生態影響リサーチプロジェクトが動き出しました。

 動いた人達は農業環境技術研究所や東京農大の方達や、地方の研究者の皆様ということらしいです。


 研究担当者は平舘俊太郎先生、加茂綱嗣先生、根本正之先生、そして、藤井義晴先生でした。


 文部科学省『外来植物のリスク評価と蔓延防止策』に基づき動いたこれは、2007年にナガミヒナゲシに対して1つの結論を出しました。


「ナガミヒナゲシの雑草化リスクとアレロパシー活性は、特定外来生物に匹敵するか、むしろこれらを上回るリスクがある」


 というものです。

 結論から言えば、このリスク推定は杞憂でした。ナガミヒナゲシにはそこまでの脅威はなく、特定外来生物とは比ぶべくもないものでした。


 いわゆる、研究が進んだことで実像がハッキリし、初期に想定していたリスクが無いことが判明したというパターンのものですね。


 一度国の主導で侵略的外来種のリストを作ろうとした時にナガミヒナゲシもリスト入り候補で挙げられていたものの、結局リストには入らなかったみたいです。

 現行の環境省のリストにも入っていません。

 検証の結果として、そこまでの脅威があるものではないと判断された……と推測されますが、実際の所はちょっとよく分からない所です。


 ナガミヒナゲシは初期に警戒され、研究が進むにつれてその危険性をほどかれていきました。


 しかし、この時、この研究が出した結論が、十数年に渡って誤解を振りまくことになるのです。




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 2007年の調査を経て、藤井義晴先生らは2008年~2009年に『外来植物のリスク管理と有効利用』『日本列島におけるナガミヒナゲシ(Papaver dubium L.)の生育地の拡大』『種子発芽特性からみたナガミヒナゲシの日本の生育地』などを発表していきます。


 この時期の資料、たとえば2009年の日本緑化工学会誌第35巻第4号を見ると、吉川正人先生がナガミヒナゲシの解説をしていらっしゃるんですよね。

 そう、2024年にナガミヒナゲシの毒性をちょこっと解説してくださっていた東京農工大学大学院農学研究院の吉川正人先生です。


 解説してる人がずっと同じ。

 マイナー研究あるあるですね。


 さて、そうした論文発表などを経て、2010年に共同通信からナガミヒナゲシが『生態系を乱す恐れがある』と報道されます。

 他の報道も時間差で載せていきます。


 この時点ではナガミヒナゲシは最大限に恐れられています。こういう扱いもそうおかしいことではありません。後々この脅威はある程度修正されますが、この時期はまだ修正されてませんからね。


(言うてこの時期は大手がナガミヒナゲシやばいよって報道してても大した影響なかったっぽいけどね。市民の植物外来種への意識も低めだし)


 第三人格のボク!

 そうですね。

 実はナガミヒナゲシの全国的拡散から十年以上、専門家の警告から数年経っても、ナガミヒナゲシ脅威論は盛り上がってなかったんですよね。


(事態が動いたのは2016年やな)


 第四人格のボク!

 そうなんですよねぇ。


 2016年。

 作家の寮美千子さんが、ナガミヒナゲシが危険であるとして、『危険外来植物 ナガミヒナゲシ 駆除のご理解とご協力のお願い』というチラシを作成、これが拡散されました。

 ある意味、全ての原因の1つです。


 作家の方です。

 専門家の方ではないです。

 ただし、チラシの内容自体は2007年時の上述調査を元にしているものであり、完全に0から錬成された誤情報ではないというのは注意が必要です。


 あ、この『危険外来植物』というのはこのナガミヒナゲシ誤情報拡散の初期段階で作られた「ナガミヒナゲシは特定外来生物より危険な植物である」とするための造語みたいなので、他で使える言葉ではないです。


 これがどのくらいの影響があったか、というと……専門で研究していない大学が拡散、大手報道が連続で特集、全国自治体が「ナガミヒナゲシは危険なため駆除してください」と呼びかける事態にまでなりました。現在も継続中です。


 ご丁寧に「特定外来生物などの指定はされていませんが、(このチラシによると)特定外来生物と同様に生態系に大きな影響を与える植物である」という理屈で、です。


 「日本に入って来てから60年、全国に拡散されて放置されたまま10年経ってるんだから別にどうともならないんじゃない?」という指摘はありません。元のチラシには「近年急速に広がっています」としか書いてないからです。


