第15話 識宮玲としての自分
「識宮先輩、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたの?」
「ここなんですけど...このデータであってますかね?なんかずれている気がするんですよね」
「どれ...。うん...そうね、これ...参照するデータがおかしいじゃないかしら?多分、このファイルはこっちに...あっ、これね」
「あっ、ありがとうございます...//」と、私が近づきすぎたせいか顔を赤くする後輩の宮下くん。
まったく...もう28なんだけどな。
それに結婚しているっていう体にしているし...。
「それじゃあ、また困ったら何でも声をかけてね?」
「...はい!」
「いいお返事ね」
そうして、いつも通り定時になると家に直行する。
家に帰ると...すぐに寝間着に着替えて、化粧を落とす。
そして、軽くシャワーを浴びて、冷蔵庫に大量に入ったビールを一本手に取り、足を伸ばして器用に電源ボタンを押した後に番組表を開き面白そうな番組にチャンネルを変える。
そして、ソファに深く腰掛けながら、プシュと缶を開けて、コップに移し替える。
うん、やっぱこれよー。と、グビッと一気にのどにぶち込む。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079673582184
「ふひーーーー!!!!最高!!!!」と、まるでおっさんのような自分で少しだけ苦笑いが出る。
会社での偽りの自分と対照的過ぎてね...。
まぁ、会社恋愛とかは面倒くさいからあれだけど...そろそろ出会いほしいなー。
けど、そもそも出会いとかないしなー。
そんなことを考えていると不意に添田君のことが頭に浮かぶ。
...ってなんでここで添田君のことを思い出すのよ...。
「...いつまで引きずってんのよ」
私は高校時代、添田君のことが好きだった。
けど、表向きには無理に明るく自分を偽っていたが、実際には奥手で素直じゃなかった私は全然アピールすることができなかった。
なんとなく添田君も意識していた気がしたけど、それでも何もできなかった。
だから...初めて添田君が家に来て、8歳の純粋でまっすぐな風夏が何の躊躇いもなく添田君の膝の上に乗った時、私はとてつもなく嫉妬した。
純粋に好きだとアピールできる妹に、それを許している添田君の笑顔に...。
妹としてではなく一人の女の子として嫉妬した。
それからは恋をすることもなくただ無駄に時間が過ぎて行って...添田君のことも忘れかけていたのに、妹に添田君と会わせてと言われて..10年間思い続けて行動に移せる妹が...羨ましかった。
そんな妹に嫉妬している自分が、適当に妹が心配だからという名目を立てしか添田君の前に建てない自分が、どうしようもなく情けなくて...どうしてもそんな自分が好きになれなかった。
はぁ...本当ばかみたい。
きっと、このまま添田君と風夏はいつか結婚して...そんな姿を見て...思ってもいない言葉を並べて...おめでとうなんていうのだろうか。
本当に...私の人生はこれでいいのだろうか。
妹に...負けっぱなしの人生で。
「一度くらい...本気で恋してもいいんじゃないか?」なんて呟いてみたり。
けど、そんな勇気はない。
だって、私は臆病だから。
親が求める子供としての私、クラスメイトや会社の人が憧れる識宮玲、妹にとってあこがれの姉としての自分、何もかもが繕った作られた自分。
本当の自分を見せるのが怖い、拒否されるのが怖い、怖い、怖い。
...けど。
そうして、私は1日1本と決めているビールを6本開ける。
そして、酔っていると言い聞かせて添田君に電話をしてみるのだった。
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