第11話 お味噌汁とおっぱい、どっちが美味しい?

「おはよ、千くん」と、目の前にはエプロン姿の識宮さんが立っていた。


「...何してるの?識宮さん」


「何って?朝ごはん作ってるんだけど。食べないの?」


「いや、た、食べます...食べます」


 そのままご飯を食べる。

美味しい...すごく美味しい...。


「どう?美味しい?」


「う、うん...美味しいよ」


「私のおっぱいとどっち美味しい?」


「ごほっ!ごほっ!!」と、思わぬ質問に食べ物を詰まらせてしまう俺。


「ちょっと、大丈夫!?はい、お水!」と、水を渡される。


 ゴクゴクと水を飲み込んで何とか呼吸を整える。


「そんなに動揺することないじゃんw昨日、あんなにちゅーちゅー私のおっぱいを吸うから美味しいのかなーって思っただけなのに」と、少し呆れたように笑う。


「...ご、ごめん」


「なんで謝るの?それより、どうする?名前」


「名前?」


「だから、子供の名前」


「へ?子供?」


「何とぼけてるの?来月には生まれるんだよ?」


 え?と思って識宮さんを見るとお腹がぽっこり大きくなっていた。


 その瞬間にようやく気づく。

これはどう考えても夢だ...と。


 今までも何度か夢に識宮さんが出てきたことはあった。

しかし、何も昔の姿だった。


 そして最近の識宮さんを見たせいで、夢の中の識宮さんもバージョンアップしていたのだ。


 そもそも、子供までいるのに今だに識宮さん呼びというのも何だか情けない。

俺は彼女を名前で呼ぶことを夢でから想像できないのか。


 そう思った次の瞬間のことだった。


「ねぇ、そういえば先月の終わりどこに行ってたの?」


 それを言われた瞬間、ありもしない浮気の映像が流れ始める。

相手の顔は見えなかった。


「え?いや、な、何も」と言った瞬間、バン!と包丁をまな板に突き刺す識宮さん。


 お、落ち着け。これは夢だ。幻だ。


 そう思っているが、いつの間にか識宮さんの手には包丁が握られており、そのまま馬乗りにされる。


 え?やばい。本当に夢だよね?夢だよね!?


 そうして、刃物が突き刺さる瞬間、目を覚ますのだった。


「はぁっ!はぅっ...」と、全身から汗が吹き出していた。


 そこでおでこにタオルが置いていたことに気づく。


「...あれ?起きました?」


 そうして、扉を開けて現れたのはエプロン姿の識宮さん?


 ま、正夢!?殺される!?


「こ、殺さないで!?」と、いいながら布団に潜ると「何言ってるんですか?大丈夫ですか?」と、声をかけられる。


「やめてくれ!やめてくれ!」


「あのー、本当に大丈夫ですか?」


 ...ですか?

なんで敬語?


 恐る恐る布団から顔を出すとそこにいたのは、識宮さんではなく...風夏だった。


 そこでようやく正気に戻る。


「...何で家に?」


「連絡がつかないので飛んできました。そした、凄いうなされていたし、体触ったらすっごい熱いし...」


「...そうか」


 あれは悪夢だったということか。

...勘弁してくれよ、マジで。


 そう思いながら時計を見ると時刻は11:15。


 会社への連絡を忘れていた。


「やべっ!電話っ!」というと、「会社の人からの電話なら私が取っておきました。体調不良と伝えておいたので安心ください」


「...まじ?」


 出来るJKであった。


「...てか、学校は?」


「サボったに決まってるじゃないですか」


「ダメに決まってるじゃないですか!」


「いいんですよ。これまで学校を休んだことほとんどないですし」


「そういう問題ではなくだな...」


「あー聞きたくないです。説教なら元気になってからお願いします。今は寝ててください」


 そう言われて無理矢理寝かされるのだった。

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