 つまり。


 『専門家でもなんでもない』作家が作った一枚のチラシを、大手報道から全国の自治体までもが盲信し、あるいは「危険な植物だということにして語る方が面白いから」という理由で、誤情報の拡散には熱が入り、誤情報の訂正には力が入らないまま、どんどんと修正不可能な情報になっていく。


 これがネットで語られる危険な植物・ナガミヒナゲシの正体です。




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 2016年にチラシの拡散が始まってほどなくしてデマであるという指摘が入りましたが、寮美千子さんは受け入れずチラシの拡散を1年ほど継続し(ついでに指摘者にファンネルを飛ばして人格攻撃)、そのためチラシの情報は『真実』としてどんどん拡散されていきました。


 寮美千子さんがFacebook・Twitterでこのチラシの拡散をやめたのは2017年5月11日(ただしチラシの内容が誤情報であると認め周知させようとはしていない)ですが、そのきっかけは2017年5月10日に慶應義塾大学准教授の有川智己先生に指摘されたからだと考えられます。


(その道のプロに指摘されたら流石にね)


 もうひとりのボク!

 ええまあそうなんですよね。

 専門家の権威、本当に大事。


 では有川智己先生がこのナガミヒナゲシのチラシになされた指摘をそのまま抜粋します。



「このチラシは「デマ」と言って良い」


「「危険外来生物」という用語やカテゴリーがあるかのような書き方だし,「特定外来種よりも「危険」な植物なんだ!」というような「誤解」を巻き起こしている」


「まず前提として,ナガミヒナゲシは園芸種であるポピーの一種.現時点では特定外来種にも要注意外来種にも指定されていない」


「在来生態系に対する影響が調べられ,被害を与えている事例が蓄積されれば,今後本種が要注意外来種や特定外来種に指定されるかもしれないが,現時点で,本種が在来生態系にとって「危険」で「在来植物を圧迫駆除し,生態系を破壊」しているという明確な証拠はないと思う」


「本種が生えるようなところはもともと乾燥した路傍や荒れ地,コンクリートの隙間など在来種がいないところが多いので,はびこる見た目のインパクトに比べて在来生態系への「悪さ」はたいしてしてないのでは,という見方もある」


「アレチウリなどと違って実際に「危険」なわけでもない」


「注意喚起し拡散防止に配慮することは悪いことではないが,このチラシは,誤解を与え,言い過ぎだ.これを煽るくらいならアレチウリやオオキンケイギクなどの既に特定外来植物に指定されているものの駆除を訴え進めるべきだと思う」


「そもそも,誰がお願いしているのか(発言に責任を取るのは誰なのか),情報のソースはどこなのかも書いていないものを,安易に広めるべきではないだろう」


「もとは,奈良県の作家さんの個人的な思い入れでつくられたもののようで,その人のFacebookなどによれば,ナガミヒナゲシを育てている個人宅に押しかけ,その家の人に栽培をやめて駆除するように迫り,反発され揉めたりもしているらしい.特定外来種でもないのに明らかにやり過ぎだろう」


「埼玉県飯能市や新座市はオオキンケイギクへの注意喚起にあわせて注意喚起や駆除の呼びかけもしているようだ.外来種問題はとても複雑だが,何のために駆除するのか,その意義や根拠は何なのか,情報収集や様々なことに対する考慮や合意形成を重ねて,地域ごとに実情にあわせて対処するしかないだろう」


「また,この一件,研究成果のアウトリーチを考える上でも結構大事なケースなのではないか.博物館などはもちろん,研究機関自体が一般の人に向けて研究成果を分かりやすくアピールすることは近年とても大事だとされていて,盛んだ.今回の件は,農環研の一般向けの研究成果の紹介が,強調され増幅されすぎてこんな状況になっている」


「論文でもニュースリリースでも,新規性や重要性,意義をアピールするのは当然で,リテラシーがあり周辺知識があって批判的に受けとめることができる同業者にはそれでなんの問題もないのだが,強調した成果が一人歩きして,SNSなどで断片的に広がってしまう事態も考えないといけないだろう」


「一般向けのニュースレターやwebのコラムなどはもっと抑制的でいいのではないか」



 おお。

 おお……凄い。

 辛辣。

 一歩間違えれば、私が書いてるこのコラムもこの指摘の射程に入りそうな真っ当さ。

 でもまあたぶん、専門家の方々の感想ってこんなもんなんですよね、おそらくは。


 誤情報の修正には専門家がビシッと言ってやるのが1番、肝に銘じておきたいところです。


(全然止まらなかったんですけどね)


 身も蓋もないことを言うでないよもうひとりのボク!

