第8話 じゃあ2人で始めよう
「もー!何でお姉ちゃん邪魔したわけ!?あのまま2人だったら...絶対いい雰囲気になってたのに...」
「はぁ...。あのね、風夏。添田くんは彼女と別れたばかりなの。もし仮にそういう関係になったからってそれは寂しさから来るもので、風夏だから求められたわけじゃないかもしれないよ?だから、付き合う前にそういうことするのはダメなの。もし本気で好きになってほしいならね」
「男性経験のないお姉ちゃんに言われても説得力ないから」
「な!!//そ、それは今関係ないでしょ!//私は一般論として言っただけで...別に経験則だなんて言ってないし...」
「私のこと気にするより自分のこと気にした方がいいよ」
「...うっさい!風夏嫌い!」と、拗ねてそのまま寝てしまう我が姉。
しかし、姉の言っていることはその通りだと思った。
私は私として愛してほしいし、好きになってほしい。
体だけの関係とかそういうのになりたいわけじゃない。けど、10年という月日が私を焦られてしまうのだ。
実際、この10年でお兄さんは大好きな彼女ができていたわけで...このあとだって魅力的な女性がお兄さんに言い寄らないとも限らない。
それなら...と思って色仕掛けに出てみたが、そもそも子供っぽいって思われてる私がそんなことをしてもむしろ逆効果ではないだろうか。
「...じゃあ、どうすればいいのさ」と言いながら、私はお兄さんに連絡するのだった。
◇
「添田くん。頼んでた資料は?」
「え?あのファイルに入ってなかったですか?」
「入ってないから聞いてるの。早く出して」
「ちょっ、待ってください...。いや、ファイルにありますよ。ほら」
「...あぁ、そう。じゃあいいわ」と、自分の非を認めずそのまま去っていくおばはん。
どうして人は歳をとると謝れなくなるのか。
その逞しい体には贅肉とプリン体とプライドがたっぷりと積み重ねられてきたことがよく分かる。
まぁ、そんなところを追求したところで全く別の論点にずらされて変に説教喰らうのがオチだ。我慢我慢。
そうして、いつも通り仕事をしているのだが、、、。
「お先でーす」と、辞めた人の分のを俺に押し付けて平気で定時ぴったりに帰るおばさん。
本当にこいつ...。と、睨みつけながら仕事をする。
少しの合間にコーヒーをぶち込み、二重でチェックをしながら入力し続ける。
あー、ゲシュタルト崩壊しそう。マジで1日数字見てると頭おかしくなるわ。
この仕事むいてねー。
気づくと時計は9時を回っていた。
勿論、会社には俺1人。
はぁ...。マジで何してんだろ。俺。
そうして、タイムカードを切って家に帰る。
ようやく携帯を確認すると、風夏からたくさんの連絡が入っていた。
『もう帰ってます?』『夜ご飯は食べましたか?』『おーい』『無視ですか?それとも女と遊んでるんですか?』『酷いです。嫌いです』『やっぱ大好きです』『会いたいです』
焼肉の後のパンケーキくらいしんどい文章ではあったが、この辛い日々を送る俺にとってはむしろちょうどいい甘さだったかもしれない。
『ごめんね。今から帰るよ。仕事忙しくて返事できなくてごめんね』と、返信するとすぐに『全然大丈夫です!おうちの前で待ってます!』
「...え?」という言葉が漏れる。
急いで地下鉄に乗り込み、家に行くと本当に風夏がしゃがんで待っていたのである。
「何してるの...風夏」
「何って、待ってたんです!今日は美味しいご飯が「違うだろ!...女の子が...こんな遅くに1人でいたら危ないだろ」
「...ごめんなさい。すぐに会いたくて...。もしかしたら嫌われたんじゃないかなって思って怖くなくて居ても立っても居られなくなって...。ごめんなさい。...うざいですよね。こんなやつ。彼女でもないのに」と、泣き始めてしまう。
その姿に心を打たれた。
まるで自分を見ているようだったから。
「...気持ちはすごく嬉しいよ。本当に。俺なんかのことこんなに好きになってくれてさ...。風夏の気持ちは俺...よく分かるから。俺も彼女にそんなことしてたからさ。今思えばうざかったんだろうなーって。それに向こうからしたら彼氏でも何でもなかったのに...だからね。一緒だよ」
「...でもわたしはッッっ、子供だし!」
「...そんなことないよ」
「そんなことあるもん!お姉ちゃん見てると余計にそう思うのッ!大人の余裕っていうか...、かっこいい女性っていうかっ!私にないもの全部もってて...嫌になるの...」
「...そうなのかもね。けど、風夏にしかないものだってあるだろ」
「ないよ!私は何にもないの...」
「...そう思うなら見つけていこう。2人で」
「...2人?」
「うん。付き合ってみよう?俺たち」
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