 いやぁ。

 なんでなんでしょうねぇ。

 本当に止まらなかったんですよね。

 ナガミヒナゲシ脅威論。


 SNSでの拡散。

 チラシの情報を盲信した各自治体の注意勧告。

 市議会議員などによる駆除呼びかけ。

 NHK、TBSなどの特集。


 マスコミの特集では傾向が顕著であり、2017年5月12日のニュースでは専門家を呼んだにもかかわらず、専門家のコメントをカットし、「ナガミヒナゲシは危険」という結論ありきの偏った編集が行われていたという指摘がされています。

 ちなみにこの時のニュースでお呼ばれしていた専門家は藤井義晴先生です。


(せ、先生……)


 あれっ。これ2024年にもちょっと似たの見ましたね?


 専門家は今後覆るかもしれない植物の危険度に対して、あまりハッキリとしたことは言い切れません。なので後手に回りがちです。せいぜいが「現在の見解としては在来種を脅かす危険はないと考えています」くらい。


 なんせ、ナガミヒナゲシは一回研究で危険度評価が引っくり返ってるわけですし。またひっくり返らないとも言い切れませんしね。


 対し、専門家ではない層は割と気軽に危険度を言い切れます。

 まあ、間違ってたとしても失うものはないですし、何の責任も取らなくて良いわけですしね。

 捏造すればPVも視聴率も稼ぎ放題ですよ!

 本当は良くはないんですけどね、こういうのは。


 2010年前後に専門家によって危険な植物とされたナガミヒナゲシは、2016年以降は専門家がむしろ危険な植物であるという誤情報を訂正して回ることになり、されど専門家の情報発信はマスコミなどに頼るしかなく、そしてマスコミらは『危険な植物である』という報道を好むものの、『実は危険じゃなかった』という報道を好まないため、マスコミというフィルターによって、専門家は思うように一般の認識をコントロールできておりません。


 全てがそう、というわけではありません。

 ただ、そういう傾向はあるという感じです。


 この傾向に沿わなかったものとしては、たとえば朝日新聞デジタル企画報道部の武田啓亮さんは、藤井義晴先生から聞いた話を丸々記事にしてくださったりしています。


 記事タイトルも『道端のオレンジの花、危険なの?専門家「怖がりすぎず」駆除の注意点』と、ナガミヒナゲシの記事にありがちな危機感を煽りすぎているものではなく、先生の意図をしっかり汲んでくださっています。


 では、この記事から記者と藤井義晴先生のやり取りを一部抜粋します。



「藤井さんはナガミヒナゲシについて、一定程度の注意をうながす一方で、いたずらに怖がる必要はないと話します。」


「ナガミヒナゲシは他の植物の成長を妨げる物質を出しますが、この物質からどれくらい影響を受けるかは、植物の種類によっても異なります。例えば、キク科の植物は影響を受けやすい一方で、イネ科の植物は影響を受けにくいのです」


「10年ほど前、藤井さんが当時勤務していた農研機構でナガミヒナゲシについて情報発信をした際、自身が想定していたよりも大きな反響があったと振り返ります。」


「『ナガミヒナゲシは見つけ次第駆除しなければいけない』と受け取った方もいたようです。ご近所の庭に栽培されているナガミヒナゲシまで引き抜こうとしてトラブルになった事例もあったようで、これは伝え方が良くなかったかもしれないと思っています」



 ナガミヒナゲシの第一人者は藤井義晴先生です。第一人者として危険性の可能性を発信し、それが大袈裟に受け取られ、過剰に危険性を煽る情報が拡散され、訂正しようとしても訂正されない、どう情報を発信してもずっとその繰り返し。


 嫌になるのが普通だと思います。


 でも私がこうしてナガミヒナゲシについて実態的な知識を得ることができたのも、ナガミヒナゲシについて正しい情報を発信し続けてくださっている先生方のおかげなわけなのです。


 学者の皆様が貫いている、学術の徒ゆえの誠実さは、誤情報の訂正が周知されていないためにまだまだ全然報われていませんが、私はその誠実さに心から感謝しているのです。




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 ここらでちょっと、「どういう理屈と手法でナガミヒナゲシは危険な植物であるとして煽られたのか」という部分についてまとめ、考え方を整理しておきましょうか。


(いいですね)


 手法は2つ。

 『ナガミヒナゲシの危険を捏造する』。

 つまり、「実際に危険だから」の論。

 『対応している自治体や議員を挙げる』。

 つまり、「公的な組織や偉い人やが危険だと言ってるから」の論。

 この2つになりますね。


 危険の捏造は、ここまでで語ってきた通りです。無い性質を有るとし、あるいは有る性質を過剰に大袈裟に語り、「だからナガミヒナゲシは駆除しないといけないんです」と語るものですね。

 嘘をついてる人、嘘はついてないけど真実でないことを語ってる人、真実を語ってるつもりで伝聞の嘘をそのまま語ってる人などがいます。


 もう一つの、対応している自治体や議員を挙げる方は……まあここまでの話でちょいちょい言っていたように、寮美千子さんのチラシを真に受けた社会的地位のある人達を指して、「あの人達も危険だって言ってるぜ!」の方法論ですね。


 本当はチラシだけ見て真に受けた人達だけでもなく、チラシを見て下調べして、例の藤井義晴先生らの2007年調査を確認したり、Wikipediaを見たりして、「これは確かな情報だ」と判断した人達も多く居るとは思うんですけどもね。

 まさかそれが罠だとは思わず、そのまま……というパターンに陥ってしまうわけなんです。


 前に検索した時は、私の祖父(故人)の知り合いの市議会議員さんも自分のブログでナガミヒナゲシの危険性を煽るチラシを拡散してました。

 うわぁ界隈が近い!


 で、ナガミヒナゲシ関連の話で重要なのが、この「Wikipediaに確認しに行く人」という層です。


 ちょっとWikipediaから一文を引用してみましょうか。


「2016年以降、埼玉県・千葉県・神奈川県・京都府・東京都・栃木県・茨城県・新潟県・群馬県・大分県・愛知県などに位置する複数の自治体では住民に対し、「特定外来生物や生態系被害防止外来種(要注意外来生物)には指定されていないものの、これらと同様に生態系に大きな影響を与える外来植物」としてナガミヒナゲシの危険性を周知するとともに、駆除の協力を呼びかけるに至っている」


(おい!)

(おい!)

(おい!)


 おい!

 私の人格の全てが吠える。

 まさかこの文章で真実を知るために1番重要な手がかりが、『2016年以降』という部分だなんて、誰が気付けるんでしょうね。

 罠ですよ罠。


 寮美千子さんのチラシの拡散開始が2016年5月。

 やんなりますねえ。


 ここで挙げられている自治体が、いつからナガミヒナゲシの危険性を訴え、駆除の協力を呼びかけるようになったのか?


 藤井義晴先生らの研究・提言・報道掲載がきっかけなら、2007年~2011年のはず。逆にこのチラシや、このチラシに乗っかったSNSの声、チラシをソースにした報道が理由なら、2016年以降になるはずです。Wikipediaに自治体ページがリンクされてる分だけでも確認してみましょうか。


埼玉 2017年から

千葉 2017年から

神奈川 2017年から

京都 2017年から

東京 2018年から

栃木 2018年から

茨城 2018年から

新潟 2019年から

群馬 2019年から

大分 2022年から

愛知 2023年から


 もうダメだ。


(ダメそうですね)


 もうひとりのボクぅ!

 解散でーす。

 解散解散!

 こんなバカらしい話に何十の自治体が乗っかってるんですか? 揃って2016年以降から? って言いたくもなりますよね。

 言っても意味はないんですが。


 まあなんというか、自治体の仕事は真実の追求ではないんですよね。

 だから「危険かも」くらいの話で駆除の協力をお願いするんです。

 彼らは正確である義務がありませんから。


 それぞれの自治体は割と軽い気持ちで危険な植物の警告を出すんですが、SNS軸で全国に拡散された『危険な植物』の情報は、水平的に広がって各自治体に並行して伝わります。

 そして、それぞれの自治体が「この植物は危険です」と言い出します。


 結果、『全国の何十という自治体が駆除を呼びかけている非常に危険な植物』という集団幻想が発生するわけなんですね。


 以後は「全国の何十という自治体が駆除を呼びかけている非常に危険な植物なので駆除してください」と呼びかけることも可能になります。

 循環参照?

 大SNS時代の植物誤情報拡散システム、あまりにも怖すぎます。

 いや、だって、怖くないですか?


(結果論ですけども、多くの報道機関・数え切れないほどの自治体・沢山の人が一人の作ったデマチラシによって踊り、しかもというのが恐ろしいところですね。専門家が否定しているのに、否定されたその内容をその後何年にも渡って多くの自治体が真実として扱っているという……)


 そうなんですよもうひとりのボク。


 ネットの匿名の人間が語る言葉としてはあまりにも強すぎると思いますが、ナガミヒナゲシの専門研究者ではない無責任な人間として、あえて強い言葉を使います。


 ナガミヒナゲシについて、全国の自治体が語る内容はほとんどが間違っています。

 自治体は正しくありません。

 危険だと語る自治体やマスコミの大きな声ではなく、専門家の声を正しい形で受け止めてください。

 たとえ、ニュースの中で発言した専門家の言葉がカットされていても、どうか真実を皆様が見つけられることを願います。


 無論、自治体が語るナガミヒナゲシの特性が全て嘘というわけではありません。

 種の多さなどは本当ですからね。

 地域によっては、場所によっては、ナガミヒナゲシの跋扈が害を成すこともあると思います。


 けれども、ナガミヒナゲシが他の雑草より相対的に危険か? という話はノーです。

 特別な扱いで皆で駆除しないといけないかというとノーです。

 生態系を破壊するとかいう話はノー、ノー、ノーです。その可能性は今のとこほぼないです。


 藤井義晴先生らのような専門家の皆様が尽力しても倒せなかったこの『集団幻想のナガミヒナゲシ』は、今この文を読んでいる画面の向こうのあなたのような、『沢山の普通の人達』の協力がなければ倒すことはできないのです。


(まあ特になんかしろって話ではないんですけどね。ゆっくりしててください)


 そうなんだよもうひとりのボク!

 特に皆さんに何か行動を起こせと言うわけではないのです。

 この話を知り合いに教えてあげるくらいでいいのです。

 ナガミヒナゲシがヤバいって騒いでる人に教えてあげるくらいでいいのです。

 できるだけ優しく、です。


 そうすればいつか、ナガミヒナゲシの話は教えてあげると「へぇ」となる豆知識となり、やがてはネット住民の誰もが知っている『ネットの常識』になっていきます。

 そうなればきっと、ただそれだけで、この問題は解決に向かうと思います。


 十数年も前に自分が述べた研究結果がずっと誤情報として残り、その修正のために動き続けている藤井義晴の尽力も、報われると思います。


 ミントもそうなればいいなー、とは思ってるんですけどね、私は。


(ミントは『普通に栽培し利用してる人達』と、『ミントテロだと騒ぐ人達』が層として完全に分離してる上、ナガミヒナゲシのような駆除呼びかけも無いので、似た問題のようで違う問題なんですよね。『ミント言うほど強くないよ』がネットの常識になったら、そっちもまた色々変わってきそうだとは思いますけども……)


 私の脳内イマジナリーカーネル・サンダースさん! カーネル・サンダースさんって日本語しゃべるのか? どうなんでしょう。




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 と、いうわけで。


 有川智己先生のコメントなどを見ていて気付いた方もいらっしゃると思いますが、こういう部分から『ナガミヒナゲシの誤情報を元にした実害』が発生します。


 先にミントの例で挙げた実害は『相対的に危険でないはずの植物が危険な植物だと喧伝され、本来利用できる植物が利用できなくなる』でした。


 そして、ミントとナガミヒナゲシに共通して発生する実害とは……『クソリプ』です!

 いやちゃうんです。

 いや違わないんですけども。

 正確に言えば、『行動の強制』と表現するのが正しくなるんでしょうかね、これは。


 見たことがある人とない人が分かれると思いますが、ナガミヒナゲシを見て「綺麗な花~」とツイートした人に対して、「FF外から失礼します。その植物は危険なので抜いてください。処理の方法は……」という感じのリプを付ける人というのは割といます。


 ナガミヒナゲシを見逃してる人に対して「無自覚な加害者」といったレッテルを貼っていく人もいます。いやお前じゃい。お前だよ無自覚な加害者は!


 実はミントでもちょくちょくあります。こういうの。まあ脅威論が行き過ぎた結果、そういう「ヤバい草だから抜いて」的なクソリプに対して横から「ミントは最強だから抜いても意味ないよ」みたいなクソリプが飛んできて連鎖することもあるんですけどね。

 最悪のぷよぷよ?


 有川智己先生の寮美千子さんへの言及も、ここでもう一度引用します。


「もとは,奈良県の作家さんの個人的な思い入れでつくられたもののようで,その人のFacebookなどによれば,ナガミヒナゲシを育てている個人宅に押しかけ,その家の人に栽培をやめて駆除するように迫り,反発され揉めたりもしているらしい.特定外来種でもないのに明らかにやり過ぎだろう」


 ミントは危険。

 ナガミヒナゲシは危険。

 そういうタイプの誤情報がネットでどんどん加熱化していくと、どうなるか。


 まず『駆除が正しい』という『正当性』が人に与えられてしまいます。

 誤情報を基にした正当性です。


 やがて、それが「この植物は危険だからあなたも私と同じ対応をしなさい」になります。

 反発する声に対して複数人の人が例のチラシを見せる形で同調圧力をかけることも起きます。

 ナガミヒナゲシを眺めて楽しんでいる人に対して「楽しむな抜け」と言う人は少なくないです。


 これはミントを栽培しているツイートをした人に「ミントはヤバすぎるからやめな」とクソリプしにいく人にも見られる傾向です。


 誤情報を基にした正当性による、他者への強制。

 これは明確な問題と言えます。

 必要の無い強制ですしね。


(『本当に美味しい○○食べたことないなんて人生半分損してるよ!』の100倍有害化版みたいなもんやろか。善意の『こうした方がいい』の押し付け。嫌いな人は一生嫌いなやつやろな)


 第四人格のボク!

 んまぁ私は別にこの手の物言いをされても不快に思うわけではないんですけども。

 この手の物言いが不快っていう人は今の時点でもまあまあ居るらしいですね。


 ではまた藤井義晴先生のメール返信内容から抜粋します。



「ナガミヒナゲシは、現在のところ、環境省が外来生物法で定めている、駆除対象となる「特定外来生物」にも、また、旧要注意外来生物(いまは、生態系被害防止外来種リスト)にも指定されていませんので、個人で栽培するのは自由です。」


「ただ、繁殖力が強いため、意図しない場所で繁茂している場合、これを「雑草」とお考えの場合には、駆除されるのがよいと思います。」


「ご家庭のお庭で、花が美しいからと栽培されていても、その強い繁殖力で周辺に広がり雑草化するので、目的とする場所以外で生育している場合は駆除されるのがよいと思います。」


「ただ、これをお花として楽しもうと栽培している方に、これを強制的に取り除きなさいと強制するのは行き過ぎだと思います。」



 とのこと。

 流石藤井義晴先生。

 ナガミヒナゲシに対する意識の持ち方って、本当はこのくらいでいいんですよね。

 駆除してくださいと呼びかけるものかというと、結構微妙な危険度の植物。

 警戒しすぎず、緩みすぎず、ちょうどいいバランスで向き合っていく。


 たぶん、知識って一側面的にはそういうスタンスの調整のために使ったりするものなんですよね。


 危険な外来植物の話をしてる所に横から入って来て「でも最強植物ミントには敵わないでしょ!」みたいな話をするような大人にならないために。


 恐れるべきものを恐れ、恐れなくていいものを恐れないためにも、知識というものは使えるんだと思います。


 そしてそれは知識であるために、人から人に簡単に伝えていくことができるのです。




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 『塩を撒いた土はずっと不毛な地になるとか言われてるけど現代なら大量に塩を撒いても除塩作業すれば二ヶ月くらいで基準値を下回るくらいまで塩抜けるよ』みたいな、実情に即した認知の更新は世に多々あります。


 そして、「今だとこうだよ」という認知の更新が間違っていて、結局認知が巻き戻ることもあります。世の中は面倒臭いのです。


 ただし、面倒臭いからといって、何の情報更新もしないまま生きていると、いつかその人はどこかで無自覚の加害者になってしまう可能性があります。それはとても恐ろしいことです。


 いつか加害者にならないための情報更新。

 それは自衛の一種と言えるでしょう。

 このコラムが、読んだ人の自衛に何かお役に立てたら良いなと思います。


 あといいかげん藤井義晴先生の過去の後悔を終わらせてあげてくださぁい!


 かしこ。











【参考資料】(今回のコラムを書くにあたって専門性が高すぎるものは避け、統一感を出しつつ一般ネットユーザーでも確認しやすいものをセレクトしました)


■香辛料植物のアレロパシー 寒天培地を用いた作用経路別の活性評価

●著者:宮浦理恵、市村匡史、藤井義晴(東京農大・農環研協同)

●ミントのアレロパシーの相対位置決定のために参照


■緑化植物の病害防除活性の評価

●著者:稲垣栄洋、山口亮、加藤公彦、影山智津子、伊代住浩幸

●静岡県農業試験場・静岡県林業技術センター・静岡県柑橘試験場

●ミントのアレロパシーの相対的位置決定のために参照


■被覆植物を用いた雑草抑制の評価とヤブラン(Liriope muscari(Decne.)L. H. Bailey)が生産する植物生育阻害物質アゼチジン-2-カルボン酸の評価

●発行:『雑草研究』(日本雑草防除研究会)64巻4号

●著者:前田浩子、奥村恒、中村りり、野村卓史、藤井義晴

●アレロパシーが強い植物の中でのミントの相対位置決定のために


■植物の不思議な力で環境保全 アレロパシーを利用したこれからの農業

●著者:藤井義晴

●プラントボックス法・サンドボックス法でアレロパシーを測定した一覧があるため、アレロパシー情報の補助程度に


■生物の多様性を維持する果樹・茶の管理技術

●発行:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所

●アップルミントの利用から引用


■グラウンドカバープランツ管理の手引き

●発行:北海道日本型直接支払推進委員会(協力:地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 花・野菜技術センター)

●アップルミントなど記載引用


https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result26/result26_38.html

■の魚業環境技術研究所 研究成果平成21年度第26集 主要成果『ナガミヒナゲシはアレロパシー活性が強く、雑草化リスクが大きいので、広がらないようにする必要があります』

●ナガミヒナゲシの始まり


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%83%9F%E3%83%92%E3%83%8A%E3%82%B2%E3%82%B7

■ナガミヒナゲシWikipedia


https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1023326551083016

■ナガミヒナゲシ誤情報チラシ


https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=831257117022464&id=100004145498743

■ナガミヒナゲシのチラシに対する有川智己先生の反応


https://togetter.com/li/977149

■【危険外来植物ナガミヒナゲシのちらし】可憐な花だけど駆除して! 生態系を壊しているナガミヒナゲシ

●ナガミヒナゲシ駆除呼びかけの始まり


https://togetter.com/li/1107583

■危険外来植物とされるナガミヒナゲシの繁殖について。

●コメント欄で議論・検証


https://togetter.com/li/1109916

■「ナガミヒナゲシは危険外来種」という、一部の人が飛ばしているデマについて

●ネット検証の決算。togetter見るだけならここだけでもいいかも


https://togetter.com/li/1927605

■【鎌倉殿】ちょっと待てー!「阿野全成を偲ぶ…」みたいなノリで出てきたこの花、実は最近広まったやばいやつです!

●鎌倉殿の13人の時の話題。ナガミヒナゲシ脅威論が再燃


https://withnews.jp/article/f0240512000qq000000000000000W0ih10201qq000026898A

■道端のオレンジの花、危険なの?専門家「怖がりすぎず」駆除の注意点

●記者:武田啓亮、朽木誠一郎

●取材対象:藤井義晴


https://danyome.salty.style/nagami-hinageshi/

■ナガミヒナゲシは毒性がある?危険外来種?第一人者に聞いてみた

●筆者:塩畑貴志

●藤井義晴先生のメール対応あり



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なぜ『あの植物はヤバい!という嘘』は解かれないのか 作られた危険な野草・ミントとナガミヒナゲシ オドマン★コマ / ルシエド @Brekyirihunuade

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